【 シュハキマセリ 】
◆FKI5qShCrE




35 :No.34 シュハキマセリ ◇FKI5qShCrE:07/06/17 15:49:35 ID:bcoanGxO
 「『シュハキマセリ』って何ていうバンドの曲だっけ?」
 私はテンションが高かった。だって、ヒロシと二人だけのスタジオにいるんだもの。いつもより半オクターブくらい高い声で話していた。
 「あったね。すごい古い歌だよね」
 「そうそう。なんだっけな。思い出せないな……」
 ヒロシと私は中学生の頃からバンドを組んでいる。他のメンバーはずいぶん入れ替わった。私はギターを弾きたいのだが、ベーシストが見つからなければ、ベースを弾いた。それでも全然かまわなかった。ヒロシと一緒にいられれば、それが一番楽しかった。

 ―――シュハキマセリ 何かの呪文かと思った

 ヒロシが突然、歌い出す。それに合わせて私はハモった。
 「たしか、こんな感じの歌だよな。俺も『シュハキマセリ』って意味が分からなかった」
 「そうそう。私も分からなかった。でも、ヒロシ、よく覚えてるね。ヒロシは、昔から忘れっぽかったのに」
 ヒロシは、笑いながら、タバコを取り出した。私は、ヒロシがタバコに火をつける仕草が好きだ。だから、私は三年前のクリスマスにジッポーをあげた。ヒロシとキスをしている気分になれるように……。そんな日は来るのだろうか? 私の思いが伝わる日は来るのだろうか?
 「あれ? ジッポーがないや。ま、いっか」
 心臓が、ドクンと大きな音を立てた。平静を装うが、腹立たしさがこみあげる。私があげたのに……。忘れてる!
 そのとき、スタジオのドアが勢いよく開いた。他のバンドのメンバーが到着したのだ。ドカドカと4人が入ってくる。
 「ヒロシ。お前、俺んちにジッポー忘れてたぞ。これ、高そうなジッポーだな。女からのプレゼントか?」
 タバコをくわえながら、ポケットをさぐるヒロシにメンバーが声をかけた。ヒロシはジッポーを受け取り、火をつけながら肩をすくめた。
 「いや、そのジッポーは高いと思うよ。女からのプレゼントだろ?」
 「ハハハ。ヒロシを好きな奴がいたら、見てみたいよ」と、口々にメンバーがはやしたてる。
 私の心臓の音はハードロックのリズムを刻んでいた。話題を変えようと、メンバーに話しかける。
 「『シュハキマセリ』って何ていうバンドの曲だっけ?」
 「知らないな。っていうか、『シュハキマセリ』ってどういう意味?」
 「レピッシュだろ。クリスマスソングだよ。それより、そのジッポー自分で買ったの?」
 「クリスマスね。クリスマスにもらったジッポーなのか?」
 「ヒロシを好きな奴なんかいないよ」
 「レピッシュなんてバンドいないよ。聞いたことないよ」
 「いるよ!」
 私とヒロシがハモった。え? これってどういう意味?



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