【 超妹 】
◆LBPyCcG946




886 名前:品評会課題「超妹」(1/4) ◆LBPyCcG946 [] 投稿日:2007/06/24(日) 21:41:47.20 ID:Ih1Pzuum0
 身長192cm、胸囲1m、握力112kg、100m走タイム10秒5、女子ウェイトリフティング世界記録保持者、体重は秘密、そして兄思い。これが俺の妹のスペックだ。今年で16歳になる。どうだ、かわいいだろ? いや……嘘はつかなくていい。
 一方、俺の方はといえば、身長は160cmそこそこ。体重は高校生になった今でも30kg台をキープ。ぜんそく持ちで、虚弱体質。彼女? 何それ。
 血の繋がった兄妹であるというのに、こんなにも差があるのはなぜか。答えは簡単だ。妹は格闘家の父親に似て、俺は病弱な母親に似てしまったんだ。普通そこ逆だろ! と神様に突っ込んでみてもどうにもならない。
 雨上がりの帰り道を友人と一緒に下校してる途中、きっかけはよくあるどうでもいい話の1つだった。大通りに接した道を歩いてるだけで、排気ガスを吸い込んで苦しくなる。
「なあ、お前って兄弟いるの?」
「いねぇよ!」と反射的に答えてしまいそうになった。
「んー……いるけど? 妹」
 妹の鋭い眼光がちらりと脳裏をよぎる。
「いいなぁ、うちなんか糞兄貴がいるだけだぜ」
 でもその糞兄貴は中身の入った空き缶を片手で潰したりしないよな? ならそっちの糞兄貴の方がかわいい。
「もしかしてお兄ちゃんとか呼ばれてんの?」
 こいつはなぜこうも俺の痛い所をついてくるのだろう。答えたくない。というか思い出したくない。
「あ、ああ」
 うなだれるように答える俺をよそに、友人は更に盛り上がる。

887 名前:品評会課題「超妹」(2/4) ◆LBPyCcG946 [] 投稿日:2007/06/24(日) 21:42:27.61 ID:Ih1Pzuum0
「カーッ。いいなぁ。かわいい妹」
 俺は一言もかわいい妹なんて言って無いからな。
「こっちはどうなのよ?」
 と言って両手で胸を揉むジェスチャーをする。年頃の男はなぜこうもこの話題でおっぱいおっぱいなのだろう。失礼、いっぱいいっぱいの間違いだ。
「巨乳だよ、バスト1mある」
 嘲笑を込めてそう言ってやった。嘘はついてない。例え筋肉の塊であろうとも、バストには変わり無いはずだ。
「すげええええええ」
 おー、食いついてる食いついてる。これは益々見せられたものじゃないな。もしも俺の妹が筋肉だとバレたら……想像するだけでも恐ろしい。これからの俺の学校生活は延々と妹ネタで馬鹿にされ続ける日々になるだろう。
 その時、最悪な出来事が起こった。
「お兄ちゃ〜ん」
 や、奴だ。路地の向こうの方から、聞きなれた図太い声。超規格外の妹が手を振ってこちらを見ている。
「な、なんだありゃ……」
 友人が驚愕している。無理も無い事だ。
 よし、ここは逃げよう。目撃者はまだこの友人ただ1人。この場を凌げば後でなんとでも言い訳できる。そう考えた俺は、次の瞬間ガードレールを飛び越えていた。大通りを挟めばいくらあの妹でも追ってはこれまい。
「危ない!」

888 名前:品評会課題「超妹」(3/4) ◆LBPyCcG946 [] 投稿日:2007/06/24(日) 21:43:10.77 ID:Ih1Pzuum0
 その声に気づき横を向くと、大型トラックの運転席に座る顔面蒼白の運転手さんと目が合った。それと同時に馬鹿でかいクラクションの音とブレーキ音が鳴り響いた。金縛りに合ったみたいに体が動かない。俺はここで死ぬのか? 怖くて目をつぶった。
 不思議と体はどこも痛くない。死ぬっていうのは案外こんなもんなのかな。全身に力が入らない。だが、聞こえる、ハァハァ……という獣じみた息遣いが。
 おそるおそる目を開けると、そこには妹がいた。トラックを両手で受け止め、俺の事を庇うように覆いかぶさっている。
「危なかったね、お兄ちゃん」
 妹の窮屈な笑顔を見ていたら、なぜだか涙が溢れてきた。しかも情けない事に腰が抜けて立てない。トラックの運転手さんも恐らく同じ心境だろう。妹が俺の様子を察してか、腰を落とし、おんぶをしようとしている。
 その時、友人の恐ろしい物を見る視線に気づいた。俺はわずかに残る力を振り絞ってどうにか立った。
「やめろ! いいよ、自分で立てるから」
 声が裏返ってるのが自分でもよくわかる。それから俺は、妹の方を振り返らないように急ぎ足で家へと急いだ。
 家に帰り、自分の部屋で休んでいると、コンコン、とドアを叩く音がした。音の主は妹だった。
「ねぇ、お兄ちゃん……」
 ドアに頭が引っかかるので、それをくぐるように部屋へ入ってきた。俺はヘビに睨まれた蛙のように身動きをとれずにいた。

889 名前:品評会課題「超妹」(4/4) ◆LBPyCcG946 [] 投稿日:2007/06/24(日) 21:43:51.39 ID:Ih1Pzuum0
「お兄ちゃん、私の事嫌い……?」
 さっきの事を気にしてるのだろうか。それにしたってこの絵面では、女装趣味のやくざが子供にからんでいるようにしか見えないだろう。
「そ、そんな事ないよ」
 どうにかして搾り出した言葉はそれだけだった。妹の目がうるうると潤んでいく。くそっ! どう見ても世紀末覇者だ……!
「私ね……本当はもっとちっちゃくってかわいくなりたいんだ」
 バスドラのような声でそんな台詞を吐かれたら、どんな反応を返せばいいのだろう。
「お前は、そのままで十分……だろ」
 これ以上いじったら益々ヒドい事になる。という意味だったんだが、
「うわぁぁぁん」
 ダムが決壊したかのように妹の両目から涙が噴出する。と同時に両手を豪快に開き、俺の逃げ場が防がれる。妹の手が俺の腰に回り、俺は妹に抱きつかれる形になった。シチュエーションだけで言えば立派な妹フラグという奴だ。しかしこれはそんな生易しい物では無い。
 全身の骨がみしみしと悲鳴をあげ、意識が遠のいていく。1日に2度も生命の危機に直面するとは思っていなかった。ああ、妹よ、どうしてお前は……。でも、助けてくれてありがとうな。



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