【 寄り合い 】
◆0jyVYWNIas




61 :No.60 寄り合い ◇0jyVYWNIas:07/06/17 23:28:36 ID:s3iEwa6p
 人々が探求を始めた発端は些細なものであったが、また必然的なものでもあったのだろう。それほど彼らは知識に飢えており同士を求めていた。曖昧なものに見切り
をつけ、考究を専門家に押し付けた世間。それに対し知識欲に溢れた一部の人々の中から出た発案者。希望に溢れる彼らは、その発案者の言葉を受け、ありとあらゆる
事象について研究した。知識を持ち寄りそれぞれが思う集大成を作り上げた。もちろん失敗もあった。何しろ不慣れなのであり元々そういう連中を集め発足した活動だ
からだ。しかし、発案者は結局名望がある者に引導を渡したのである。後継者も先代と同じようにテーマを発表し、人々を率いつつ彼らとともに論考した。その流れが
定着した頃、参加者は自分たちの間で一体感が生まれているのを感じた。この関係が未来永劫続くと思っていた。
 そんなある日、また一つの題材が出る。彼らはいつものようにそれぞれの説を提唱し、同じように論議を好む人間と論じ合った。曰くそれは現実にせよ虚構にせよ歴
史を持つものである。曰くそれは思い込みである。曰くそれは人とともにあって初めて存在価値があるものである。昔から変わらない熱烈な議論は続いた。彼らは夜が
更けようとも朝が来ようとも語り合った。その調子は一向に衰えること無く、憑かれたように論戦を展開し続けた。だが決して争いは起こらない。話題が常時変化する
にもかかわらず奇妙な調和が保たれ、彼らは徹夜で昼を迎える。いつもの光景であるし誰も疑問を持つことはないのだ。出る杭は叩かれる。少しの差は個性だが突飛な
思想は異端だ。誰も何も言わないが、その考えも彼らに共通するものであった。その作られた平和に包まれ、今回の品評会も無事平穏に幕を閉じる。
 しかしその安寧は打ち破られた。話題が悪かったのだろう、反省会中に活動の根本を揺るがすような意見が出た。何故我々は語り合うのか。そう言えばその間の具体
的な記憶がない。何をしているのだろうか。普段なら鼻で笑われあっという間に修正される類の問いであったが、前述の通り今はそのような雰囲気ではない。傍から見
れば異様な内容の論争は続いた。今度ばかりは平穏な進行とは言えなかった。非現実的な仮説が乱立し極論が飛び交う。
 そのうちに彼らの反応に疲労が見え始めた。決まって意見の後に訴えを残すのである。先ほどまでの熱狂とは裏腹に、皆抜け殻になったかのようだった。一人、二人
といつの間にか姿を消す。
 彼らは同じようにお題の一面を知った。何らかの作用がある言葉こそが呪文なのだ。そして自分たちはずっとそれに影響され続けていた。今まで我武者羅に突き進ん
だのも全て呪文の作用だ。本来の議論、本来の作風、本来の生活を取り戻そう。全部悪い夢だったのだ。不可抗力だったのだ。
 今なお一体感があった。
 しかし同時に心の奥底で望んでいた。いつか今までと同じ関係に戻る筈だと信じていた。あの日々は紛れも無く楽しいものであったし、自分にはあれらが必要なのだ
と知っている。「ノリ」と呼ばれた異常な一体感が作為的なものであったと悟りつつもなお、彼らは互いを求めた。
 それから数日後、呪文が唱えられた。人々は何事も無かったかのように集まった。



BACK−魔女の囚人◆cWOLZ9M7TI  |  INDEXへ  |  NEXT−ココロ◆We.HF6BFlI