【 苦手な人 】
◆dT4VPNA4o6




28 :No.07 苦手な人 1/5 ◇dT4VPNA4o6:07/07/29 19:57:20 ID:QuTm8YY/
 深夜の某地方都市。行きかう車もまばらな国道を、二台の車が猛スピードで飛ばしていた。先を行くのは国産セダン、
それを追うのは見るからに怪しい黒塗りのBMW。ちなみにこの二台のはるか後方で同じようなBMWが数台、分離帯や電柱に突っ込み煙を上げていた。
 その生き残りの一台から男が身を乗り出している。右手にはベルギー製のサブマシンガン。
「なんか、最近、停車目的じゃなくて本気で狙ってないですか、連中」
「まあ、コレで六度目だからねえ、この国では。おっと……」
 会話をさえぎるように銃弾がリアウインド降り注ぐ。だが銃弾がガラスを貫通することはなかった。
「フム、ポリカーボネイトならP90でも止るか。やはり防弾にして正解だったな」
「感心してないで早く終わらしてください! タイヤに喰らったらどうするんですか?スピンの対応なんて出来ませんよ!」
「落ち着きたまえ、甘垣君。折角の実験の機会なのだから少し待ってくれたまえ。ああ、コレが良いな」
 そう言いながら助手席の女は、鞄から親指の先ほどの球状の飴を取り出した。
「また、飴、ですか……、さっきみたいに爆発するんですか?」
「いや、ただの飴だ」
 そう言って、女は窓から身を乗り出すとその飴を後方のBMWパチンコを使って発射した。
 ゴンッと鈍い音がして発射され飴はBMWのボンネットを貫通。喰らった衝撃にハンドルを取られ大きくスピンしたBMWはそのままガードレールに衝突して動かなくなった。
「どう見ても普通の飴じゃないんですが……」
「なに、少し硬いだけだ。それより終わったようだな」
 女は後ろを見ながら思い出したようにシートベルトを着ける。減速させながら甘垣と呼ばれた男が話しかける。
「渋川さん、またモサドって連中ですか?」
「確認してないが、まあそうだろう。CIAには鈴をつけているし、MI6とSVRは私に構っているほど暇じゃないはずだ。本国はまた近々忙しくなるのだろうさ」
「巻き込まないで欲しいですよね……特に僕を」
「君、最近遠慮が無いな。まあ、確かに私が原因で巻き込んでいるのは認めるがね。――ああ、そこで止めてくれたまえ」
 渋川と呼ばれた女はそう言って車を停車させた。すばやくシートベルトを外して車から降りる。
「市ヶ谷に急用が出来た、車は君に預けておく」
 市ヶ谷と言われてもピンと来ない甘垣を残して、渋川はタクシーを捕まえて去っていった。

 翌日、甘垣は製菓班研究室のソファーの上で眼を覚ました。だでさえ日頃から乱雑なこの部屋は、昨晩の騒動で一層酷い状況だ。
 彼は別に国家機関の構成員というわけではない、ごく普通の中規模の製菓会社の正社員だ。問題があるのは彼の上司である渋川だった。
 控えめに見ても渋川は天才である。それも異常なほど。それを狙う各国の諜報、特殊機関からその身柄を狙われている.。
 どう考えても荒唐無稽だが、甘垣自身、初対面で渋川のその才能の一端を見せ付けられ更に実際に武装した工作員に追いかけられると納得せざるを得なかった。
 何もすることが思いつかずとり合えずニュースでも見ようとテレビを点けると、緊迫した面持ちでアナウンサーが何処からかレポートの最中だった。

29 :No.07 苦手な人 2/5 ◇dT4VPNA4o6:07/07/29 19:57:44 ID:QuTm8YY/
『こちらは千代田区のイスラエル大使館前です。現在大使館は警察によって封鎖され、中の様子をうかがうことは出来ません。大使館を襲撃した犯人は逃走したとの事です』
 チャンネルをつまみ食いして甘垣が得た情報を総合すると、つい二時間ほど前市ヶ谷のイスラエル大使館に何者かが侵入し大使館員を全員昏倒させ逃走したというものであった。
 激しい脱力感に見舞われながら、それでも無事でありそうな事に一応安堵した甘垣は渋川が出勤する前までにこの状況を打開すべく荒らされたオフィスの整頓に取り掛かった。
 数時間後あらかた片づけが終わった頃、研究室に一人の人物が訪ねてきた。
「あのー、すみませーん」
 どこか間の抜けた女性の声に甘垣が応対する。
「はい、どちら…さま……」
 甘垣はそこで硬直してしまった。
 ドアの先にいたのは正しく誇張抜きに美女と言って良いほどの美しい女性だった。上司の渋川も美人だが彼女がややきつめの印象があるのに対し、この女性はマイナスの印象がまったくない。
「あの、どうかされました?」
 呆ける甘垣に女性が声をかける。
「あ、いえ、な、何も。あ、その何か御用ですか?」
「あの、エリちゃんは居ますかしら?」
 聞きなれぬ固有名詞に再び甘垣が呆ける。
「エ、エリちゃんとは、えーと誰のこと、です、かね」
 困惑しつつ応答した甘垣に女性は、あら、と言ったような表情を浮かべた。
「ごめんなさい、えーと渋川は居ますかしら?」
「ああ、その渋川はまだ出勤しておりません。もう直ぐ来ると思うのですが」
「申し訳ないけど、待たせて貰ってもよろしいかしら」
 そう笑顔で申し出られると断りようがない。オフィスの修復がほぼ終了している――むしろ前より綺麗になっている――のを確認した甘垣は件の女性をオフィスに通した。

「どうぞ、紅茶です」
「まあ、ありがとう。フフッいい香りね」
 万一の来客用に買っておいた紅茶を出たは良いが、手持ち無沙汰な甘垣に女性が話しかける。
「貴方はエリ……ごめんなさい、渋川の同僚の方?」
「いえ、部下です。一応」
「あら、あの娘の下じゃ色々大変でしょう?」
「ええ、まあ、慣れましたけどね」
「フフ、御免なさいね。昔から行動力のあるのはいいのだけれど……」


30 :No.07 苦手な人 3/5 ◇dT4VPNA4o6:07/07/29 19:58:00 ID:QuTm8YY/
「あの、失礼ですが。貴方は渋川とはどのような……」
 甘垣がそこまで言ったとき、オフィスのドアが開いて、渋川が入ってきた。珍しく随分慌てている様子だ。
「甘垣君、緊急事態だ。私はこれから暫らく海外に脱出、じゃなくて出張するから君は……」
 そこまで言って渋川は眼を見開いて絶句した。視点は来客の女性に釘付けである。
「ゆ、由利、姉さん……何でここに」
「あ〜エーリーちゃーん! 会いたかったわあ!」
 由利姉さん、そう呼ばれた女性はソファーから立ち上がると未だに入り口に立ち尽くす渋川に抱きついた。渋川は何か達観したよう表情だ。
「あー、はいはい、再開は私も嬉しいからとり合えず離れてくれませんかね?」
「あら、相変わらず冷たいわねえ。五年ぶりの再会よ」
「二年ぶりです。一昨年ロンドンで会ったでしょう」
「だって、あの時はお友達を紹介しようと思ったらエリちゃんどこかに逃げちゃったもの」
「たとえ下心がまったく無かったとしても、MI6の高官と会うつもりはありません」
 そう言いながら渋川はやんわりと由利を引き剥がし、甘垣に近寄った。
「何時ごろ来たのだ」
「つい、さっきですが」
「何も触らしてないだろうな」
「ええ、そこのソファーに座っていてもらいましたが」
「そうか、ご苦労」
 それだけ聞くと渋川は再び由利の方に向き直る。
「で、姉さん。何用です? 私はこう見えても忙しいのですがね」
「んふふ、久しぶりに妹達の顔が見たくなったからこうして皆のところを回ってるの。エリちゃんが最後よ」
「せめて連絡をください。茉利姉さんから連絡があったから、まだある程度覚悟は出来てましたが……」
「あらー? どういう意味かしら」
「何でも。ああ、とにかくまだ仕事がありますから。鍵を渡しますから家に入って置いてください」
「まあ、止めてくれるのね。うれしいわ」
「どうせ、どうあっても泊まろうとするのでしょう? タクシーを呼びますから」
 そう言って渋川は甘垣にタクシーを手配するよう促した。
 由利を見送ると渋川は自分のデスクに突っ伏した。甘垣がコーヒーを持ってきても反応が無い。
「あの、コーヒーですが」
 声をかけると、ようやくノロノロとコーヒーを口に運んだ。そして暫らく呆けた後深々とため息をついた。

31 :No.07 苦手な人 4/5 ◇dT4VPNA4o6:07/07/29 19:58:20 ID:QuTm8YY/
「あの、そんなに嫌なんですか? その、お姉さんと会うのが」
 普段からは想像も出来ない渋川の様子に甘垣が思わず尋ねる。
「いや、別に……嫌というわけでは。嫌悪している訳ではないのだが、まあ、その、苦手というかなんと言うか。とにかく疲れるんだあの人といると、色々」
 と何とも歯切れの悪い答えが返ってきた。
 更に数時間後、電話が鳴った。
「はい、金平製菓・製菓班ですが。…………少々お待ちを」
 顔をしかめた甘垣を見て何事なのか察した渋川が、受話器を受け取る。
「何処の誰かね? モサド残党? BND? それともDGSEかな? ああ、日本語で話したまえよ」
 姉妹よりはるかに怖いはずの特殊機関からの電話に渋川は余裕で応答する。だが、今日に限ってはそうは行かなかった。
「な、待ちたまえ! 君たちは一体何をしているのか……。バカな、彼女は私とは関係ない! 今すぐに、」
 そこで電話が切られたらしく渋川は苛立ちを隠さず受話器を荒々しく戻した。
「ど、どうしたんですか?」
「モサドの残党が朝の仕返しに由利姉さんを人質にして、私の自宅に立て篭もった。開放して欲しければ投降しろだと」
「そんな、助け……ますよね?」
「必要ない、どうせもう終わってる。一応様子は見てくるが、君は仕事が終わったら帰りたまえ」
「そんな、急がないと!」
「終わっているのはモサド達の方だがな」
 えっ、と言って言葉の意味をゆっくり租借する甘垣を尻目に渋川はオフィスを後にした。
 
 渋川が自宅に戻ってみると、玄関先で三人の男が昏倒していた。軽くため息をつきリビングに向かうと、由利がソファーで寛いでいた。
「あら、お帰りなさい。ところであの人たちはお友達かしら? 無作法だったからお仕置きしておいたのだけど」
「いえ、ただの命知らずです。知り合いに引き取ってもらいますから」
 そう言って電話に手を伸ばそうとした渋川だったが、ふと眼の端に入ったからのビンをみて顔色を変えた。
「ね、姉さん。このビンは、一体……」
「ああ、お土産に持ってきたのだけれど、一つあけちゃったわ。ごめんなさいねえ」
「それは構いませんが、あの、つまり姉さんは酔ってるのですか」
「ウフフ、どうかしら?」
 ふと、渋川がリビングの棚に眼をやると引き出しが一つ少しずれていた。
『ああ、あそこには確かエーテルを染込ませたハンカチがあったな……』


32 :No.07 苦手な人 5/5 ◇dT4VPNA4o6:07/07/29 19:58:41 ID:QuTm8YY/
酔っていない姉が何故構成員を無力化できたかの答えを、自分のために無理やり作ろうとした渋川だった。その背後から由利が突然抱きついた。
「なっ、姉さん! ちょっと……」
「エリちゃん、危ない人と付き合っちゃだめって言ったでしょう?」
 そう言う由利の手は、するすると服の下から忍び込みフロントホックのブラジャーを慣れた手つきで外してしまった。
「ちょ、やめてくださいっ……」
 抵抗しようと渋川がもがくが、その行動もむなしく。豊満な胸をまさぐられる。
「エーテルなんて隠し持って何に使うのかしら? お姉ちゃんを心配させないで欲しいわぁ」
 力自体は大したことが無いのに、体の動きを完全に封じられ渋川は心中でため息をついた。
『昔からそうだ、なぜか酒が入ると異常に強くなる……。まったく興味深いことだが……』
「人の話きいてる? お仕置きが必要なのはエリちゃんもかしらあ?」
 そう言いながら今度は下腹部に片手を回してくる。さらにその手はショーツの中に侵入していく。
『だが、突然色情狂になるのはどういう事だ!』
「き・い・て・る・か・し・ら?」
「ひゃっ……!」
 突然敏感なところを刺激されて、思わず変な声が出てしまう。
「聞いてます、変な連中とも付き合いませんから、手を離してください。……ちょ、やめ」
「今日の人たちはエリちゃんにとって迷惑な方々?」
「そうですよ、んっ……撃退してくれたことには感謝します」
 これについてはあっさり肯定する渋川。
「そう、じゃあご褒美が欲しいわね……フフ」
「な、なんですか、あっ、そこはやめ……て」
 性感帯をまさぐられながら、早くこの状況を脱したい渋川は答えを促す。
「そうねえ……、五年ぶりの姉妹のス・キ・ン・シ・ッ・プ」
「えっ?、あっそこは、ひゃ……くうぅぅぅ」
 下半身の特に敏感なところを刺激され、渋川はあっさり絶頂に達する。
「はい、いっかいめ〜。エリちゃん何回までもつかしら?」
「な、何が、何回なんです?」
「失神するまでよ、フフフ」
「もう……好きにしてください……」
 再び全身をいじられがら、渋川は完全に脱出を諦めたのだった。夜はまだ始まったばかりである。 (終)



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