【 願いを叶えるのは流れ星? 】
◆VXDElOORQI




61 :時間外No.01 願いを叶えるのは流れ星? 1/4 ◇VXDElOORQI:07/08/06 17:47:09 ID:91s/6Msn
 ベッドに寝転がり、天窓から眺める夜空には見渡す限りの満天の星空。だったらいいな。実際にこ
こから見えるのは明るい星だけ。満天どころか半天すら怪しい。そんな都会の星空。
 それでも私は自分の部屋の窓から見る星空が好き。私だけの窓枠の形に切り取られた星空。
「あっ」
 その窓枠を横にもう一度区切るように一筋の光が流れる。流れ星だ。
「お、お願いしな……」
 そう思ったときにはすでに流れ星は消えていた。
「したかったな。お願い」
 流れ星に三回、お願いすれば叶うというあのお話は、願い事なんて叶わないということを言ってい
るのだろうか。流れ星が消えるまでに三回もお願いなんて言えっこない。
 また見えないかな。流れ星。三回は無理だけど、一回くらい言えれば少しくらい叶えて貰えるかも。
 そんな都合の良いことを考えながら、私は天窓から星空を眺める。

 しばらく、じっと星空と睨めっこしていた私の口からため息ともあくびともつかない息が漏れる。
「やっぱ流れ星なんてそう何度も見れないよね……」
 考えてみれば、物心ついたときから、この部屋の、このベッドで、こうやって星空を眺めていたの
に、流れ星を見るのはさっきがはじめてだった。
 もう寝よう。そう思って頭から布団をかぶる。
 布団をかぶり視界を真っ暗にしても、頭の中は流れ星と願いごとのことで一杯だった。
 私の片思いの相手。同じクラスの片山シンゴ君。
 そのシンゴ君と出来れば恋人になりたいなぁー。なんて、そんなことで頭が一杯になっていた。
 でも、いきなり恋人なんて無理だから、せめてお話が出来るようになりたい。挨拶をしたり、他愛
のない話をしたり、出来れば一緒に下校したりしてみたい。
 その程度の願い、自分の力で叶えなさい。なんて自分で思ったりもするけど、地味で引っ込み思案
な私は、朝の挨拶すら恥ずかしくてまともに出来ない。
 やっぱり、あともうちょっと、あと一分だけ空を見よう。
 そう思って私は布団から顔を出し、再び天窓に目を向ける。その瞬間――
「シンゴ君と仲良くなりたい! シンゴ君と仲良くなりたい! シンゴ君と仲良くなりたい!」
 流れ星が流れた。
 二回目を言ってる途中で流れ星は消えた。それでも勢いで三回目まで言い終えた私はもう一度布団

62 :時間外No.01 願いを叶えるのは流れ星? 2/4 ◇VXDElOORQI:07/08/06 17:47:32 ID:91s/6Msn
をかぶる。
「これでも、少しくらいは叶うのかな」
 流れ星が描く光の軌跡を思い出しながら、私は夢の世界へと飲み込まれていった。

 次の日、私は焦っていた。なぜか今朝は目覚まし時計が鳴らず、間に合うかどうかギリギリの時刻
に家を飛び出した。
「あーもう。なんでこうなるの!」
 流れ星にしたお願いなんてやっぱり叶わないのだろう。このままじゃシンゴ君と仲良くなるどころ
か、遅刻してしまう。
 私はいつもはゆっくりと歩く道を全速力で走る。ここの角を曲がれば学校はもう目の前だ。
「危ない!」
「えっ」
 ドン、と私は誰かとぶつかった。
「ご、ごめんなさい」。
「こっちこそ悪い。……ってなんだ井上か」
「え?」
 思いがけないところで名前を呼ばれ、私はぶつかった人の顔を見る。
「シ……片山君」
 思わずシンゴ君と呼びそうになるのをなんとか抑える。私と彼はそんなに親しいわけじゃない。
 いきなり現れた彼に驚いたのと同じくらい、彼が私の名前を覚えていたことが私には驚きだった。
「おう。おはよう。井上」
「お、おはよう」
 さっそく願いが叶ってしまった。
「大丈夫か? 立てる?」
 驚きと喜びで呆然としている私にシンゴ君の手が差し出される。いつまでも立ち上がらない私を心
配してくれたのだろう。
「え、あ、はい」
 私はその手を取り立ち上がる。
「怪我とかしてない?」
 私はざっと自分の体をチェックする。どこにも怪我はしていないようだ。

63 :時間外No.01 願いを叶えるのは流れ星? 3/4 ◇VXDElOORQI:07/08/06 17:47:49 ID:91s/6Msn
「だ、大丈夫です」
「じゃ急ごう。遅刻しちまう」
 シンゴ君はそのまま私の手を握ると走り出す。
「あっ」
 グンと引っ張られ私もつられて走り出す。

 チャイムがなる寸前にクラスついた私たちは急いで席に着く。
 私が座った瞬間、担任が教室に入ってきた。担任が話をし始めたかが私の耳にはなにも入ってこな
い。頭の中はさっきのことで一杯だった。シンゴ君と手を、握れるなんて。朝の挨拶も出来たし、や
っぱり流れ星にした願いごとが、叶ったんだろうか。
「井上」
 でも三回目までちゃんと言い終わらなかったのになぁ。どうしてだろう。
「井上」
 そこで私はやっと自分が呼ばれることに気付いた。
「は、はい! あ、ひゃ!」
 私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
 私の目の前には私の顔を覗き込んでいたシンゴ君がいた。
「大丈夫か? やっぱさっきどこか怪我でもした?」
「う、ううん。大丈夫」
「そっか。それよりさ、一時間目、自習だってさ」
「え? そうなの?」
 ボーっとしていたせいでまったく担任の話を聞いていなかった。
「なに? 井上聞いてなかったの? 真面目な井上にしては珍しいじゃん」
「そう、かな」
「そうそう。あ、そういえばさ、この前、田中とさ、服買いに行ったんだけど、あいつ服屋の服を筋
肉で――」


 ピピピ、ピピピ、ピピピ。
 私はのそりと腕を伸ばし、目覚まし時計のアラームを止める。

64 :時間外No.01 願いを叶えるのは流れ星? 4/4 ◇VXDElOORQI:07/08/06 17:48:08 ID:91s/6Msn
「……夢?」
 やっぱり。
「そうだよね」
 頑張って二回目の途中までお願いをした私に流れ星がご褒美をくれたのだろうか。
 それとも現実でも頑張れば夢みたいになれるという、流れ星のお告げかなにかだろうか。
 どちらにしても、流れ星の光が私の行く先を照らしてくれた。あの夢は、私の中の『なれたらいい
なぁ』という漠然とした思いを『なろう』という決意に変えてくれた。そんな気がする。
「ん。今日もいい天気」
 私は伸びをして、固くなった体を伸ばす。天窓から差し込む光が心地いい。
 私はいつもどおり朝の仕度をし、いつもどおり余裕のある時間に家を出た。曲がり角で誰ともぶつ
からず。何事も無く学校に到着し、教室の自分の席に座る。チャイムが鳴る寸前にシンゴ君が教室に
飛び込んできた。シンゴ君が肩で息をしながら自分の席についた瞬間、担任が入ってきた。
 そして話を始めた。どうやら一時間目を担当する先生が親族の不幸で急に休みになったらしい。
 担任はそのことと次の時間は自習だと言うことを告げると教室から出て行った。
「よし!」
 私は小声でそう自分に気合を入れる。
 高鳴る心臓を落ち着けるために大きく深呼吸をしてから席を立ち、シンゴ君の席に足を向ける。
 歩きながら昨日の流れ星の光を、夢を思い出し、自分の中を決意を再確認する
 シンゴ君は自分の席で別のクラスメイトの佐竹君と他愛のない話をしているらしい。もう話し声も
聞こえてくる。 
「そういえばさ、この前、田中とさ、服買いに行ったんだけど、あいつ服屋の服を筋肉で」
「あの、片山君」
「あー、えっと、い、井上さん?」
 井上であってたっけ? といった表情でシンゴ君は私を見て、そして佐竹君に確認の視線を送る。
 佐竹君は無言でコクコクと首を縦に振ってくれた。どうやら佐竹君は私の名前をちゃんと覚えてい
てくれたようだ。
「なにかよう?」
 シンゴ君は不思議そうな目で私を見つめている。
 私はもう一度、今度は小さく深呼吸をし、笑顔でシンゴ君を見つめ、言う。
「おはよう」



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