【 光は眩しいものです 】
◆ATZeVZxXmE




20 :No.07 光は眩しいものです 1/4 ◇ATZeVZxXmE:07/08/05 18:06:39 ID:RE6et5yE
  眩しかったから目を瞑ったら躓いた。慣れっこだちくしょう、大体いつも同じ所で躓く、流れが変わりそうだって所で、躓く。
光が余りにも眩しすぎるからだ、きっと。陰鬱な現実に、光が射しかけてもそれは道標にはなり得ない。
目を瞑っちゃあどうにもならねえ。そうやっていつも独り卑屈にじとじとしているの。
光は救いか、蜘蛛の糸、救世主か、もしやメシアかってのは大体理解できるんだけどね、思考の糸が解ける前に身体が反応してしまうんだ。
考えたとて、ぼくにとって肯であることが周りにとっては否なのだ。小さい頃からずっとそう。
今回だってそう。珍しく、あ、理解された!って感覚を得ることができたってのに、彼女は、離れていった。孤独。
うん、恥ずかしいけれど彼女は光だった、ぼくにとって。

 別れを告げたのは彼女からだった。ねえ、もう終わりにしましょ。って。
ドラマみたいな台詞を吐いたんだ、精一杯悲しむ素振りをしながら。ぼくは首を縦に振った。
伝えたいよ、自分がなにかに操られているようなあの感じ、頭がふやけてとろけて白くなって右脳も左脳も海馬もあと名前も解らない各部位が
ミキサーにかけられてミックスジュースになっちゃったようなあの感じ、暫ししてから訪れる言いようの無い虚無感の裏にある、それ。
口、あんぐり。
首を縦に振ったあと、自分の行動とそれによって訪れた結果を照らし合わせるんだよ、あれ、なんでこうなってんだ今、って。
セックスした後だったから倦怠感に包まれていて思考停止していたし、煙草がフィルターまで燃え尽きそうで桃色気分じゃなかったし、
彼女の背中のうぶ毛が気にかかって伝えようかどうか迷っていたし、そもそも愛し合った後に別れを告げられるなんて思ってもいなかったから!

 別れましょ、了解しました、ぼく、パブロフの犬!

21 :No.07 光は眩しいものです 2/4 ◇ATZeVZxXmE:07/08/05 18:06:58 ID:RE6et5yE
   だから炎天下、たまの休みだってのに散歩に出かけたんだ。
傷心小旅行と題した自意識過剰な男の神経ビンビンに張り巡らした散歩にさ。
行動範囲、半径五キロの小心者。週に一度の休みです。

労働基準法とか馬鹿が口にしそうな法律にきっと背いているけれど、ぼくはまあフリーターです、
社会の歯車希望者です、チャップリンの警笛を体言してますから、どうぞどうぞご自由にお使い下さいって感じで。
働くほどに対価も増すしね、快感、通帳に並ぶ数字! 

結果が素直に現れるのは、金、金、金。愛情とか友愛なんてものは信用できない。
けれど、憧れちゃう。
不確かな感じに憧れちゃう、憎い憎い憎い。
とは言うものの、工場勤務は脳に来るんですよ。
ソフトクリームのコーンの検品なんて其処ら辺に潜んでいる不法滞在の外国人にやらせればいいのに。
中国人とかさ、韓国人とかさ、イスラム教のやつらとかさ。純日本人のぼくには勿体無いよ、けどけど、給料良いよ! 

 コンベアに乗って流れてくるコーンを手に取り確認する。よし、これも大丈夫!って、たまにやりがいを感じる自分を卑下する、
そのエクスタシーったらないよ畜生。深夜、寂れた建物内での白熱灯と、申し訳程度の冷房下での仕事は太陽への免疫を無くすみたいで。
ほら、今それが証明された、太陽のばか、夏のばか。やけに嫌な汗が流れてくる、家から出て十分程しか歩いていないのに、
頭がクラクラするよハニー。


22 :No.07 光は眩しいものです 3/4 ◇ATZeVZxXmE:07/08/05 18:07:17 ID:RE6et5yE
  この場合のハニーってのは誰を指すんだ、彼女にはもう「元」という冠が付加される訳だからな、あ、今、彼女のこと頭に無かった!
つーことは、ずっとこんな風にぶつくさ考えてれば彼女のことを忘れられるのかしらん、って、
束の間、ブーン!って排気ガス巻き散らかしちゃって、トラックよー邪魔だ、この野郎。

 行くところなんて決めていなかったから、トラックの残した轍を辿るように歩いてみよう、
って言っても地面はコンクリートで舗装されているから跡なんか残らないんだけれど、まあ気分的にそっちのほうが盛り上がるかなって。
広い長い坂道を、コンベアに乗っかったコーンの気持ちになって歩いてみたよ。
真っ直ぐ続く坂道を、摺り足で歩いてみたよ、虚しいね、ガードレール万歳。
向日葵が咲いていたよ。

僻地から東京に出てきた奴らは、東京の夜空は星が無い、だから人々が冷たいってしたり顔で言うけど、
真昼間だって焼けたコンクリートのせいで人々は冷たいよ。
稀にみる情緒とか人情とかを靄にしちゃうコンクリート! リメンバー昭和! 思ひ出ぽろぽろ! 汗だくだく! 

23 :No.07 光は眩しいものです 4/4 ◇ATZeVZxXmE:07/08/05 18:07:34 ID:RE6et5yE
 タオル持ってくればよかったな、奥田民生よろしく頭に巻きたいな、こうも暑いと。
暑い暑い暑い、ひー、暑い、暑いな畜生、なんだこの野郎、って太陽を睨んだら眩しくて目を瞑ってしまいました、
瞼の裏の闇に一つ二つ、小さな星、いや、光? 
決定、光です。異論は挟ませませんよ、答えは一つで良いのです、ややや、やっぱり答えは曖昧な方が良い、曖昧LOVE。

目を開けた、右手で擦った後、開けた。
光はあったよ、確かに。追いかけてみる、ちょっとだけ。
今日も彼女のこと、ほんのちょっと、ほんのちょっと思い出したけれど、許せたよ、そんな自分を。湿っぽい自分をね。
騙されてみようか、この温い空気と夏の光に。

光はやっぱり眩しいね、けどもう目は瞑らないぜ、縋ってみる、おーけい。
あ、けどさっき見えた光は目を瞑った故に見えたもので。ああ、もうどうでもいいや。 
日常。さよなら、よれた向日葵、縺れる足。
届かないとは解っていたけれど虚空に手を伸ばしてみた、そしたら太陽の光が眩しくて目を瞑ったら躓いた。


(終了)



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