【 一夜 】
◆fifP1nQ.wA




10 :No.04 一夜 1/3 ◇fifP1nQ.wA:07/08/04 20:37:32 ID:mf4ISePq
花恵は今日もお酒を飲み机に突っ伏し懺悔する。
「またくだらん男とやってもうた〜」 なかなか衝撃的な告白。
僕と花恵は友達だ、だけどものすごく仲が良いって訳じゃないと思う。
同じ大学に通っているけど滅多に会わないし、たまに見かけても用事が無い限りはそんなに話したりしない。つかず離れずな関係だ。
 花恵は夏になると今日みたいに僕と酒盛りをすることがある、そして酔っ払って机に突っ伏しては僕に懺悔するのだ。内容はいつも一夜の過ち。
花恵は夏になると色んなタガが外れるらしい、暑さに頭を狂わされて男と熱いレスリング。
僕は若い男女ならそんな事よくあるように思うけど、花恵はそんな自分が許せないらしい。
普段は真面目な奴だからな、こいつ。だけど嫌ならやらなきゃいいのに。
全く女って言うのは矛盾だらけな生き物だよ。机に突っ伏してる内に眠ってしまった花恵の寝顔をつまみに僕は苦笑しながら焼酎をちびりと流し込む。
そして良い具合の高揚感に身体を預けて僕たちの出逢いをうつらうつらと思い出していた。
 僕と花恵の出逢いはまるで往年のフランス映画の様な…出逢いではなく非常にしみったれた出逢いだった。フランス映画よりは断然インパクトのある出逢いではあったけど。
 大学一年の頃、僕は大学のゼミが終わって自分のアパートに帰ろうと構内の自転車置き場に向かってると花壇で大の字になって寝てる女がいた、それが花恵だった。
その頃は新入生歓迎会の季節でよく近くの大きな公園で花見が行われていたが花恵はどうやら自分のサークルの歓迎会で酔っ払ってる内に大学の構内にきて花壇で意識を失った様だった。


11 :No.04 一夜 2/3 ◇fifP1nQ.wA:07/08/04 20:37:52 ID:mf4ISePq
正直言ってそのまま見捨てて帰りたかったが夜になると冷え込むし、何よりこのままで眠っていると暴漢に襲われるかもしれない。そうなってもし新聞にでも載ったら夢見が悪い。
僕はしぶしぶ花恵をおぶって自分のアパートまで運んで花恵を自分のベッドで寝かした。
普通の男ならこれ幸いにと襲ったりするのかもしれない。だけど僕は捕まるような事はごめんだ。一時の快楽の為に無用な後悔はしたくない。
そんな事を思いながらその夜は床に雑魚寝して眠りについた。
そして朝、先に起きた花恵に起こされて僕は昨日の事を説明する。その頃は花恵もまだ可愛くて顔を真っ赤にして首をぶんぶん振って謝るから僕はビジュアル系バンドのヘッドバンキングを思い出して思わず笑ってしまった。
そんな所から僕らの交流が始まったんだよな、今思い出しても変な出逢い。
 僕たちはサークルも同じだったわけじゃないし接点はそんなに無かったから特に親交を深めるなんてことも無く、お互いに別々の日々を過ごしていた。
だから花恵が二年の夏に沢山のビールと珍味を持って家に来た時は何故?という疑問が浮かんだよ、未だにその疑問は払拭されないけど。
 花恵は美人だし姉御肌な所もあって大学では慕われてちょっとした人気者だった。
学校のアピールとして地元限定のCMに出た時なんて花恵目当てで大学のオープンキャンパスにカメラ小僧が来たらしい。
そんな花恵だから何も僕じゃなくても他に色々話せる友達がいそうなもんだけど何故か花恵は僕にだけ自分の醜態を話すのだった。花恵、お前はいまいち掴めない女だ。


12 :No.04 一夜 3/3 ◇fifP1nQ.wA:07/08/04 20:38:08 ID:mf4ISePq
眠り込んだ花恵を見ながら考え込んでいるとカーテンから光が差し込んできた。
「もう朝か…」夏は朝がくるのが早いな、得したような損したような気分。今日は割りと損した気分かな。そんな事を考えながらカーテンを開ける。夏の輝く日差しが花恵に降り注いで花恵が少し身をよじる、そんな姿を見てやっぱりちょっと得した気分になる僕がいた。
夏は気持ちが移ろいやすい、だから今少し花恵に感じた愛しさは花恵が目覚めた時には消える。それくらいの気持ちなんだ。
花恵から目を離す、そして窓を開けると涼しい風と日差しが鋭く僕の身体を抜けていった



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