47 ：No.11 皇帝 1/4 ◇/SAbxfpahw：07/07/08 20:51:47 ID:WOIoR4Ed
ここは南極大陸。そこになんでも屋を営なんでいる一匹のペンギンがおりました。
しかし、あまりの傲慢さから周りからは『皇帝』と皮肉られており、全く流行りません。
なので彼は氷で出来たイスに座り、毎日ただただ窓から空ばかりを見つめていました。
ある日窓に一羽のカモメが止まりまして、それを見つつ皇帝が言います。
「カモメはいいよな、空を自由に飛べて。俺なんか翼が退化して飛べないよ」
そのまま彼は冷凍さんまをタバコをくわえる様な格好でしゃぶりました。
カモメが言います。
「あなたは海の中を飛べるじゃないですか。私はそれがうらやましい」
「うるさいダマれ。俺は空が飛びたいんだよ」
皇帝は彼の話が気に入らなかったのか、しゃぶっていたのを一気にのみ込みました。
その時誰かが扉を開け入って来ました。全く流行っていませんでしたから皇帝は驚きました。
見ると子供のセイウチでした。話を聞くと父さんが流氷の割れ目にはまって抜けなくなったらしいのです。
皇帝は「めんどくさいから他のに頼め」と言ったのですが、子セイウチが「助けて下されば果物を差し上げます」と言います。
南極から一歩も出たことがなく、果物を見たことがない皇帝は、どうしても欲しくなり引き受けたのでした。
48 ：No.11 皇帝 2/4 ◇/SAbxfpahw：07/07/08 20:52:00 ID:WOIoR4Ed
外は温暖化の影響でしょうか、彼等の足下の氷が少し溶けていました。
現場に着くと割れ目に頭がはさまり、尻だけが外に突き出ているセイウチがいます。
皇帝は近付くとその尻を羽で叩きながら言いました。
「また妙な体勢で挟まったもんだ」
「ハハハ……。情けないもんです。氷の上を歩いているといきなり割れまして。気付くとこうなっていました」
「分かったから早くクダモノをくれよ」
皇帝はいきなり果物を奪いとろうとしましたが、カモメに止められます。
「イテテテ、つつくな！」
皇帝は羽でカモメをおもいっきり叩きました。彼は氷上を転がり、止まったところでこう呟きます。
「さすが名高い『皇帝』ですね」
「うるさいカモメだな。分かったよ、助ければいいんだろ」
皇帝は気分を落ち着かせる為に、肩かけ鞄から冷凍さんまを出してしゃぶり始めます。
「何してんのさ。早くしないとパパが死んじゃうよ」
とうとう子セイウチが怒り始めました。
「今、助ける方法を考えてるから黙ってろよガキ」
子セイウチは下を向いたまま何も喋らなくなりました。
しばらくして皇帝はサンマを丸飲みするとこう言いました。
「よおしカモメ。お前が俺の変わりに助けてやれ」
カモメは突然の指名に驚きました。
悩んだあげく、彼はしかたなく知り合いを呼んでくることにしました。
49 ：No.11 皇帝 3/4 ◇/SAbxfpahw：07/07/08 20:52:14 ID:WOIoR4Ed
その間も皇帝は何もせず寝転がっているだけでした。
カモメが誰かを連れて帰ってきました。それを見た皇帝が震えています。
彼が連れてきたのは、ペンギンの天敵であるアザラシでした。
「皇帝大丈夫ですよ。彼、今はお腹空いてませんから」
「それは助かります。――あの……ア、アザラ、ララシさん私も手伝いましょうか？」
皇帝は震えが止まりません。
「ああ大丈夫っす。一人で出来るっす」
「……そうですか」
皇帝が震えてそこら辺をウロウロしているうちに、無事セイウチは救出されました。
50 ：No.11 皇帝 4/4 ◇/SAbxfpahw：07/07/08 20:52:27 ID:WOIoR4Ed
アザラシが帰るとまた傲慢な彼に戻りました。
「助けたんだから早くクダモノとやらをくれ」
親セイウチは嫌な顔を一瞬しましたがすぐに戻し、後ろの方から果実を取り出しました。
「友達のイルカから貰ったのですが、なんでも南国の果物でパイナップルとかなんとか」
親セイウチが出してきたのはどう見ても果物には見えませんでしたが、皇帝は見たことがないので信じてしまいました。
「そんな説明はいらん。で、どうやって食うのだ」
「この『トゲ』を抜いてから食べるらしいです」
「ふーん。このデコボコしたのが本当にうまいのかよ」
皇帝は文句を言いながらも『トゲ』を抜き、いつもの調子で一気に飲み込みました。
カモメが先程の仕返しと言わんばかりに、こう尋ねました。
「初めて空を飛んだ感想は？」
「……」
「あとその丸飲みする癖、直した方がいいですよ」
真っ黒な煙を口から吐きながら皇帝は黙ってうなずきました。
ここは南極大陸。尊敬の念を込めて愛称が『皇帝』のペンギンと、一匹のカモメが経営し、繁盛しているなんでも屋があるそうです。
おしまい