【 魔女の囚人 】
◆cWOLZ9M7TI




60 :No.59 魔女の囚人 ◇cWOLZ9M7TI:07/06/17 23:27:39 ID:s3iEwa6p
古臭い布切れの隙間からわずかに差し込む日の光が、時間感覚のない私に朝を教えてくれる。
薄汚れ、物があちこちに散乱している部屋をなんとなく見渡す。
狭く、汚い、もはや見飽きた部屋だ。
私が魔女に囚われてから、もうかれこれ20年以上になるか。
最近は全く眠れない。
目を瞑ると、どこからともなく不安がふつふつと湧き出てきて、あっというまに私の小さな心の器を満たす。
そうして眠れぬまま、ひたすら机に向かって夜を過ごす。
こんなことを毎晩繰り返している。
――気がどうにかなってしまいそうだ。
気分を変えるため、そして座りつかれた体を動かすため、私は音をたてぬようそっとドアを開けた。
薄暗い廊下に漂っていた冷気達が、ここぞとばかり部屋に入り込んでくる。
もう冬が近い。冬が終われば、大嫌いな春がやってくる。
そう考えてまた一段と気が滅入った。
――まぁ、ここから出られない限り関係はないのだが。
どうやら魔女は下の階にいるらしい。微かに物音がする。
私は出来るだけ気配を殺しながら階段を下りた。
年季が入った木の階段は、どう気を配ってもきしむ音がする。
慎重に下に降り、魔女がいるであろう部屋を覗く。
魔女は、何が入ってるか皆目検討もつかぬ大きな鍋を、手に持った銀の棒でかき回していた。
私は魔女に見つからぬうちに部屋に戻ることにした。
もし見つかった場合、魔女すぐさま不思議な呪文を唱え、私を苦しめるだろう。いつものことだ。
魔女が唱える呪文はいくつかあるのだが、大抵は同じ呪文だ。
その呪文が私には最も効果的だということを、奴はよく解っている。
サディスティックな魔女なのだ。最近は機嫌が悪いのか、顔を合わすたびにその呪文を唱える。
ギシィッ
――しまった。
恐ろしい呪文に対する恐怖のあまり、音の鳴る階段の事を忘れていた。
魔女の足音が迫ってくる。完全に気づかれた。
魔女は私を見つけるといくつかの言葉を私にぶつけ、そしてとどめに例の呪文を唱えた。
「ハヤクハタラキナサイ。」         ―了―



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