【 ちちんぷいぷい 】
◆.Drhm7kUMA




24 :No.23 ちちんぷいぷい ◇.Drhm7kUMA:07/06/17 03:40:41 ID:dLO5c8rc
「ちっちゃい頃、遊んでて怪我をした時なんかに母さんが『痛いの痛いの飛んでけ〜』って言って慰めてくれたよね」
「ああ、痛みが消えるっておまじないだな。俺の母さんは『ちちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んでけ〜』って言ってた」
「うんうん。それで、だ。実際にこのおまじないをしてもらって、痛みが飛んで行った〜っていう感覚はあったかい?」
「んー、痛みが楽になったような記憶はあるけど、あまりはっきりとは覚えてないなぁ。ずいぶんと昔の話だし」
「そうなんだよ。誰もがこのおまじないを経験しているけど、大人になって振り返る頃には効果について思い出せなくなってる」
「そりゃあ、大人になってまで『痛いの痛いの飛んでけ〜』なんて言われる事なんて、冗談以外ではそうそう無いだろ。
 それにもし痛みが楽になったと感じたんだとしても、偽薬効果みたいなものだったり、時間が経って痛みが引いただけなんだろうし」
「そこなんだよ。時間が経って痛みが引いただけなのかもしれない。でも、大人として冷静な思考を行えるようになってからは、
 実際に効くのかどうかを確認したことが無い。そこが問題なんだ。これから私は、このおまじないについての検証を行いたいと思う」
「いやお前、既にその発想が“冷静な思考”では無いだろ。検証するも何も、おまじないの効果が実際に存在すると信じてるのか?」
「私だって、非科学的なおまじないを検証もなしに信じようという気は無いさ。信じたくは無いが故に、この目で確認したいと考えるんだ」
「はあ、言ってることはわかるけどさ。まあいいや、どうせ暇だしな、検証とやらに付き合ってやるよ。具体的に何をするつもりなんだ?」
「おお、ありがたい。では早速、タンスの角に小指をぶつけてみてはくれまいか?」
「は? なんだその古典的な痛がり方は? その行為の何がおまじないの検証に繋がるんだ?」
「ん、説明不足だったか。おまじないの効果を検証するためには、人が何らかの痛みを感じている状態でなくてはならないって事だよ」
「や、それはわかるけどさ。痛みを感じるための方法が“タンスの角に小指をぶつける”である必要は無いだろ?」
「自宅の中で手っ取り早く、かつ安全な範囲で最大の痛みを得るためには、タンスの角に小指をぶつけるのが最も有効だと私は思うんだ。
 痛みが強ければ強いほど、おまじないの効果もはっきり現れる、と考えるわけだよ」
「サドだな、お前。痛がる本人がここにいるって事を忘れてるだろ。何でそんなありもしないまじないを検証するために
 俺がそこまで痛い思いをしなきゃならんのだ。しっぺやデコピン程度で構わないだろうに。本当に痛いんだよ、タンスの角に小指は」
「いやいや、しっぺやデコピン程度ではおまじないを唱えている内に痛みが引いてしまうかもしれないだろう。
 受けうる痛みを最大にしておかないと、せっかくの実験が失敗に終わってしまう」
「あーもう、そんな屁理屈を並べ立てるんなら俺はもう知らん。お前が勝手にタンスの角にでも豆腐の角にでも小指を叩きつけてればいい。
 暇つぶしとはいえ、お前の下らん実験のためにそこまでの痛い思いを俺はしたくないね。それじゃあな。俺はもう帰らせてもらう」
「ああ、仕方が無いな。それじゃあまた」
「ふんっ。まったく…… ……って痛っああああぁぁぁああぁああああ!!!!」
「おー、どうしたぁ?」
「普段よりドア寄りにタンスがっ…… お前、俺が部屋を出るときにいつも歩く道筋を覚えておいて、それに合わせてタンスを動かしたな!」
「ちちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んでけ〜。どうだい、小指の痛みは飛んでいったかい?」
「飛んでいくかっ! あほっ! 長々と話してたけどお前、ただ単にこのいたずらを俺にしたかっただけだろ!!」 ――終――



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