【 親知らず子知らず 】
◆kRtmRcQ9ak




34 :No.33 親知らず子知らず ◇kRtmRcQ9ak:07/06/17 14:59:20 ID:bcoanGxO
俺の目の前には女が居た。ピシッと皺一つ無いスーツに身を包んで、バッチリ化粧を施された顔には笑顔を浮かべていた。
「ずっと探して居たの」
僕も会いたかったです。あぁ、こっちも探していたとも。生まれてから今までずっとな。
「あのときの私ったら本当に愚かだったわ……」
いえいえ、僕もあなたならあのときそうしていました。けどそのお陰で神父様に拾われて、今の俺がいる。感謝してるよ。
「今からじゃ遅すぎるかも知れないけど、やり直してくれないかしら? 」
もちろんです。 あぁもちろんさ。
「本当に!?ありがとう」
目の前の女は心底嬉しそうな様子だった。目尻が少し光っている。ハンカチで目尻をぬぐいつつ、女は言った、「これからはずっと一緒だからね」と。
そして俺に抱きつく。ポケットに手を入れる。女が崩れた。俺と女の足下が赤く染まる。女の腹からは柄が生えていた。俺が植えたナイフの柄が。
「どうして…………」と女は言う。息が荒くなり、血だまりに波紋が起きていた。時々身体がびくっと痙攣している。
どうして?何をバカなことを。今のこの瞬間が俺の生きる糧だったんだからな。
さらにごめんねと女は言った。その言葉を聞いた時、視界がが白く染まる。女の身体が跳ね上がった。一回、二回、三回……。執拗に俺は蹴り続ける。
足が動かなくなったとき、女は已に動かなくなっていた。神父様に買って貰った靴とスーツが汚れている。
頬を水が流れた。ポツポツと地面が黒く染まる。何故かそれは神父様の言葉をふと思いださせた。
「いいですか?この世で最も恐ろしいものは何か。それはサタンでも、主の裁きでもないのです。人の感情と記憶、これが最も恐ろしいのです
ですから貴方も復讐なんて馬鹿なことはお止めなさい。感情に支配されてはいけません」
確かに恐ろしいね、神父様。
けど僕は後悔していません。血のつながりすらこの呪文は絶つことが出来たのですから。
濡れていく女を見つつ俺は思った。



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