【 スターライト 】
◆/SAbxfpahw




17 :No.06 スターライト 1/3 ◇/SAbxfpahw:07/08/05 18:04:55 ID:RE6et5yE
 懐中電灯の光が合図だった。
 ライトが二階の窓に当たる。タカシはカーテン越しにそれを確認すると家を抜けだした。
 外でライトを当てていたマサキと合流すると、門に置いてある
自転車に乗り、目的の丘の方角へと向かう。
 この丘の頂上は公園になっており見晴らしも良い。夜は人気がなく
“たまる”のにはちょうどいい立地だった。
 丘に着くなり自転車を乗り捨て、コンクリートの地べたに座る。
 マサキがタカシにタバコを勧める。彼は初めて吸ったのでむせた。中学一年生の夏だった。
 マサキが口から煙りを吐きながら喋る。
「なあ、こんな話お前知ってる?」
 タカシはまだ長いタバコを地面に擦り付け言った。
「何が」
「猿と鏡の話」
「何それ」
 マサキはよくこういう話をしたがる。タカシはその話を聴くのがそれほど好きではなかった。
「これは廃園間近の動物園のお話です」
「おいちょっと待て。まさか怖い話じゃないだろうな」
「大丈夫だから、黙って聞いてろ」
そう言って嫌らしく笑った。
「だから俺そういう話駄目なんだって」
 マサキは気にせず、タバコを吸いながら話を続ける。
「その動物園、昔は大繁盛だったのですが、最近は飽きられ全く
流行っていませんでしたから、廃園に追い込まれてしまいました。
そこでもう一度盛り返そうと、動物園の人達は考えました。」
 タカシは耳を押さえて「あー、あー、聞こえない」と呟いていた。
 マサキはタバコの灰を落としつつ続きを話す。
「動物園の人達は名物になる見世物を考えました。試しに猿に鏡を
見せてみました。猿は鏡に映った自分を自分だと気付かず攻撃しました。
『これはおもしろい』と見ていた飼育員の一人は言います。
猿の仕草が可愛らしいのが評判になり、動物園には客足が戻ってきました」

18 :No.06 スターライト 2/3 ◇/SAbxfpahw:07/08/05 18:05:12 ID:RE6et5yE
 タカシは耳を押さえながらマサキの顔を見る。口が止まっているの
を確認すると耳から手を離し、「もうおしまいか? ちょーハッピーエンドだったな」と
安堵して愚痴を漏らす。
 マサキは一本目を吸う終え、二本目のタバコを取り出すと、口にくわえ火を付ける。
「その夜、一人の飼育員が園内の見回りをしていますと」
「まだ続くのかよ」
再びタカシは耳に蓋をした。
「その鏡の置かれている檻から不意に光がピカッと照りました。
気になり飼育員が近付いてみましたが、一枚の鏡が置いてあるだけで、
怪しいことは特にありません。念には念をと檻の中に入り、ぐるぐると
一周してみましたが何もありません」
 タカシは耳を塞ぐのに飽きたのか、懐中電灯のライトを夜空に当てて遊び、気を紛らわしている。
「きっと月の光が鏡に反射しただけだろうと思い、帰ろうとしていたところ、
一瞬、本当に一瞬鏡をちらっと見ました」
「すると!」
 急に大声を出され、タカシは驚いてマサキの方を向くと、ライトがマサキの顔にちょうど当たり二度驚いた。
「すると、鏡に映っている飼育員の左肩に鬼のような形相をした顔が
浮かんでいるのが見えました。あまりのおそろしさに飼育員は一歩も
動くことができません。その時彼は思いました。猿は鏡に映った自分を
攻撃していたのではなく、こいつを肩から振り払おうと暴れていたのかと。
そのあと彼がどういうわけか、行方不明になってしまいました。猿はその日以来
鏡を見ても暴れなくなり、動物園はその影響で廃園になったそうです」
「おいマサキ、お前の顔の横に」
「うわっ! あちちっ、あぶねえ」
 タカシはささやかな逆襲ができて、マサキは太股に落ちたタバコを払いながら複雑な顔をして、笑いあった。

19 :No.06 スターライト 3/3 ◇/SAbxfpahw:07/08/05 18:05:41 ID:RE6et5yE
 タカシは先程の様にライトを夜空に当てると、星の光と懐中電灯
の光を重ねた。マサキも真似をする。
 タカシが言った。
「これってさ、宇宙人から見たら俺達が星だよな」
「なんだ俺、スターだったのか」
「だな。俺達お星様だわ」
そのあともたわいない話を続けた。


 二人はタバコの吸い殻の後始末をすると、明日も学校があるからと帰路につく。
 マサキと別れ一人になった帰り道の途中、タカシはカーブミラーを見ると、
自転車の漕ぐスピードが上がるのであった。家には鬼の形相をした母親が
待ち構えているのも知らずに。
 その後、タカシの頭には星が飛んだのであった。



【完】



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