【 Unreal 】
◆DttnVyjemo




33 名前:No.10 Unreal 1/4 ◇DttnVyjemo[] 投稿日:07/06/24(日) 12:30:59 ID:aLGQ9ld0
 俺が四つの時、お袋が家を出て行った。それ以来、俺は親父と二人で暮らしてきた。
 親父は再婚をしなかった。よく覚えていないが、小さい頃は俺もよく親父に「新しい母」をねだったものだという。その無邪気で残酷なおねだりに、いつも親父が
「女はもうこりごり」と疲れたように返していたことだけは覚えている。しばらくすると俺も母のことは忘れ、父子家庭であることも苦にはならなくなっていった。

 そんなある日、あれは暑い夏の日の事だったか、俺が予備校から帰ると、居間にセーラー服を来た女の子が座っていた。俯いたままなので顔はよく見えなかったが、
汗で湿った夏服が肌に半ば透けながら貼り付いていて、その薄茶色は俺を大いにどきりとさせた。そして漂い来る汗混じりの甘い匂いにくらくらしたのを覚えている。
「今日から優美がうちで暮らすことになったから」
 俺が何か言う前に、その日に限って早く帰ってきていた親父が、台所からビールとビアグラスを持ってきてそう言った。あまりに自然な口ぶりだったので、
その瞬間は俺も「はあ」と生返事しかできなかった。え? 優美って誰?
「……はあ!? ちょっと待て。え? 優美?」
 セーラー服の中学生は俯いたまま押し黙っている。優美。思い出した。小さい頃、お袋に連れて行かれた妹だ。その優美が何で今頃?
「母さんが死んだんだ。しょうがないだろ」
 改めて俺は、殴られたような衝撃を感じた。
「ちょ……死んだっていつだよ! え、お袋!?」
「先週の金曜だって。事故らしい。まだ若いのに……。土日に葬式行ってきたの知らなかった?」
 ビールの長い缶を開けると、親父は缶に口をつけて一口二口飲み込んだ。お前、そのビアグラスは何のために持ってきたのかと。
「いや、俺、一応息子だろ? ふつう言うだろ、そういうこと。何考えてんだよ!」
 親父はビアグラスにビールを注ぎ始めた。最初からそうしとけっての。
「実は母さんな、節子さんは……お前の母さんじゃないんだよ」
「はああ!?」
 親父の話によると、俺の実母は、産後の肥立ちが悪く、俺を産んですぐ亡くなったそうだ。その後すぐ親父は節子さんと再婚した。その頃の記憶がまだらの俺は、
てっきり節子さんをお袋だと思いこんでいた。言われてみれば乳を飲んだ記憶はない。もっとも、哺乳瓶を吸った記憶もないのだけれど。
「金曜に『明日の夕方用事あるか?』って訊いたろ? おまえ、なんだかのアニメ見るからダメって言ってたじゃん」
「いやまあ、言ったけどさ……」
「生みの親でもないわけだからなあ、もう十何年も会ってないわけだし」
 いきなり衝撃の事実。納得させられたような、釈然としないような、そんな俺に対し、親父はさらに追い打ちを掛けるかのようにこう言った。
「あー、お前と優美は血ぃ繋がってないけど、手出しちゃだめだぞ」
「はああああ!?」
 要するに、節子さんは親父と一緒になったわけだが、浮気をして別の男の子を孕んだらしい。親父の連れ子の俺と、浮気でできた娘。だから優美と俺は遺伝子的には他人だ。
「じゃあ、こいつの父親は何してんだよ」

34 名前:No.10 Unreal 2/4 ◇DttnVyjemo[] 投稿日:07/06/24(日) 12:31:19 ID:aLGQ9ld0
「母さんが家を出て、すぐに別かれたって。それから母子家庭で苦労したそうだ。っていうかお前、妹のことを『こいつ』呼ばわりするな」
「うっせーよ。じゃあ俺のこと『お前』呼ばわりすんなバカ」
「バカとは何だバカとか。ったく。どういう教育してんだ最近の親は。なあ、優美」
 親父の冗談に優美は笑った。中学一年というわりには早熟で、身体はすでに女の色香を放ちつつも、笑顔は少女のそれであった。俺がそれきり反論も忘れてしまったのは、
優美の笑顔が、当時俺の好きだったアニメのキャラにどこか似ていたからかもしれない。
「でもそんなこといきなり言うかよ! 血が繋がってないとか」
「いやー、だって親父さんと優美は知っててお前だけ知らないってのも変だろ」
「そうかもしんねえけど……」
「まあ、そういうことだからさ。優美。悪いけどしばらく居間で寝てくれないかな。週末にでも親父さんの部屋開けて、そこ優美の部屋にするから」
 優美は黙ってうなずいた。俺は何となく居づらい空気を感じ、自分の部屋に戻った。優美の寝相は極端に悪く、翌朝親父が朝起きて居間に入ると、優美が半裸で
床に大の字になっていた。次の日から優美は、散らかったままの親父の部屋で寝ることになった。

 父子家庭だった我が家では、定期的に家政婦さんが訪れて、家事全般を行うことになっていた。優美は実質的に居候という立場を負い目に思っているのか、そうした
家事を全般引き受けてくれた。その上しばしば「置いてくださってありがとう」のようなことを言っては親父にたしなめられたりもしていた。

 考えてみれば、それまで女っ気がない上に、家に、突然血の繋がっていない妹があらわれ、本人は知ってか知らでか、色香を振りまいているのだ。男の性欲が最も盛んな
この時期に、意識するなというほうが無理だろう。優美が家に来てから、洗濯機のフタを開けなくなったり、部屋にトイレットペーパーを置くようになったりと、
俺の生活ルールが色々と変わった。
 突如現れた「抑圧された思春期の性」に苦しんだ受験生活だったが、なんとか市内の大学に合格することができた。これで4年はのびのびと遊べる。と思っていたら、
合格を祝う晩餐の席で親父がこう言った。
「お前はこれで片づいたとして、今年は優美の番だからな。しっかり勉強みてやれよ」
 俺の受けた学科は数学と英語で受験できるところだったから、理科や社会はてんで勉強していない。優美は公立に行くつもりらしく、五教科を勉強しなければならない。

 勉強を見るのはまだいいにしても、別の切実な問題があった。
「お兄ちゃん、ここ教えて」
 そう言って、青臭い匂いの立ちこめる俺の部屋に優美が入ってくるのだ。臭いは煙草の灰をゴミ箱にぶちまけることで解決したが、さらに重要な「おかず隠匿問題」がある。
無造作に置いているそれを見つかった時には、「また来ます」と言って部屋を出てしまった。これでは勉強どころの空気ではないし、このままでは戦闘中に優美急襲という事態も
想定できる。なので事あるごとに積極的にこちらから「優美勉強わかんないところないか?」と振るようになった。要するに、優美の部屋で教えてしまえばいいのだ。
攻撃こそ最大の防御也!

35 名前:No.10 Unreal 3/4 ◇DttnVyjemo[] 投稿日:07/06/24(日) 12:31:35 ID:aLGQ9ld0
 ……考えが甘かった。敵地での戦闘はさらに厳しい状況を招いた。もともと親父の部屋は四畳半の上に、二人分の家具があるため可動空間がもの凄く狭い。
そこに年頃のメスが発する色香が広がるのだ。後ろに立つにせよ、ベッドに座るにせよ、空気が動くたびに俺の本能を愛撫する薫りが立ちこめる。
「……で、硫黄は手が六本、酸素は手が二本ずつ余ってるから、こうやって手を握り合って硫酸イオンSO2-になるわけ」
「えー、でも同じ一六属ってことは酸素も手が六本生えてるんでしょ? 四本はどこいっちゃうの?」
「手っていうか穴なのね。八つの穴に六本の手が生えてるの。穴が全部埋まるか、全部開くと安定するわけ。で、酸素はこの穴を埋めたがるし、窒素は六本の手を
穴につっこみたがるのね。酸素の二つの穴には、窒素の手が二本ずつ入ると。で、窒素は手が二本余ってるから、二つ穴のあるやつを探すわけ」
「そっか。それで穴があるHを二人捕まえるのか」
「そう。それで2H+とSO4-になる。」
「Hの穴とかつっこみたがるとかなんかエロい」
 優美にしてみれば地口のつもりなのだろう。だが、人が苦労して積み上げ来たものをぶち壊しにしたことには違いない。その日それから俺が何を教えたかは覚えていない。
だが、浴室に忍び込んで洗濯機の中から下着を取りだし、それで自慰をしたことだけは覚えている。

 その日から、俺の優美を見る目は変わった。気取られないよう最新の注意を払ってはいた。だが優美はすぐに気づいたに違いない。それからほどなくして、事あるごとに
優美も俺を挑発している事に気づいた。短くて大きいホットパンツを穿いて椅子の上に立ち、尻をこっちに付きだして見せたり。暑いと言いながらシャツの胸をはだけて煽って
見せたり。後ろに立つ俺を意識しての事だろう。そして俺が不自然な前屈みになるのを愉しんでいるようだった。心なしか、服装も性を意識したような格好が増えた気がした。
 ある日のこと。
「お兄ちゃん」
「なに?」
「キスしたことある?」
「…………!?」
「キスってどんな感じ?」
「バカ! 受験生が何言ってんだよ!」
「フフフ。したことないの? お兄ちゃん……あたしとしてみる?」
「バカ! からかうな! 真面目に勉強しろ! 勉強!」
 教科書を丸めたメガホンで優美の頭を叩き、俺は部屋を出た。

 いつか一線を越えるかも知れない。そんなことすら考え始めていた。いや、どういうシチュエーションでそういう流れに持って行くか、そういった妄想すらし始めていた。
男と女が長い時間二人きりで居れば、番にならないほうが不自然だ。事実そういうものだと思うが、あの頃の俺は、そういうロジックで自分の想いを正当化していた。

36 名前:No.10 Unreal 4/4 ◇DttnVyjemo[] 投稿日:07/06/24(日) 12:31:54 ID:aLGQ9ld0

 優美の合格発表の日。予めケーキも用意しておいた。もちろん、不合格の時は親父と二人でこっそり食べきる気だった。大学が春休みで昼過ぎに起きた俺は、優美からの
連絡を待ちわびながら、どうすれば良いムードを築けるかをぼんやり妄想していた。
 日の暮れかかった時間になり、ようやく家の電話が鳴った。
「遅いぞ優美! どうだった? ダメだったか?」
「博之か? いいか、落ち着いて聞いてくれ。――優美が死んだ」
 優美が家に来たときと同じように、親父の言葉は直截であった。その後どういう説明があったかは覚えていない。どうやって病院に着いたのかも覚えていない。
病院の入り口の椅子に座り込んでいた俺を、親父が抱えるように霊安室まで運んだことはうっすら覚えている。

 男友達のバイクに二ケツしていて、パトカーに追われてコケたのだそうだ。街の仲間達かよ。DQN死じゃねえか。悔しいやら、腹立たしいやら、情けないやらで、
俺は病院の壁を、感覚がなくなるまで拳で打ち据えた。
 ……男友達。優美はそいつとどういう関係だったのだろう。俺に向けるよな仕草を、優美はそいつにもしていたのだろうか。思えば俺は、優美が去年までどんな暮らしを
していたのか、学校はどういう生徒だったのか、誰とどこで遊んでいるのか、そういう話をひとつも知らないことに気づいた。不意に優美の中に、鵺のような黒い闇が
潜んでるように思えてきた。

 優美が司法解剖から帰ってくると、葬儀屋によって大きいバスタブのようなものが持ち込まれ、葬儀屋と共に優美の身体を湯灌した。初めて見る優美の裸。
首から下に向けて一直線に縫い目が走っている。その末端は、大人と変わらないほど豊かな密林が覆っていた。乳房は力なく型くずれし、乳首も白く萎んでいる。
解剖に時間を要したせいで死後硬直がとけてしまっており、葬儀屋はやりにくそうだった。
 湯灌も終わり、死化粧もして、優美は改めて美しさを取り戻した。その唇に、その乳房に、その秘部に、いつか触れる気で居た自分の皮算用。妄執に囚われた俺は、
父が席を外した隙に、優美の股間をまさぐった。経帷子がはだけないように気を遣いながら、クンニでもするかのように脚の間に顔をすべりこませ、そっと脚をのける。
お湯につけて動かしたせいか、死後硬直はほとんど解け、水っぽくふるえる内股がゆっくり開いた。

 綿の詰められた膣に、処女膜はなかった。

 引きつった笑いが漏れた。親娘揃ってビッチかよ! あちこちで発情しちゃフェロモン振りまいてたってことか。兄貴でもDQNでも誰でも良かったってことか。糞! 畜生!

 戻ってきた親父は、優美の屍体と俺を見比べ、俺を思いきり殴った。今まで何度となく殴られたことはあったが、これほどまで怒気に満ちた拳は初めてだった。
口の中が切れ、何度か血を飲み込んだ。折れた奥歯をゴミ箱に吐き出した。
 やがて痛みを感じ初めると、不意に悲しみがこみ上げた。死んだのは妄想の肉穴ではない。妹の優美なのだ。今更そんな大事なことを思い出した俺は、
優美が死んで初めて泣いた。そして泣きながら、「女はもうこりごり」と独り言ちる親父の疲れた表情を思い出した。




BACK−なんか現国とかそんなんがよかった◆DCalVtagfA  |  indexへ  |  NEXT−フタゴのシスター◆K0pP32gnP6