【 悪魔も天使 】
◆/SAbxfpahw




37 :No.10 悪魔も天使 1/3 ◇/SAbxfpahw:07/07/22 20:40:45 ID:GvVVMK6k
今私は背中に生えている翼を使い空を飛んでいる。
頭上には金色の輪が浮いており、左手には弓矢を握って離さない。
人間は僕の事を天使と呼ぶ。
絵画にも度々登場する僕は、画家の妄想にも関わらず意外によく描けているなと思う。

天使の仕事は人間を幸せにすること、そして僕は人々の恋を成就させるため人間界へと向かっている。
成就させる方法は簡単。人間の心をこの弓矢で射貫くだけだ。
でもはっきり言って面倒くさい。これも仕事と割り切るしかないか。
ああ、人間なんか滅べばいいのに。
そう考えている時黒い物体が視界に入った。
あれは悪魔、と言うより女型だから小悪魔かな。僕の悪意を感じて文字通り飛んで来たか。
彼女は僕の前に来るなり迫るように喋った。
「天使くん。今、悪いこと考えてたでしょ」
小悪魔のかん高い声が頭に響く。
「考えてないよ」
今更嘘をついても意味がないのにとっさにしてしまった。僕は天使失格だな。
「私にウソをついてもダメ。心が読めるんだから」
「ゴメン。分かってたんだけど、つい」
「ダメな天使ねえ。そんなんじゃいつか堕天使になるわよ」
なんだろう、これでは立場があべこべだ。
「まあいいわ。今日は許してあげる。次またそんな事考えたら、あなたの魂を滅ぼすからね」
「うん、分かった」
小悪魔め、今度会った時はこの矢で頭撃ち抜いてやる。あっしまった。
「天使くん。何か言った?」
「いえ、何も言っておりませんが悪魔様」
「あっ、そう。私の聞き間違いだったのかしら」
助かった、もう悪いことは考えないでおこう。よし仕事仕事と。

38 :No.10 悪魔も天使 2/3 ◇/SAbxfpahw:07/07/22 20:41:01 ID:GvVVMK6k
気分を切り換えると鳥のように羽をたたみ、急降下で上界から人間界へと向かう。
人々がひしめく街の中から良い雰囲気のカップルを探す。
三十分ほど飛び回っていると見つけることが出来た。
しかし今回は男と男か。確か同性はタブーだったような。まあいいや愛は障害があってこそ燃えるのだ。
僕は狙いを定め力いっぱい弓を引くと、矢が空気を裂く音を響かせ、そして男に当たった。
よし、任務終了。今回は楽な仕事だったな。
上界へ戻ろうと翼を広げ上を向いた時だった。
「イタッ! なんだこれ」
その声に驚いて男の方を見ると、彼が心に刺さった矢を握っている。
そんな、人間が気付くはずが――まさか霊感があるのか。
もし人間に見られたのがばれたら天使界から追放されてしまう。
どうしよう困った。もしものときは彼を殺すことも視野にいれておく必要があるな。
そう思ったときだった。

39 :No.10 悪魔も天使 3/3 ◇/SAbxfpahw:07/07/22 20:41:13 ID:GvVVMK6k
上空から黒い物体がもの凄いスピードで、何か喚きながらこちらに向かってくる。
「こらっ。天使くんまたいけないこと考えてたでしょう!」
男は突然現れた小悪魔を見るやいなや
「あっ悪魔がでた。殺される。た、助けて――」
と叫び慌てて逃げていく。もう一人の男もつられて逃げた。
「何よあの人間失礼しちゃうわね。私のどこか恐いのよ」
彼女のおかげで、彼の頭の中は心に刺さった矢よりも、悪魔に襲われそうになったことでいっぱいだろう。
なんとか天使界追放は免れられそうだ。
「あ、ありがとう。悪魔さん」
「なに、私君にお礼言われるようなこと何かした?」
「いや別に」
彼女は僕の心を読んだようで少し狼狽して言う。
「ああそういうこと。でも私悪魔だからそういうの困るのよね、立場的に」
彼女は僅かに思案したのち、笑顔をつくってこう言った。
「でもたまにはこういうのも良いかもね」
初めて僕は悪魔に好意を持った気がする。悪魔はみかけによらないかもな。
「ありがとう」
彼女の呟きが聞こえたような気がした。


【完】



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