【 歩み寄る者 】
◆InwGZIAUcs




51 :No.50 歩み寄る者 ◇InwGZIAUcs:07/06/17 22:22:34 ID:s3iEwa6p
 ロイとリースは「スペリオル魔法大学」の同級生。関係上はせいぜい顔見知りといった二人だ。
しかしロイはリースを心から愛していた。全てを包み込むような誰よりも優しい彼女を……。
 そんなロイは前代未聞の天才魔法使いだ。しかし、彼は常々この世界を呪っていた。「偽善に満ちた世界。
世界は汚れている。誰にも知れず消えてしまえばいい」と。そう、彼は世界に失望しているのだ。しかし、
ロイはリースに出会って少しだけ変わったようだ。ロイの中で、自分を中心に回っていた世界が、
彼女を中心に回り始めたのだ。そして盲目的にリースに心惹かれていった。
 そんな中、ロイは一つの究極規模の魔法を完成させる。正確には未完成の魔法だ。そしてそれは、リースの幸せも
ロイの願いも叶える事ができる。しかし、魔法を発動させる呪文の完成にはリースの言葉が不可欠だった。

「貴女のことが好きです。お付き合いして貰えないでしょうか?」
 ロイはリースにその切なる思いを告げた。真摯な瞳をリースに向ける。
「え? その……私は――」
 その先を聞くまでもなくロイは微笑んだ。するとリースから閃光が迸り、彼らの視界を真っ白に包み込んだ。
――世界は終わる。リースとその好きな人を残して……。俺も、まあ消えるだろうな……。
 ロイが発動させたのはリースとその意中の人物を残して全てを消し去るという魔法だ。告白した時、
彼女の脳裏に浮かぶ愛しき人以外全て、痛みもなく消えてしまう……彼曰く、
消し去ったあとの真っ白な新世界のアダムとイブを産み出す魔法である。
――きっとリースなら綺麗な世界を産み出してくれる。そして俺はその世界に生まれ変われますように……。
 彼の意識は真っ白な世界へと落ちていった。

 ロイが目を覚ますと、リースの顔が目の前にあった。先程の光はもう収まっている。
「あの……大丈夫ですか?」
 自分がリースの意中の人だったのか? まさか? とロイは少し動揺した。しかし、確かに生きている事を
五感は伝え、世界も何一つ変わっていないように見える。ロイは起きあがり、口を開いた。
「さっき……『私は』の後、貴女はなんて言ったのですか?」
「え? あ、私は……私は異性の好きってよくわからないんです……って言いました」
 ロイは目を丸くする。そしてこう考えた。脳裏に誰も浮かばなかったか……もしくは、世界の全てを
思い浮かべたのか……と。なんとなくロイは後者のような気がした。そして、こんなに心の綺麗なリースが存在する
今の世界を、ロイは初めて少しだけ愛おしく思えた。
「……よければとりあえずお友達になりませんか?」



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