【 二人 】
◆GPM/q.xvtU




59 :14 二人 1/4◇GPM/q.xvtU :07/07/08 23:25:18 ID:a7gW29xM
「ねぇ。覚えてる?」
 耳元に感じる吐息の熱さにようやく落ち着きを取り戻した身体に再び熱が篭る。
 それに気づいたのか彼女はクスリと笑う。笑って、けれどその反応を楽しむように再び耳元で囁く。
「初めてのときもこうしてお話したよね」
 吐息の熱さに体の深奥が痺れるのを感じながら小さく頷く。


60 :14 二人 2/4◇GPM/q.xvtU:07/07/08 23:25:50 ID:a7gW29xM
 こうして身体を重ねるようになってもう随分と長い時間が過ぎた。
 最初の頃こそ恥ずかしさに何も考えられなかったけれど、今ではその恥ずかしさすらも心地いい。こんなにも自分のすべてを曝け出しているというのに、それが心地いいなんて……自分のことながらちょっと、いやかなり変態なんじゃないかと最近思うようになった。
 最も、彼女に言わせれば何を今更。とか、初めからそうだったじゃない。とのことだったけれど。さすがにそのときは抗議した。
 最初から自分のことをそんな風に思っていたなんて失礼じゃないか。……実際そうだった分尚更に悔しい。
 でもその後に困ったように笑いながら、「馬鹿ね。私だって同じよ」なんて抱きしめられたらそれ以上怒れるわけがなかった。

「ふふ……。終わったあとそうやって真っ赤になって何も話せなくなる癖、まだ治らないね」
 ふにっと頬を指で突付いてくる彼女に抗議の意味で頭を振る。確かに心地よさを感じるようにはなったけれど、恥ずかしいものはやっぱり恥ずかしい。
 こればっかりはもうどうにもならない。
 そんな様子を愛しそうに眺めていた彼女がもぞりと身を起こす。
 窓辺から差し込む月明かりが一糸纏わぬ彼女の肢体を照らす。
 年の割りに細くくびれた腰や豊かな胸が神秘的な輝きを帯びて、まだ幼さの残る彼女に大人の艶やかさを纏わせていた。
 いつも思う。世の中は不公平だ。彼女のようにモデルさながらの人間もいれば、自分のようにいつまでたっても成長しないお子様人間だっている。
 こんなんじゃあいつか彼女にも見放されてしまうんじゃないだろうか。それに自分たちは……。

61 :14 二人 3/4◇GPM/q.xvtU:07/07/08 23:26:28 ID:a7gW29xM
「馬鹿ね……」
 フワリと彼女の黒髪が舞って、視界一杯に広がった。次の瞬間には唇に熱く、それでいてとても甘い彼女の味が重ねられた。
 この瞬間がたまらなく好きだった。身体を重ねあうこともいいけれど、こうやってただ単純に唇を重ねあうだけの行為が自分にとって何よりの幸せだった。
 もちろん悔しいから彼女には言ってやらないんだけど。
「ん……ふ、ん……。何を考えているか当ててあげようか」
 コツリと重ね合わせる部分を額に変えて彼女は言った。至近距離でぶつかる視線に顔が熱くなるのを止められない。まるで全身が心臓になったようにドクンドクンと脈動するのがわかった。
「いつかこんな関係が終わるときがくるかもしれない。そうなったら自分は見放されるんじゃないだろうか。こんなところ?」
 一際ドクンと全身が脈打った。
「ふふ。私は貴方のそういうところ、好きよ。……確かに私たちは世間一般から見たら異端なのかもしれない。けれど、それは他の人たちがどう思っているかであって、私たち自身には何も関係のないこと。貴方が私のことを想っていてくれる限り、私は貴方の傍に居続けるわ」
 そう言って肩に顔を埋める彼女は僅かに震えていた。次いで耳元にかすかに、
「私だって……同じなんだから」
 くぐもったその声は今にも泣きそうに聞こえた。いや、彼女は心の中で泣いていた。決して認められることのない自分たちの未来への不安に押しつぶされて。
 彼女も同じ……自分と同じ。
 だからその肩をつかんで顔を上げさせると、そのまま唇を奪った。驚いた彼女の瞳が大きく見開かれる。そのまま彼女の口内を犯しながら口の動きだけで一言だけ伝えると、見開かれていた彼女の瞳が嬉しそうに細められ、そして閉じられた。


62 :14 二人 4/4◇GPM/q.xvtU:07/07/08 23:27:13 ID:a7gW29xM

 決して交わってはいけなかった存在。決して認められることのない存在。
 けれどお互いの唇に宿る甘く、切ない味は二人にとって確かに存在するものだから。

 それはまるで禁断の果実のよう――。
 禁じられた果実だからこそ、その実はとても甘美で淫靡なもの。
 
 溶け合い、やがて一つとなった果実はまた新たな存在として生まれ変わる。
 生まれ変わろう? だから一つになろう? それがあたしと貴方なんだから――。



(あたしも貴方の傍に居続ける)



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