【 ずっと二人で 】
◆f0hgRiOjYM




29 名前:No.09 『ずっと二人で』 1/4 ◇f0hgRiOjYM[] 投稿日:07/06/24(日) 12:24:51 ID:aLGQ9ld0
 僕はユカが大好きで、ユカも僕のことが大好きだった。ユカに「好きだよ」と言うと、はにかんだ表情をして「私も、ユウキのこと、好きだよ」と言ってくれた。色白の頬が、少し朱に染まって、僕の心をくすぐった。春風のように笑ってくれた。
 僕達は二卵性双生児だったから、全然似てなかった。僕は人一倍寂しがりやで、先に生まれたと言うのにずっとユカのことを離さなかった。ユカはそんな僕をよく構ってくれたし、積極的に他の人と遊んだりした。そのときは必ず、僕の手を引っ張ってくれた。
 はっきり言う。
 僕はユカに恋愛感情を抱いている。本当はそんな風に思いたくなかった。そう思う自分を否定したかった。
「ユカ、僕、ユカのことが好きなんだ」
 いつもこう言ってお風呂上りのユカを抱きしめた。シャンプーの匂いが甘くて、切なかった。ユカは抱きつく僕の手にゆっくりあごをくっつけて「私も、ユウキのこと、好きだよ」と言った。
 これは、僕達の儀式だ。
 毎日行われる、おやすみの合図。僕とユカの二人が一緒でいることの証明。そして……

 僕とユカが、これ以上の関係にならないための楔。


30 名前:No.09 『ずっと二人で』 2/4 ◇f0hgRiOjYM[] 投稿日:07/06/24(日) 12:25:21 ID:aLGQ9ld0
 僕らは同じ高校に通っている。クラスはさすがに違うけど、お昼はいつも僕がユカのクラスに行っていた。もうすでに普通の光景になったけれど、最初にユカのクラスメイトが見せた反応は、驚きと呆然とが入り混じった無関心だった。
 今日も昼食をユカと一緒に食べている。そしていつも通りに、4人で食べることになった。
「ねー、ユカ〜。あなた達って本当に仲が良いわね」
 僕が一人占めするのを拒むかのように、いつもの二人の女友達が一緒に昼食を食べる。本当は二人で食べたいけれど、ユカが望むことを僕が拒むことはない。
「ホント、ある意味恋人レベル。羨ましいわ」
 二人はユカと良く一緒にいる友達らしい。部活も彼女らと一緒だから、学校だと僕よりも一緒にいる時間は長いはずだ。正直、嫉妬を禁じえない。
 二人が女だという事は分かっていても。
「あ、そういえばアレ、考えてくれた?」
 一人がユカに言った。ユカは分からなさそうに、「アレ?アレって何?」と言う。女友達は「もうっ」と、口を膨らません勢いで、
「アレはアレよ。ほら、六組のさ……」とユカに更なる記憶の検索をかける。
 もう一人の女友達は、口元を緩ませながらユカの顔を見ていた。僕はといえば、購買の牛乳パックの角をストローで吸うことくらいしか出来なかった。
「あ、あー。アレのこと」ユカが思い出して、さらに言う。
「そう言えば、今日だったっけ……」
「そうよ〜。で、結局どうするの?受けるの?受けないの?」
 女友達は二人でニヤニヤしている。次の発言を待つ二人にちょうど良く質問する隙が出来て、僕はストローから口を離した。
「アレって何なのさ?」
 気持ちは言動にすっかり表れた。語尾が強くなって、僕は女友達二人を驚かせたようだった。かといって、別に二人は大してひるむ事もなく、
「それは、ねぇ?」
「そそ、内緒なのだわ。ね、ユカちゃん?」
 二人でユカに寄り添った。ユカと対面に座っていた僕は三人と対峙しているようで、居心地が悪かった。

 その日、ユカは私よりも少し帰りが遅かった。僕もユカも部活は無かった。今日からテスト週間だったからだ。きっと三人で遊んでいたんだろうと、自分を抑えようとした。内心では気になって仕方なかった。
 ううん、ユカだけならきっと話してくれる。そう思いながら夕食を食べていたら、お味噌汁をこぼして母親に怒られた。ユカにお味噌汁がかかって、応急処置は済ませたものの、ユカは夕食を済ますと、まもなくお風呂に入った。


31 名前:No.09 『ずっと二人で』 3/4 ◇f0hgRiOjYM[] 投稿日:07/06/24(日) 12:25:38 ID:aLGQ9ld0
 すぐ後に、僕もお風呂に入った。お風呂はまだ湯気が残っていて暖かかった。変な煩悩が僕を狂わせる前に、カラスよりも早くあがった。
「あら、いつもよりも早いわね、ユウキちゃん」
 台所から母親の声だけが聞こえる。リビングにはユカだけ。ソファに座ってのんびりテレビを見ているところだった。
「そうそう、今日近所の藍川さんからビワをお裾分けしてもらったのよ。ちょっと待ってて。今剥いてそっちに持っていくから」
「ねぇ、ユカ……」
 僕がソファ越しに声をかける。ユカはこちらを振り向く。いつもの儀式は行われない。
「ん?どうしたの、ユウキ。なんか深刻そうな顔してるよ?」
「ちょっと話したいことがあるの。一緒に部屋行こう?」
 僕達の儀式が行われないことに少し違和感があったのか、振り向いた顔をさらに傾げるという不思議な格好をした。コンタクトケースがテーブルにあって、ユカのどんぐりまなこはきっと学校にいるときとは違う世界が見えている。そう思うことにした。
「それで、話って何?あそこじゃ話しにくいことだったの?」
 部屋は二人部屋。僕はベッドに腰掛けて、ユカは机椅子に座っていた。
「単刀直入にいうよ?」僕は覚悟を決めていった。
「アレ……って、プロポーズとか、そういう話?」
 受けるとか、内緒とか、そういう話から見えるのはそれくらいしかなかった。僕も、そこまで鈍感ではないと信じたかった。
「……うん」素直にユカは頷いた。刹那の沈黙が意味していたものを僕は理解できなかったけれども。
「六組の木下君が、私に付き合って欲しいって」
 ユカは時々僕の方を見ては様子をうかがっている。僕は、木下という奴のことを良く知らなかった。だから「どういう人?」という質問は、きっとこの場合正しかったのだ。
「水泳部なんだって。成績とかも結構上位だってアズサが言ってた。だから話をきりだしたのもアズサなの。今日返事をしてくれって言われてて……」
 唇が乾く。肘辺りから下が僕の意志とは関係なく震える。そんな僕の姿をみて、ユカはさらに付け加えるように
「で、でも!ユウキとはずっと一緒にいるし、ユウキを一人にさせたりしないよ?」と、フォローを入れてくれた。気がつくとユカは机椅子から離れて、僕の前で立てひざをつくようにして顔を覗き込んでいた。
「違うんだ……」僕は、かすれた声を絞り出した。
「何が違うの?」僕の震える手をユカが握った。
「僕は、僕はユカの事がs……」
 好きなんだ!と、言いたかった。でも、きっとそれじゃ足りないと思った。また儀式になってしまう。でも何とかして伝えたかった。だから僕は、言葉よりも先に体がユカを押し倒したんだ。
 二人が顔を見合わせるのと、母親が入ってくるのは同時だった。
「何じゃれあってるのよ?ほら、ビワよ、食べるでしょ?」母親が持ってきた皿には、良く熟れたビワが乗っていた。
「全く、いつの間にかリビングからいなくなってるんだから、ちゃんと待っていてくれないと。あ、食べ終わったらちゃんとお皿かたすのよ?」
 僕達は、何ともいえない空気の中でビワを食べた。正直、味なんて分からなかった。呆然としている僕に、ユカはお皿を片付けてから
「……もう、寝ようか?」と言って、電気を消した。


32 名前:No.09 『ずっと二人で』 4/4 ◇f0hgRiOjYM[] 投稿日:07/06/24(日) 12:25:57 ID:aLGQ9ld0
 僕は眠れなかった。眠れるわけも無く、ただモヤモヤした気持ちだけが残っていた。
 ユカは結局、その木下と付き合うことにしたのか。僕はユカのことが大好きで、それは双子だからとかじゃなくて、恋愛対象としてみている。
 ユカは、そのことをどう思うのか。そんな考えが頭をグルグルと駆け巡っていた。だから、夜中だというのに僕は、ユカの寝ているベッドにそっと腰掛けて、話しかけたのだ。
「ねぇ、ユカ。起きてる?」返事が返ってくるのはすぐだった。ユカも眠れなかったのだと思う。
「起きてるよ。……どうしたの?今日のユウキは何か変」……分かってる。
「うん、あのさ……僕ね」
 喉につかえて言葉が出てこない。たった一言が、こんなに大きくて、こんなに重たい。
「僕は、ユカのことが好きなんだ。それは、双子だからとか、そういうことじゃなくって……恋愛対象として、好きなんだ。木下とかいう奴にとられたくない……」
 そこまで言って、僕はハッとした。そして、後悔した。これで、儀式と楔は消えた。
ユカは「……うん」とだけ言った。それ以上は何も言わなかった。
「木下には何ていったの?」これも、僕が聞きたかったこと。心臓の音が、部屋中に響き渡りそうで、怖かった。
「……付き合うって、言ったよ」
 ようやくユカがこっちを向いたと思えば。今度は僕が顔を背ける番だった。
「……嫌だ」
「ダメ。いずれは誰かと付き合うんだもの」ユカはゆっくりと起き上がった。視線が、背けた目の端に届いた。
「何で僕じゃないの!?……何で僕じゃダメなの……」
「ダメじゃない。だけど、恋愛対象としては見れない」怖くてユカの方が見れない。
「何となく気づいてたよ、ごめんね、ユウキ。でもね、私は……」
 まただ。ユカはさっきみたいに僕の両手をとって言う。
「双子として、姉妹としてのあなたと一緒が良いの。今までの……お姉ちゃんと、私の関係でいたいの。……だから、お願い」
 カーテンが風に揺れて、月光がさした。僕の頬にも一筋の光。そして微笑んだ。
「……うん、分かった。……ごめんね、変なこと言って」
「今までどおりに接してくれる?」
「当たり前だよ。……頑張る」
「ありがと……お姉ちゃん」

 学校で、時々ユカと彼氏が歩いている姿を見るようになって、僕は少しずつユカから離れていくようになった。家では、今までのように仲の良い双子。
「ユカ、僕、ユカのことが好きなんだ」
「私も、ユウキのこと、好きだよ」





BACK−なんか現国とかそんなんがよかった◆DCalVtagfA  |  indexへ  |  NEXT−Unreal◆DttnVyjemo