【 フタゴのシスター 】
◆K0pP32gnP6




37 名前:No.11 フタゴのシスター 1/4 ◇K0pP32gnP6[] 投稿日:07/06/24(日) 12:32:28 ID:aLGQ9ld0
 端から見れば双子なんてのは、二卵生であっても珍しいモノなのだろうが、生まれて十
七年間、日にして六千二百九日間(閏年含む)同じ家に住んでいれば、それが当たり前に
なるというものだ。

 日曜日。今日は俺とあやの十七回目の誕生日であったが、十七回目ともなるとさすがに
大々的に祝う事は無くなったが、親は「ケーキぐらいあったほうが」なんて言って二人揃
ってケーキを買いに行った。
 昼を過ぎた頃、インターホンがピンポーンと二回鳴った。
「おーい、誰か来たみたいだけど」
 隣の部屋にいると思われるあやのに、呼びかけてみる。
「そうね。でも何で私に言うわけ?」
 そりゃもちろん、俺が出るのが面倒くさいからだ。
「ここは妹が行けよ」
 俺がそう言うと、壁に何かがぶつかる音がした。
 多分、ぬいぐるみでも投げつけたのだろう。
「なんで私が? 年功序列主義も大概にしてよね? ていうか、一応妹だけど私達双子じ
ゃない。それに、今は実力主義の時代だからね!」
 あやのは早口で言った。
「それじゃ、何事においても実力的に上回っている俺が応対に出ますね?」
「何言ってるの? あんたバカ? 私のほうが総合力では上よ」
「それじゃ、実力のある人が仕事をするべきなんじゃねーの? 実力主義的に考えて」
 再び、壁に何かぶつかる音がした。



38 名前:No.11 フタゴのシスター 2/4 ◇K0pP32gnP6[] 投稿日:07/06/24(日) 12:32:47 ID:aLGQ9ld0
 晩飯。食卓には、山盛りのざる蕎麦四枚と、ショートケーキが一ホール並んでいた。
 実は少しご馳走が用意される事を期待していたのだが、これは本当に普段の晩ご飯にケーキ
が加わっただけではないか。
「うわ。蕎麦にケーキ。ありがとう。パパ、ママ」
 好物が蕎麦とケーキのあやのは良いが、俺は蕎麦はあまり好きではない。
「あれー? あんた蕎麦嫌いなんだっけ? 悪いわねー。食の好みは妹に合わせてもらうから」
 あやのは満面の嫌な笑みで俺に向かって言った。
「あー、そうですね。ほんと妹の食の好みにはうんざりですよ!」
 俺達のそんなやり取りを、父さんが申し訳なさそうな表情で見ていることに俺は気付いた。
「ん。父さん、どうかした?」
「い、いや、何でもないんだ。とりあえず、蕎麦、食べようか」
 少し慌てたそぶりを見せていたが、その時の俺はその事をあまり気にせず、ざるに盛られた
蕎麦に箸を伸ばした。

 俺が蕎麦を食べ終える頃には、俺以外の三人はすでに完食しており、母さんはケーキを切り
分けるための包丁を取りに行った。
 あやのはお茶を麦茶を飲んでいる。
 そんな中、父さんが突然口を開いた。
「今日で、お前達も十七歳だ。そろそろ、知っておいた方が良いと思う」
 重々しいその口調は、場の空気を一変させた。
「な、何さ、突然。妙に改まっちゃって」
 父は俺の言葉を軽く無視して、言った。
「あやのは、お前の本当の妹じゃない」
 包丁を持って母さんは台所から戻ってきた。
 ワンテンポ遅れてむせるあやの。麦茶を吹き出す。



39 名前:No.11 フタゴのシスター 3/4 ◇K0pP32gnP6[] 投稿日:07/06/24(日) 12:33:06 ID:aLGQ9ld0
 時計は午後七時を示していた。
 リビングは、異常に静まり返っている。
「ど、どう言う事だよ。あやのが、俺の妹じゃない?」
 父さんは、静かに、ゆっくり頷いた。
「へ、へぇー。それは、良かった。こんな奴と血が繋がって、なくて」
 半分泣きそうな声であやのは言った。
「いや、一応血は繋がっている」
 じゃあ、父さんか母さんが、どちらかの実の親じゃないと言う事、か?
「どう言うことよ? もっと解りやすく説明してよ!」
 父さんは黙っていた。また、静まる。
 今まで黙っていた母さんが口を開いた。
「わたしから、説明するわね」
「しかし、由紀子」
 父さんが母さんを止めようとする。
「あなたに任せてたら、いつまでも言わないじゃない?」

 母さんの説明は、非常にわかりやすかった。
 内容からすると、あやのは本当に俺の妹ではなかった。
「本当にわたし妹じゃなかったんだ。十七歳の誕生日に嬉しい事聞いたわ」
 あやのは、本当に嬉しそうに言った。
 何がそんなに嬉しいんだ。俺はまったく嬉しくなんかない。むしろ悲しい。

 突然、まあ突然じゃない方がおかしいのだが、ピンポーンという音が二回鳴った。
「ちょっと、あやの。出てくれない? NHKだったら適当に誤魔化してね」
 母さんが言う。
「え、わたし? 嫌よ。こういう場合は、弟が行くべきでしょ?」
 やっぱりこうなった。
 渋々俺は立ちあがり、玄関へ向かった。



40 名前:No.11 フタゴのシスター 4/4 ◇K0pP32gnP6[] 投稿日:07/06/24(日) 12:33:22 ID:aLGQ9ld0
 予想通り、来客はNHKの集金だった。「すいません、今親出かけてるんで」
 なぜ、俺はここにいるのか。それは俺が弟だから。
 要するに、生まれる時にあやのの方が、実は先に出て来ていた、という話。
 十七年間生きてきたものが、少し崩れたような気分。

 P.S.
 ケーキを切り分ける際、「弟だから!」と駄々をこねたら、ホールの半分ほどを獲得し
ました。
 それで無かった事にしようと思います。




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