【 猟奇的な妹者 】
◆NCqjSepyTo




14 名前:No.04 猟奇的な妹者 1/4 ◇NCqjSepyTo[] 投稿日:07/06/23(土) 12:14:36 ID:nTui5tB3
 今兄貴殺してきた、リアルで。
いや、流石に本当に殺したわけでは無いのだけれど。取り敢えず暫くは再起不能な状態になっている
と思う。先ず軽く右頬を殴って、鳩尾に一発。その後ブルドック決めてからピクピクして倒れている
兄貴のおでこに油性マジックで肉って書いてきた。
少しやり過ぎたかという気もしなくはないが、あれ位しなければ兄貴が自分の発言したことの重大さ
に気付けないだろう事も、また事実だ。いや、あの後ドラゴンスリーパーに持ち込んでやっても良か
ったかも知れない。勿論棚橋式だ。
 重度のガンオタクである兄貴が真性童貞であろうことには薄々気付いていたものの、此処まで酷い
とは流石に思い至らなかった。どうやらうちの兄貴、銃器に関する知識以外は小学生並みかそれ以下
のものしか持ち合わせていないらしい。
流石にあれ以上殴れば病院行きにしてしまうだろう、でも私の腹立ちは収まらない。しょうがないの
でまくらに正拳突きをお見舞いすることにした。殴り応えは全く期待できないが。
 私だって兄貴が憎くて殴るのではない。だがしかし、たまにどうしようもなく腹が立つことがある
のだ。
青春の殆どを銃器に捧げてきたうちの兄貴は、知らないことが多すぎる。特に……性的な意味で。
まああそこに居たのが私だけで良かったと言うべきか、もし両親が居たりなんかしたら即緊急家族会
議の招集がなされていただろう。差し詰め議題は「お兄ちゃんの無知加減は異常〜性的な意味で〜」
と言ったところか。私にとってはそれこそ悪夢だ。私は兄貴が空気を読んで、両親の前であの言葉を
発しないように心の底から祈るしか無かった

15 名前:No.04 猟奇的な妹者 2/4 ◇NCqjSepyTo[] 投稿日:07/06/23(土) 12:14:56 ID:nTui5tB3
 我輩の妹はマジヤバい。性格がヤバい。どれくらいヤバいかっていうとマジヤバい。
我輩は大の字になって倒れながらも懸命に意識を保っていた。顔面は崩壊しているし、頭は割れるよ
うに痛いし、鼻が熱い。鼻血が出ているのかもしれない。鳩尾は未だにズクズクと痛み、呼吸がし辛
い。ああ、顔面崩壊は元からか。
 我輩は朦朧とする意識の中で事の起こりを思い返した。ほんの三時間ほど前の事だ。我輩はいつも
通りのガン仲間三人と駅前のファストフード店に居た。妹や他人から何と言われようと後ろ指差され
ようと、彼らはとても気のいい奴だ。
「いやあ、それにしても吉田兵長はうらやましい限りでありますなあ、妹さんがいらっしゃるとは」
 まずこの話題を振ったのは、通称軍曹、我が軍団「セイント・クロス」のリーダーだ。
「勿論、あちらの方はもう経験済みでしょうなあ、羨ましいですなあ、ムホホッ」
 どのような話の流れだったかは忘れたが、我輩に妹が居ることを知ると彼らは口々にそう言って
きた。
「あちらとは何でござるか」
 本当に分からない我輩が尋ねると、よってたかって冷やかしてくる。
「またまたあ、ご謙遜を」
「オウフ! 皆まで言わせるおつもりでありますかあ」
 そして一人が我輩の耳元でそっと囁いた。
そこまで思い出すとさっきより頭が痛みを増した。
嗚呼、神様、仏様。我輩はこのまま死ぬのですか。妹に殺されるのですか。
悲しくなって涙が出てきた。
ニート五年生、親に何の恩返しも出来ないままに。
母上、ごめん。

16 名前:No.04 猟奇的な妹者 3/4 ◇NCqjSepyTo[] 投稿日:07/06/23(土) 12:15:12 ID:nTui5tB3
 大分気持ちが落ち着いてきたので私はテレビをつけた。丁度スポーツ特集をやっていて、今注目の
若手男性アスリートとやらがピックアップされていた。その中には兄貴と変わらない年の王子から、
兄貴より随分年下の王子までもがアホみたいな笑顔を浮かべながら居並んでいる。
こんな王子様が兄貴だったら皆に自慢できるのにと思わなくも無いが、私はリモコンを手に取ると直
ぐに御用達のプロレスチャンネルに切り替えた。
 逞しい男達が鍛え上げた己の肉体を武器に世界の頂点を目指す。その中には正統派ヒーローも居れ
ば汚い手を使うヒールも居る。口が悪い上に手のつけられない程の暴れん坊も居る。目潰し金的流血
沙汰なんて日常茶飯事だ。女の子の大多数は悲鳴を上げて目を背けるのであろう。それでも、ニコニコ
と胡散臭い笑顔を振りまくだけの人畜無害な王子様なんぞに私は興味が無いのだ。男はやっぱりこう
でなくちゃ! そう思いながらテレビから目を移すと、壁から私に向けられた視線と目が合い思わず笑み
が零れる。
「西村様……」
 そこには私の大好きなプロレスラー、西村修のポスターが貼ってある。彼はプロレスだけでは無く
哲学にも精通していたりして、「無我」という理論を語りながら美しい倒立をきめるその姿には神々
しささえ感じる。彼に一目惚れしたその瞬間から、私のプロレスな日々が始まったのだ。そこは、そ
の頃からずっと変わることなく私の部屋の中に設けられた彼だけの為の特等席だ。
西村様にコブラツイストをかけられたい。きっと彼氏とするセックスより気持ちがいいだろう。それ
だけで私は昇天してしまうかもしれない。あの長い脚を巻きつけて……
 うっとりとそこまで考えた所で自省の念に駆られる。さっきは兄貴のことをキモオタだの何だのと
散々罵ってしまったが、私も大概重度のプロレスオタクだ。
ニート二年生、兄妹揃って穀潰し。
母さん、ごめん。


17 名前:No.04 猟奇的な妹者 4/4 ◇NCqjSepyTo[] 投稿日:07/06/23(土) 12:15:27 ID:nTui5tB3
 何とか一命を取り留めた我輩は、痛む体を引き摺りながら自室に戻った。ベッドに横たわると気を
紛らわすためにテレビをつける。その中では、名前はよく分からないが年端もいかない少女達がやけ
に露出度の高い服を着て激しく踊っている。
こういう世間的に「可愛い」と認知される妹が居れば我輩も少しは心癒されるというものである。
まあ我輩は、今の妹も充分可愛いと思うのだが。いや、決して彼女のプロレス技が怖くて言っている
わけではない、マジで。
「そうそう、キンシンソーカン、キンシンソーカン」
 仲間の一人が教えてくれた言葉だ。全く意味が分からなかったがそう答えるのが悔しかったので、
仲間達には「やりまくりでありますよお、ニンニン」と返しておいた。彼らの言葉から「妹が関わる
もの、羨ましいこと」であるらしいということは何となく理解が出来たのである。
それでも意味が分からないのは変わらないので、実際に妹に聞いてみたらこのザマだ。
か弱い兄貴にブルドックキングヘッドロックを食らわすなんて、我が妹は何て凶暴……いや、やんち
ゃなんだろう。可愛すぎて涙が出てくらあ。
しかしこうなってしまった以上、妹にその言葉の意味を教えてもらうのは無理であろう。仕方が無い
ので我輩はまだ少し痛む体に鞭打ってパソコンを立ち上げることにした。自らでその言葉を調べよう
と思ったのだ。
グーグルさんに聞いてみる。「グーグルさん、グーグルさん、キンシンソーカンとは何でござるか」


その瞬間我輩は、今までに出したことの無い程大きな叫び声を上げてのた打ち回った。

兄貴が物凄い声で叫んでいるのが聞こえる。漸く本当の意味を知ったらしい。

終わり




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