【 遠く楽園のあなたへ 】
◆5J60C42RKY




35 :No.09 遠く楽園のあなたへ 1/2 ◇5J60C42RKY:07/07/22 20:22:56 ID:GvVVMK6k
祐介が倒れている。なぜだろう? さっきまで横を歩いていたのに。生々しいブレーキ痕、駆け寄る運転手、集まる野次馬。答えを
出すには十分だ。しかし、私の頭は一切の思考を止めた。そして、静かに唐突に世界は暗転した。

眩しい。不自然なまでに白い壁、萌え出でる瑞々しい若葉。奇妙な人工と自然のコントラス…… 祐介! 祐介は大丈夫だっただろ
うか? 私はまだ重い足を脇に降ろしふらつきながらも駆け出そうとした。祐介に会いたい! その時、病室の扉が開き母が入ってき
た。
「母さん。祐介は?」
私はすがるように母に尋ねた。
「森宮さんは……亡くなったそうよ」
母は顔を歪めて小さくしかし確実にそう言った。
「嘘!」
私は母を振り払い現実から逃げるように走り出した。頭の中では事故の光景が鮮明にリフレインされている。分
かってはいたし、覚悟もしていた。しかし、現実は半端な覚悟なんかで乗り切れる生易しいものでは無かった。
祐介が死んだという圧倒的な真実。死者は蘇らないし、時は戻らない。たとえどこまで走ろうともあなたには届

36 :No.09 遠く楽園のあなたへ 2/2 ◇5J60C42RKY:07/07/22 20:23:09 ID:GvVVMK6k
かない。真実の前に跪くしかないちっぽけな人間の私。それでも私は走った、起こりえない奇蹟を信じて。走り
ながらいつの間にか私は泣いていた。息が苦しい。あなたにもう会えない苦しみなのか、ただ走った苦しみなの
かそんなことも分からない自分がいる。ふと空を見上げてみる。雲は流れ太陽は私達を照らす。
「大好きなあなたに最後に一言捧げます」
人目をはばからず空に向かい大声を出してみた。不思議と恥ずかしくはない。
『ありがとう』
恋人達が囁くような甘い言葉じゃなくありふれた感謝の言葉。

私はこの言葉があなたに届くように強く強く祈った。






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