【 囁いた言葉 】
◆ZRAI/3Qu2w




56 :No.55 囁いた言葉 ◇ZRAI/3Qu2w:07/06/17 23:09:06 ID:s3iEwa6p
 昔々ある国に、それはそれはとても美しい王女様がおりました。その美貌は近隣諸国の貴族の男や王たちを魅了し、あらゆる美女にも醜女にも憧れられる程でした。
 そんな美貌を持つ王女様でしたが、ある日、その美しさに嫉妬した魔女が巧みに王女様をお城から連れ出し、森の奥深くまで連れ去ってしまいました。
王女様の父である王様はすぐに兵を出して王女様の捜索にあてられ、近隣諸国の王たちもこぞって王女様を探しました。そして十日ほど経ったある日、ついに王様は魔女と王女様の居場所を突き止めました。
しかしなんということでしょう。せっかく王女様を見つけたというのに、そのお姿はすっかり眠っていらっしゃるように見受けられます。魔女に問い質してみると、
なんと永き眠りについてしまう魔法をかけたというのです。これを聴いた王様たちはなんとかして魔女に魔法を解く方法を聞き出そうとしましたが、魔女はちっとも口を割ってはくれません。
 そこで王様は世界中の学者たちを集め、王女様の眠りを解く方法を見つけようとしましたが、何日かけても見つかりません。どんな魔法を使っても、王女様は目を覚ましません。ついに王女様が眠りについたまま、何年も経ちました。王様はまだ王女様のことを諦めていません。
 ある日、王女様の噂を聞きつけた吟遊詩人が王様の下にやって来ました。曰く、自分は王女様の眠りを解いてみせるというのです。
今までにそういう輩は何度も来ており、王様は、今までの者と同じく失敗に終わるだろうという気持ちになりながらも、それでも今度こそはという気持ちが押し寄せ、結局吟遊詩人を王女様が眠っている部屋に連れて行きました。
 吟遊詩人は部屋に入るなり、王女様の美しさに見惚れましたが、やがて王女様の前に跪き、愛の言葉を囁きました。しかし王女様は起きてくれません。
実は今までも様々な国の王子たちが王女様に愛を囁きましたが、一向に目を覚まさなかったのです。
吟遊詩人の場合だけ起き上がるという事はありません。吟遊詩人の後ろにいる王様から溜息が聞こえてきました。
 次に吟遊詩人は口早に魔法の言葉を唱えました。それでも王女様は目覚めてくれません。その言葉は、何年も前に学者が試したものでしたが、
結果はご覧の通り、全く通じませんでした。王様からはまた溜息が聞こえてきました。
 王様がとうとう吟遊詩人に歩み寄ろうとしたとき、苦笑した吟遊詩人は王女様の耳元に近づき、何か言葉を囁きました。すると王女様の目がカッと見開かれ、起き上がって吟遊詩人の頬を平手打ちしました。
これに王様は腰を抜かし、涙を流してしまいました。その後、王女様が目覚めたという報せは地の果てまで届き、やがて二人は結婚しました。
 吟遊詩人が王女様に囁いた言葉はなんだったのでしょうか。それは王女様も吟遊詩人も語ってはくれませんが、言うならば、王女様はも美しいと同時に、その美しさに劣らない誇りを持っていたのです。



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