【 Avec of 邪気眼 】
◆lnn0k7u.nQ
38 :No.37 Avec of 邪気眼 ◇lnn0k7u.nQ:07/06/17 17:26:43 ID:bcoanGxO
「っく……また暴れだしやがった……!」
教室の隅で俺は右腕を押さえながらうずくまった。周りを囲む不良グループが、そんな俺をいつものように嘲笑う。
「ぶはっ、何がだよ。ほんときめえんだけど。邪気眼出せよ、邪気眼」
「や、やめろ……俺の目を見るんじゃない……! どうなっても知らんぞッ!」
昼休みに教室で弁当なんて食べるんじゃなかった。案の定、俺が一人のところを狙って襲ってきやがった。くそぅ……あと二十分もある……最悪だ。
「そうだ、俺プロレスで試したい技あったんだよなあ……へっへ」
怒りを鎮めるんだ。こいつらには何を言っても無駄。抵抗して怪我をするだけ損。本気を出して殺し合えば俺が勝つん……痛っ! 痛たたたっ!
その時、教室の扉がもの凄い勢いで開く音を聞いた。一瞬、俺を羽交い絞める力が弱まり、教室内がシーンとした。
「それがお前らの選択か……」
女の声だった。俺には何がなんだか分からないが、どうやら不良グループに向かって言っているらしい。静寂の後にざわめきが広がった。
「おいおい、なんだこの子? 俺たちに喧嘩売ってるのか? ぎゃはは、売るのは体だけにしとけよ」
「ふんっ、低俗な輩め」俺がやっと女の姿を捉えると同時に、女は声を張り上げ叫んだ。「こいつらはどうやら私たちとやる気らしい。お前に『覚悟』はあるか!」
お前というのはおそらく俺のことだろう。ったく、こうなったら黙ってやらっれぱなしってわけにもいかねえな。
「おまえ……このオレに……『覚悟』があんのか、と言ったが、見してやるぜ。ええ……おい。見せてやるよ」
そう言い放ち、俺は片目を押さえながらゆらりと立ち上がる。
不良たちを含め、周囲は呆然としていた。
「エターナルフォースブリザード!」「グラディアル・デス・デポルティブ!」
俺と女は呪文を唱えて身を守りながら、お互い接近した。誰も阻止しようとしなかったので、俺たちの合流は容易かった。
「最後は……わかってるな?」
「ああ、滅びの呪文だな……できれば…使いたくなかったんだが……」
小声で確認し合ってから、手を繋ぐ。そして、取り合った手を前方に差し出して、……詠唱。
『バルス!』
教室から飛び出してトイレの前に辿り着いた時、お互い手を繋いだままだということに気づいた。
女は照れくさそうに手を離してから「ラ・ヨダソウ・スティアーナ」と告げて、女子トイレへと消えて行った。
彼女は何者だったのだろうか。俺と同属の人間であるということは間違いないと思う。運命が俺たちを呼び寄せたのかもしれない。
「あいつとは……また会うことになりそうだな……」俺は一人で呟いてから、男子トイレの奥へ入って行った。
チャイムが鳴ってトイレから出た時、彼女と早すぎる再会を果たしたのは秘密だ。 ―了―