【 今日の妹≠明日の妹 】
◆qpKZ89MlUU




82 名前:今日の妹≠明日の妹 (1/2) ◆qpKZ89MlUU [] 投稿日:2007/06/24(日) 23:54:35.28 ID:5xxeb2qG0
 私には妹がいる。一年三組二十二番、国枝英里。
 明るく活発な英里は誰とでもすぐ打ち解けることができる性格で、中学校にあがって知らない人間ばかりのクラスでも
すぐに仲の良い友達を作ることができた。
 そして私は英里の姉。一年八組三十五番、国枝真里。
 姉である私は妹とは対照的に、控えめで大人しい性格で、クラスの中に知り合いを作るのも一苦労であった。
 学年から分かるように、私たち姉妹は一卵性双生児というやつである。
 だが、私たちが非常に良く似た外見であるにも関わらず、周囲の人間が私たちを間違える事はほとんどない。それは
先ほど挙げた例のように、彼女と私とが表と裏、光と影のように、対を成す存在だからである。
 活発な妹に対し、大人しい姉。視力の良い英里に対し、眼鏡を掛けている真里。髪を結っている彼女に対し、無造作に
髪を下ろしている私。
 それぞれの特徴が私たちを差別化し、そして、私たち自身を惑わせる。

 私たちは幼いころからずっと一緒だった。両親が共働きだったということもあり、良く祖母の家に預けられた。その頃の
私たちは今のように分かりやすく判別できるような特徴は持ち合わせていなかったので、周囲の人間は良く私たちを
混同した。幼稚園の先生たちも私たちが二人一緒に居れば、どちらが英里でどちらが真里なのか見分けられなかった。
 ただ、祖母は違った。
 私たちがどんなにお互いを装っていても、はっきりと二人を間違える事なく認識してくれた。私たちはなんとか祖母の目を
ごまかそうと苦心したが、一度もそれが叶うことはなかった。いつもいつも言い当てられては残念がってはいたが、内心
とても嬉しかったのを覚えている。
 あるとき、母から祖母が亡くなった、と聞かされた。私たちはこれでもか、というぐらい泣きじゃくった。死というものが
良く分からなくても、もう祖母に会えない、ということだけは分かったから。

83 名前:今日の妹≠明日の妹 (2/2) ◆qpKZ89MlUU [] 投稿日:2007/06/24(日) 23:56:07.72 ID:5xxeb2qG0
 祖母のお葬式が終わって、母は働くのをやめた。主婦となった母は、本格的に育児に取りかかることにしたようだった。
 そして、母と接する機会が増えて、私たちは気づいてしまった。
 ふとした瞬間、私たちの間を往復する母の視線に。
 私たちはちょっとした出来心で、祖母にしたように、母の前でもお互いを装った。
 母は躊躇う様子も見せず、英里を「真里ちゃん」と呼んだ。

 小学校に上がってからも私たちは度々お互いを装って学校生活を送った。初めて入れ替わった日は、何喰わぬ顔で座っていても、
内心いつ気づかれて怒られるかと冷や汗をかきっぱなしだった。だが、それが二日続き、三日続くと何も感じなくなった。
 それからことあるごとに、私たちは入れ替わった。学校のお昼休みに入れ替わってみても、気づかれることはなかった。


 多分、私たちは誰かに気づいて、叱って欲しかったんだと思う。
 だけど、周囲の大人たちも友人たちも、私たちの作り上げた特徴に騙されて、少しも疑うことをしなかった。服を替え、髪型を替え、
眼鏡を渡し、渡された。視力検査で視力をあげるのは難しくても、下げるのは難しくなかった。見えません、と言えば済む話だった。
今でも眼鏡のレンズに度は入っていない。

 その特徴に周囲は騙され、そして私たちは私たち自身を見失った。笑えることに、私たち自身も作り上げた特徴でしか、「英里」と
「真里」を区別できなかった。
 私たちは相手を知りすぎ、自分を知らなさすぎた。
 私は「私」と「彼女」でしか私たちを区別できない。きっと彼女もそうだろう。
 昨日妹だった私は今日姉になり、きっと明日はまた妹になるのだろう。


 終わりです



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