【 茜色に染まるのは空と教室と―― 】
◆VXDElOORQI




89 :No.22 茜色に染まるのは空と教室と―― 1/3 ◇VXDElOORQI:07/07/22 23:49:24 ID:GvVVMK6k
 放課後。チエコは窓際にある自分の席からボーっと校庭を眺めている。そこには家路を急ぐ生徒。
部活に精を出す生徒などが溢れている。
「チエー。帰らないのー?」
 チエコの友人のマユが不意にチエコの視線を遮るように顔を覗き込む。
「うん。もうちょっとしたら帰る」
「ふーん。じゃ私も待ってよっと」
 マユはチエコの前の席の椅子に勝手に腰を下ろすと、チエコと同じように校庭を眺める。
「あっ……」
「ん? どしたの?」
 チエコは目に涙を少しだけ溜め、校庭をじっと見つめている。
 マユはチエコの目線の先を追う。そこには一組をカップルが手を繋いで校門に向かって歩いていた。
「あの二人がどうかし――」
 マユが視線をチエコへと向けると、そこには唇を噛み、涙が零れ落ちるのをじっと我慢しているチ
エコの姿があった。マユはそれ以上なにも言わず、黙ってそれを見つめていた。

 二人だけが残る教室は夕日で茜色に染まり、教室と同じように二人もまた茜色に染まっている。
「マユ」
 少しだけ目が赤くなっているチエコが沈黙を破る。
「ん?」
「帰ろっか」
「うん」
 二人は鞄を手に取ると茜色の教室を出た。

 二人は並んで校門を抜ける。まだ校庭からは運動部が練習する声が聞こえてくる。
 特に会話を交わすことなく、長くなった影を引き連れ、チエコは下を、マユは教室より鮮やかな茜
色に染まっている空を眺めながら歩く。
「さっきのね。幼馴染なんだ」
 先ほど同じようにチエコが沈黙を破る。
「うん」
「あ、男の子のほうね」

90 :No.22 茜色に染まるのは空と教室と―― 2/3 ◇VXDElOORQI:07/07/22 23:49:44 ID:GvVVMK6k
「わかってるよ」
 マユは少しだけ笑みを浮かべ答える。
「うん。それでも彼とはずっと一緒だったんだ。幼稚園の時も、小学生の時も、中学生の時も、ずっ
と一緒だった。クラスもずっと一緒だったんだよ? すごいでしょ」
 チエコは無理に作った笑顔をマユに向ける。
「うん」
「高校も彼がここに行くって言うから、ここにしたんだ。でも高校で、クラスが分かれちゃって、そ
れからあんまり話もしなくなっちゃった」
 また顔を地面に向けるチエコ。
「それでこの前、久しぶりに話をしたら彼、彼女出来たんだって」
「それが……」
「うん。さっきの子。初めて見たけど、私よりずっと可愛かったね」
「そうだね」
「もうっ。マユったら」
「あはは。ごめんごめん」
 そこでやっと二人から笑い声が漏れる。
 チエコはマユと同じように視線を空へ、茜色に染まった空へ向ける。
「ずっと一緒にいても、時間は私の味方じゃなかったみたい。誰よりも彼のこと知ってるつもりだっ
た。私のことを誰よりも知ってるのは彼だと思ってた。でも違ったみたい」
 マユはなにも言わずにただ空を見つめる。
「最初は彼に彼女が出来ても良いと思った。私と彼の関係は変わらないって思った。それでも時間が
立つたびに、彼は私の知ってる彼じゃなくなっていく。彼の中の、私と彼が共有していた部分が減っ
ていく」
 そこでチエコはいったん言葉を止め、大きく息を吸い、静かに吐き出す。
「それでもいいって何度も思った。彼の中の私が減っていっても。私の中にはずっと変わらずあるか
らいいって思った。でも……」
「でも?」
「そう何度思っても、やっぱり」
 チエコは顔を前に、真っ直ぐ前に向ける。
 マユはチエコの横顔を見つめ、「うん」と一回頷くと、バシッとチエコの背中を叩く。

91 :No.22 茜色に染まるのは空と教室と―― 3/3 ◇VXDElOORQI:07/07/22 23:49:59 ID:GvVVMK6k
「骨は私が拾ってあげる。んで、骨と一緒にカラオケオールにも付き合ってあげる。割り勘だけどね」
「うん。ありがと」
 二人はいったん立ち止まり、顔を見合わせ微笑む。
 そして、二人は前を向いて歩き出した。長い長い影を引き連れ、その身を茜色に染めながら。





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