【 川瀬美紀 】
◆zS3MCsRvy2




21 名前:川瀬美紀1/4 ◆zS3MCsRvy2 [] 投稿日:2007/06/24(日) 23:12:26.27 ID:8mR5ysTO0
 見知った人物を発見したのは、日曜の昼下がりを自室での惰眠に費やしていたところ不思議な義務感に駆られて、何かにいざなわれるように家を飛び出した数分後のことである。
「おや、あそこにいるのはクラスメイトで俺の右斜め後ろの席に座っている川瀬美紀。そしてその頭上には今にも崩れ落ちてきそうな木材が山積みになっているではないか」
 なぜか俺は説明口調だった。
 ぷちんっ。
 俺の登場を待っていました、とばかりに木材を繋ぎとめていたロープが切れ、ガラガラと降り注ぐ。
 それをこれまたなぜか事前に察知していた俺は、少女を容易く救出する。
「大丈夫かい川瀬美紀。おやおやどうやら彼女は気絶しているようだぞ」
 いい加減疲れてきたなこの喋り方。
 とりあえず病院に運ぼうと思うが、それでは語り部がいなくなってしまう。
 放送事故はご法度!
 某対有機生命うんちゃらヒューマノイドインターなんちゃら風テキストで、この場はカバーだ。
 ……。
 川瀬美紀は達した。
 かつてないセクシャルウェーブが折り重なり、うねりとなって彼女の若さゆえに持て余した姿態を周期的に襲う。
 びくっ、びくびくぅっ(←うまく言語化できない)。
 川瀬美紀の口は、上下セットでとても正直。パックンマックン。
 余談となるが、性的な快感のもたらす瞬間的な思考の爆発がピークに達したとき、有髄神経興奮伝達システムランビエ絞輪間の跳躍伝導を三段階にまで引き上げ、
 その勢いたるやワンランクアップごとにパラメータを指数関数的に急上昇させ、限界を突破したエロリングパワーは空間を正弦波状に折り曲げることで、任意の時間軸上への移動を可能にする。
 これがほんとのファックトゥーザフューチャー。
 おあとがよろしいようで。
§
 駅前のとあるファストフードのチェーン店。ここでは日夜、客と店員との間で血で血を洗う愛憎劇が繰り広げられてる。
「いらっしゃいま――」
「この泥棒猫」
「お、お母様!」
「どこで油を売ってるかと思えば、よもやハンバーガーとフライドポテトを売りさばいていただなんてね。……さてはあなた、その高カロリー食であたしを動脈硬化かなにかにでもして、殺すおつもりね!」
「お言葉ですがお母様、こちらのセットメニューはサイドメニューにサラダがついてきてとてもヘルシー。さらにお母様のような年金生活者でもワンコインでお買い上げいただけるリーズナブルなお値段ですの」
 嫁、勝ち誇ったゼロ円スマイル。
「んまあ!? なんて子でしょう。どこの口がそんな生意気を言わせるのかしら! チーズバーガーセットをお持ち帰りさせていただくわよ!」
 がしゃーん。

22 名前:川瀬美紀2/4 ◆zS3MCsRvy2 [] 投稿日:2007/06/24(日) 23:13:26.38 ID:8mR5ysTO0
「あーら、トレイを落としてしまったわ。そこの店員さん、這いつくばって拾いなさい。豚のようにねえ!」
 みたいな。
「はあ」
 そんなマーベラスな環境で川瀬美紀は日夜労働に勤しんでいる。
「ふう」またひとつため息。
 清廉で愁色に彩られた少女の横顔は、安価で夕食を済まそうと来店してきた男衆に、サナギが成虫となり飛び立つ寂寥たるひと夏のイメージを植えつけるものであり、午後九時現在レジの一角に二時間待ちの長蛇を形成するに至っていることなど美紀は露ほども知らない。
 しかしこれは仕事。気持ちと裏腹に美紀は営業スマイルを浮かべる。その健気な笑顔にあてられたら、こいつらもうダメなのである。
「あらん、ミキりんお疲れSummer! もうあがってチョモランマよーーん!!」
 刹那。男たちの慎ましやかなドリームは、果汁百パーセントの濃厚オカマ野郎の出現により木っ端微塵に打ち砕かれ、
「ぐふふっ、い・い・お・と・こ」
 蹂躙されるのであった。
 美紀はしずしずと更衣室に引っ込んでくると、先週の出来事を思い出していた。本日すでに六十二回目を数える回想モード突入である。
 雪崩となって降りかかる木材。嗚呼これまでかと目を閉じる自分。叫び声。次に瞼を開けたときには殿方の胸の中。
 助けてくれた人物が同じクラスの佐藤くんだということはすぐに行き当たった。病院での別れ際、しっかりマーキングもしておいたので間違いない。
 だが美紀は元来人見知りするきらいがあり、未だにお礼のひとつすら言えていない。恋する乙女は複雑だ。生粋の大和撫子。ジャパニーズロストテクノロジーである。
「はあはあ……」
 一週間の我慢で体はとうに限界だ。周期とか度外視して排卵寸前であった。
 そんなとき、悩める淑女に光明をもたらしたのは、テレビから流れるドラマのワンシーンだった。
『妹だったら、一生お兄ちゃんと一緒だもの』
 兄妹の禁断の愛を描ききった視聴率低迷中の力作ドラマに美紀の視線は釘付けとなった。
「これだ」
 この日、川瀬美紀妹化計画は幕を開け、迷走した。
§
「みなさんごきげんよう」私は微笑を湛えて、軽い会釈と挨拶を交わします。
『ごきげんよう美紀さん』『薔薇さま今日も一段とお綺麗ですわ』
 そんな声が四方八方から飛び交いそうな、朝のうららかなひと時です。
「誰ですかおまえ」
 席に着いて早々、はす向かいの佐藤さんにつっこまれました。
「ドキドキ」
「うん?」

23 名前:川瀬美紀3/4 ◆zS3MCsRvy2 [] 投稿日:2007/06/24(日) 23:14:18.85 ID:8mR5ysTO0
 何故でしょう。この方を思えば思うほど、幸せがあの日のベン・ジョンソンのように全力疾走でこちらに向かってくるかのようです。
「あらお兄様。タイが曲がっていましてよ?」
「い、いや……なんつうか、俺のネクタイ云々の前に、そっちのキャラクターが曲がっちゃいけない方向に捻じ曲がりすぎだろ……」
 佐藤さんの日本語はわかりにくいですが、これは照れ屋な彼なりのメッセージです。
 アナグラムを解析すると総じて「やべぇ、ミキたん超やべぇんだけど。はぁはぁ、好きだ……マジベリーハートフルなんですけど……」となります。
「やだわお兄様ったら。うふふ」
「……」
 佐藤さんは苦虫を噛み潰した太宰治のような顔で、しばらく逡巡した後、前を向きます。アタックチャンスです。
「ロザリオ返しッ!」
 適当なネックレスが手元になかったので、代わりに今朝コンビニで買ってきた聖杯(どん兵衛)を投げつけました。
 ごすっ。
 鈍い音がします。打撃力重視を目論んで庭石をたらふく詰めこんだ甲斐がありました。
 当の佐藤さんといえば「OH!」と叫んで、床に転がったきり動きません。
 アタック(攻撃)成功です。
 うんうん呻く彼の元に、私はいの一番に駆け寄ります。すると佐藤さんは、頭を手で押さえて起き上がると、私をじーっと見つめてきました。
 ヨーレローレロヒッホー!
 穴からなにか出そうになるのを堪えて、私は訊ねました。
「だ……大丈夫ですか、佐藤ギガンディア」
「なんかすげえ名前にされてる!?」
「痛いですか? 痛いですか?」
「当たり前だろうが!」
「胸がどきっとしました?」
「首がぐきってしたよ!」
「まあ……それはきっと恋ですわ」
「どんだけ無茶苦茶なフリだそれは!」
 見ると頭の一部が立派に盛り上がっています。まるで頭版チ○コです。
「お兄様、お兄様」袖をくいくい。
「……なんだよ」
「嫌がってても体は正直なようだな」
「意味わかんねえよっ!」

24 名前:川瀬美紀4/4 ◆zS3MCsRvy2 [] 投稿日:2007/06/24(日) 23:15:26.56 ID:8mR5ysTO0
 佐藤さんは眉をしかめて立ち上がりました。
「保健室行く?」
「ああ行くよ」
「嫌……どこにも行かないで」
「行かせろよ! どんだけのっぴきならない障害が俺たちの前に立ちふさがってる設定なんだよっ!?」
「……弱虫」
「妄想の翼はためかせたまま勝手に自己完結するな!」
「なら訊くけど、あの女と私、どっちを選ぶの?」
「生々しいわ! あの女の『あの』って、どこを意味する所の『あの』だよ!? つうか、なんで保健室の選択肢がさりげなく省かれてんだよ!」
「え、保健室行きたかったの?」
「まさにそれを主軸に論議してた気がするのは、俺の勘違いだったんでしょうか!?」
「自分を責めないで」
「皮肉ってんだよ!」
「どうしても行くの?」
「男が一度行くって決めたら行くんだよ」
「天国に?」
「まだ逝かねえよ!」
「燃料は片道分なのね」
「神風かよ!」
「ついでにマック行っとくーぅ?」
「なんでそこで第四の選択肢がエントリーされんだよ! どんなリラクゼーション効果見込んで、んなとこ行くんだよ!」
「スマイルゼロ円」
「早い話が放置だろ!」
「ゲルマニウムが」
「秘湯かっ!」
「ドライブスルーで高そうな車が出てくるのを見計らって、目前で倒れて、賠償金請求するの」
「単なるさもしい当たり屋じゃねえかっ!!」
 ……………。
 川瀬美紀が正気に戻ったのは、放課後になってのことだった。当たり前だがこれがきっかけでお付き合いとかには発展しない。
 大和撫子の恋はつづく。


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