【 ウンテルデンリンデン! 】
◆K0pP32gnP6




10 :No.03 ウンテルデンリンデン! 1/3 ◇K0pP32gnP6:07/07/22 19:30:28 ID:GvVVMK6k
 日没五十分前くらいの晴れた空。
 俺は今下校途中である。
 しかし、普段の家への最短ルートでも、マンガやアニメDVD発売日の即買いコースで
もない、小学校以来あまり行ってない公園に向かって自転車をこいでいる最中だ。
 それもこれも、学校の昇降口、俺の靴入れの中に入っていた一通のまあ愛らしい封筒が
原因であり、その封筒の中身については、あまり触れないで欲しい。なんか恥ずかしい。
 察してくれ、と誰に話して聞かせるでも無い文章を脳内で組み立てている俺がいるわけ
で、万が一周りに心を読める超能力者的存在がいたとすれば、俺は悶死するだろう。
 まあ、心を読めるような人間がいたとしても、その人物にとっては今の俺のような恥ず
かしい妄想を脳内で構築しているような奴は日常茶飯事であるだろうし、もしかしたら、
全てを打ち明けられる(明けざるを得ない)良き相談相手になってくれるかもなぁ。
 なんて妄想に空想を重ねているうちに公園にたどり着いたわけで。


『くま公園のブランコで待っています』
 さっき見た手紙の文章を思い出しながら駐輪スペースに自転車を止める。
 普段はかけない前輪の鍵も丁寧にかけてみたりして。
 ブランコで待っています、か。
 そもそも、くま公園というのは正式名称ではなく、デッカイくま型の滑り台があるから
こその愛称である。正式名称は牧ヶ原公園という。古戦場跡のような名前だ。
 意外に広い敷地内は、花時計やら小規模植物園など、入場無料の公園としては結構充実
しており――ていうか、ブランコは三ヵ所くらいあるぞ。
 ていうか、くま公園なんだから、くまを待ち合わせ場所に指定すればいいだろう。
 なんて例の手紙の粗探しをしてはいるが、実際は手紙の送り主と対峙するまでの時間が
稼げてラッキー、なんて思っている。
 その前に鞄からMP3プレーヤーを取り出し、イヤホンを装着。電源を入れて普段聞い
てる他所向けフォルダとは違う、アニソンオンリーのプライベートフォルダを開いた。
 無理やりテンションを上げようと思う。ところで、パル神殿て何?
 そんじゃ、まずここから一番遠いブランコまで行ってみますか。


11 :No.03 ウンテルデンリンデン! 2/3 ◇K0pP32gnP6:07/07/22 19:30:44 ID:GvVVMK6k
 作戦、大失敗。
 自転車置き場から一番遠いブランコに、そいつはいた。
「あ! 工藤先輩!」
 先週やめてしまったばかりの陸上部の後輩。かなり可愛く、制服の盗難騒動まで起こっ
たほどだ。ちなみに犯人は河島の同級生で、そいつも陸上部だった。
「よ、よう、河島」
 不覚にも、よを重ねてしまった。うろたえているのがばれる。不味い。
 気まずい沈黙が流れた。空は完全に赤く染まっている。
 そういや、夕日で空が赤く染まるのってどうしてだか知ってる?という話を振ろうとし
たら、その前に河島が言った。
「ちょっと、歩きませんか?」


 さて、俺は河島と微妙な距離を保ちつつ、園内を散歩している。
 会話は皆無。気まずい。というか、男女合同だった部活の時のほうが、今より話が弾ん
だはずだ。
 夕日のせいなのか、それともこのシチュエーションのせいなのか、河島の顔は赤らんで
見える、と余裕のある振りを自分の中でしてみてはいるものの、俺の顔の温度は異常に上
昇しており、確実に真っ赤になっているのだと思う。
 それはそうと、微妙に肩と肩(というか身長的に河島の肩と俺の腕)が軽く当たって少
し横に避ける動作なんてのは非常に現実感に欠けており、もう走って逃げ出したい。
 そういや、並んで歩いてて、肩が軽くぶつかって飛び退く、という行動パターンは誰が
考えたのだろうか?
 俺が思い出せる一番最近だと、ハルヒの朝比奈さんあたりだろうか。
 逆に古さで言えば森鴎外の舞姫が古い気がする。エリスいいよね。
 舞姫といえばに言えば、最後の発狂するとこ。あの変わり様はひぐらしに通じるものが
あるね。
というか、あの主人公のモデルは鴎外本人にしか思えないのだけど、マジで鴎外さんは留
学中あんな体験をしたんか? 妄想か?
 と再び現実逃避している俺の顔を河島は横から大人しく覗き込んでいた。

12 :No.03 ウンテルデンリンデン! 3/3 ◇K0pP32gnP6:07/07/22 19:31:01 ID:GvVVMK6k
「と、ところで、今日は何の用?」
 何となく察しはつくのだけども。
「えっと、先輩に聞きたいことがあって……」


「あー、もしもし? 相沢? お前に話したいことがあるって奴が、ていうか河島なんだ
けどさ。ちょっとかわるわ」
 俺は携帯電話を河島に渡した。そして静かにその場から離れる。
 ニコニコしながら電話をしている河島。
 あーあ、世の中そんなに甘くねーか。ていうか、電話番号くらいもう少し効率よく調べ
ろよ? 期待して損した。あー。もう。
 
 電話を終えた河島が笑顔で俺に駆け寄ってきた。
「ありがとうございました。先輩のおかげで……」
「みなまで言うな。それじゃ、俺はこれで帰るから。おめで、とう」
 
 帰り道の自転車は、目の前が霞んで非常に危なかった。

                                 ≪おわり≫



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