【 Amazing spell 】
◆kCS9SYmUOU




50 :No.49 Amazing spell ◇kCS9SYmUOU:07/06/17 21:55:16 ID:s3iEwa6p
 緊急事態とは、多分このような状況を指すのだろう。
 まさかこのような事態が実際に起こりうるとは、夢にも思わなかった。

 そう、駆け込んだ公衆便所に、紙がなかったのである。

「クソッ……もっとしっかり確認しておけば良かった……!」
 和式便器にまたがった状態で悪態を吐く。目の前には空になったペーパーホルダー。
そして右手には、かろうじて取ることのできたペーパーがあった。が、しかしその大きさは
千円札一枚分にも満たない。これでケツを拭け、というのは流石に無理があるというものだ。
「どうすれば……! どうすればいいんだ……!」
 考えても考えても、妙案は浮かんでこない。拭かずに出るか、手で拭くか。究極、極限の二択。
 しかしそんな時、ふとあることを思い出した。
「呪文……! そうだ確かおばあちゃんが、こんな時に役立つ呪文を教えてくれていたんだ!」
 死んだおばあちゃんは、不思議な力を持っていたらしい。そのおばあちゃんから教わった呪文だ。
きっと、この状況をなんとかしてくれるに違いない。そう考えた俺は、早速呪文を唱え始めた。
「――我は望む。この状況を打破する術を。エロイムエロイム、エッサイム。ピーリカピリララ、テクマヤコン。
リリカルマジカル、マギステル。バン、ウン、タラーク、キリクアク。ワクドキハートに、ドリームショック。
――来やれ! 便所紙! 我が元へ! ハイリフレ・ハイリホーーー!!!!!!」

 念を込めて、絶叫する。しかし――何も起こらない。現実は非情であった。
「うっ……なんでだ……ばあちゃんの嘘つき……」
 もう何も信じられない。深い絶望に包まれる。俺は何かにすがるように、虚空に向けて一言、言った。
「誰か……紙をくださいよう……」
 すると
「はい、ちょっと待ってくださいねー」
 ……なぬ? 何者かの声がして、すこし後にペーパーが上から落ちてきた。それを音もなくキャッチする。まさか……
そう思ったとき、外にいる何者かが楽しそうな声でこちらに尋ねてきた。
「さっきの、凄かったですね。なんの言葉ですか? 是非とも教えていただきたいのですが……」

 全部、聞かれていた。俺は恥ずかしさのあまり、その場で声もなく泣いた。         END



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