【 おひげさんのぼうけん記 】
◆/SAbxfpahw




34 :No.09 おひげさんのぼうけん記 1/4 ◇/SAbxfpahw:07/07/15 23:30:08 ID:Zq2WaRw6
 チキューさんが紅茶をのんでいるのか、辺りがオレンジにそまる。
でも私は今それに感動できないんだ。
「ごめんね、ほんとに私っていなくてもダレもコマらないよね」
私は自分の前にある動くカゲを見るばかり。
「ヒカル、おひげさんは嫌いなんだよねぇ」
横でいっしょに歩いているオレンジ色になったセーラー服のお姉が口を開いた。
「ヒゲ? 生えてないけど」
アゴに手を当ててみてもヒゲなんか一本も生えてない。
「フフフ。もっと大きくなれば分かるわよ」
私の頭をなでながらそう言った。お姉はたまにムズかしいことを言う。
「それっ」
いきなりお姉が私のカゲをフんできたので、反射的にかわす。
「ほほぉ、やるじゃない。でも今度は逃がさないよ」
右へ左へジクザク走行しながら追ってをかいくぐる。小回りが利く分こちらが有利だ。
なんか中々ふまれなくて飽きてきたから、少しおちょくってみるか。
「お姉のノロマ。それだから彼氏が出来ないんだよ。バ―カ」
「うわマジでへこむ。そんな事言っちゃうわけ、ねえ」
「くやしかったらカゲふんでみなさいよ早く。キャハハハ」
お姉は本気になったのか、実力行使で私を捕まえてからカゲをふむプランに変えてきたようだ。
「捕まえた! ひかるの勝ちだね」
お姉が後ろから抱きついたから、私が彼女のカゲをフんでいた。
「残念、私の勝ち」
「うわっ、いっけない。穂香《ほのか》を捕まえるので頭がいっぱいだった。ハハハハ」
私もつられて笑う。二人で笑っていると私は知らないうちにイヤなことなど全部ふっ飛んでいた。

35 :No.09 おひげさんのぼうけん記 2/4 ◇/SAbxfpahw:07/07/15 23:30:25 ID:Zq2WaRw6
 今日も学校はつまらなかった。今回はお姉がいないので、とぼとぼ一人で帰る。いや、カゲを足せば二人かも。
なんだか心細くなって、ランドセルのかけている部分をにぎりながら歩く。
道路の黄色い点字ブロックの上だけを歩いて気分テンカン。
見ていたブロックが急に白くなる。よく見ると白いネコが自分と同じ様に歩いていた。
「あっネコかわいい」
「ミャー」
ネコがスピードを上げる。私も負けじと後をおいかける。
「まってよ。ねえ」
今の自分がまるで昨日のお姉の立場みたいだ。
「つかまえた」
昨日お姉にしてもらったように、ネコの頭をなでてやる。
ネコはウレしそうにゴロゴロ言っていて、なんだかイヤされるなあ。
しまった、競争にムチューになりすぎて知らないとこまで来ちゃった。
どこだろうここ、カラスの声も聞こえてきて、さらにきもちわるい。
「お嬢ちゃん一人で何してるのかな」
私はトツゼン後ろから抱きつかれちぢこまる。
大声を出したいがこわくて何も出来ない。ソイツが耳元でささやく。
「今回はヒ、カ、ル、の勝ち」
「へっ? なんだお姉か。ビックリしてソンした」
見るとカゲは後ろにできていた。
「穂香さあ、気をつけなさいよ。ヒカルがたまたま通りかかったから良いものの――」
「でもネコが」
「ネコ? 穂香ずっと一人だったじゃない。ほらさっさと帰るわよ」
あのネコはなんだったのだろう。気になりながらもお姉に引っ張られその場を後にした。

36 :No.09 おひげさんのぼうけん記 3/4 ◇/SAbxfpahw:07/07/15 23:30:40 ID:Zq2WaRw6
 次の日、気になって帰りに昨日の点字ブロックのとこに行ってみた。
いたいた、ブロックの上にネコがねころんでヒゲをさわっている。
「ネコちゃんまた会ったね。あー、ダメだよヒゲをさわっちゃ。お姉にキラわれるよ」
……ムシされちゃったけどいいや。ネコゼになっているとこをやさしくなぜる。
人通りが多いのによくいれるなあ。まるでネコが存在していないかのように大人達が横を通り過ぎて行く。
このネコも私と同じ、いてもいなくてもいい存在なんだろうな。
「私とネコちゃん、なんだかにてるね」
ネコは自分をムシし立ち上がり、ブロックの上を歩き始めた。
お姉におこられることよりもコウキシンが勝ち、いつしか私は後をおっていた。
「ネコちゃん今日はどこ行くの」
「ニャー」
昨日つかまえた場所を過ぎ、私の知らない地区に入る。
そこに来たことに、楽しくもありこわくもあった。
急に前のネコが歩くのを止め、私もつられて止まった。
その時地面にポツポツと水玉もようができる。
空を見るとチキューくんがブラックコーヒーをのんでいる。
私はあわてて近くの屋根にかくれたら、ネコも知らないうちに足下にいた。
道路に小さな川ができる。私もこのまま川になって流れたいなあ。
キママなネコでもいいや。

37 :No.09 おひげさんのぼうけん記 4/4 ◇/SAbxfpahw:07/07/15 23:30:55 ID:Zq2WaRw6
「ほのか、ほのかぁぁ」
遠くからお姉の大声が聞こえる。
うわ、こりゃまたしかられる。
私は体育すわりをしてまっていたら、自分を見つけたのか走ってきた。
お姉はずぶぬれだった。カサぐらいさせばいいのに変なの。
「なんでケータイの電源切ってるの! 昨日のところかと思って見たらいないし、
途中雨は降ってくるし。もうっ! 心配したんだからね……バカ」
びしょぬれのお姉にだきしめらる。私までびしょびしょだ。
でも、なんだかうれしいかも。
横を見るといままでいたハズのネコがいなくなっていた。
「あーあ、お姉がこわくてネコちゃんにげちゃった。そりゃ彼氏もにげるわけだ」
「なにを。人がせっかく心配してカサもささず来たのにんのに。もうっ」
そう言いながらも私の頭をなでた。
 いなくてもいい人間なんていないんだ。私もお姉がいなくなるとコマるし。
なんとなくだけど分かった気がする。この気持ち、大人になればちゃんと分かるかなあ。


―――完



BACK−よくない薬◆BV.fqgxxRU  |  INDEXへ  |  NEXT−珍酒の里◆DttnVyjemo