【 映日果の林檎 】
◆QIrxf/4SJM




22 :No.21 映日果の林檎 ◇QIrxf/4SJM:07/06/17 00:39:59 ID:s3iEwa6p
 妾の体を貴方の指先が這う。臍を通り、膨らみを越え、鎖骨の汗を吸ひつつ昇る。時折、爪を立て、がりりと妾の肌を抉る。食込む爪、血が滴る。痺れが脳髄へ渡つた。其れは恍惚を誘う魔法のお薬。体がぴくんと跳ねた。唯身を委ねる事の快感よ。
 林檎のやうに火照つた顔で貴方を見てゐる。視界は溶け、貴方の顔すら判らない。麻薬が体を支配して、唾液と汗を分泌させてゐるやうだ。口は唾液で濡れてゐるのに、喉が渇いて仕様が無い。
 貴方の指先が秘めたる口に侵入してくる。過呼吸になつた。
 鳥渡だけ休憩をして、お茶を戴く。貴方に零した茶を嘗めとつた。
「お口は如何?」妾の舌が金に為る。
 溶け合ふやうな接吻と濃密な愛撫。ざらつく舌が絡み合ひ、淫靡な糸を引く。お顔色を窺ひつつ、何時もと同じに舌を動かし手を摩る。知つてゐるのだから、好い声を聞かせて。
「愛してゐる。」と貴方は云つた。
 真青な天鵞絨の上に横たはる妾―――。同情してゐるの?

 猫のやうにいぢらしく、犬のやうに誠実に、体をくねらせ、はだけた服を揺らす。指を咥へた。
「此の指が忘れてくれぬ。」と貴方は指の匂ひを嗅いで見せた。眼鏡を外す。其の目は妾を見てゐるか知らん?
 熟れゆく体、烈々と熱る頬。青いお髭から赤茶気たお口へ、妾の舌が貴方をなぞる。砂糖水を啜り、飴を嘗め回すやうだ。かちりと歯が打ち合ふ音がする。吸ひ上げて、貴方を見つめて接吻をした。
「お口は如何?」妾の舌が云ふ。
 お髭から首筋へと舌を這はせ、鳩尾の汗を啜つて臍を下る。どれが善いかは知つてゐる。誰も矢張り同様で、其の真中を摩り、先を口に銜んで舌を廻す。とろりと芳醇な酒が口の中に零れた。其れでも止めぬ快楽よ。
「まう一遍、後生だ。」はうら、かかつた。妾の舌は金に為る。
 貴方の銘酒を受けた此の口で、蕩けるやうな接吻をする。貴方の指先が、妾を撫で回す。
 秘めたる口に貴方を宛がふ。喉は渇いてゐるのに潤滑だ。妾はシイツを掴み、歯を食い縛つた。―――胎が熱い。
「愛してゐる。」と貴方は云つた。
 真赤な天鵞絨の上に寝転ぶ妾―――。同情してゐるの?

 夢を見てゐるのだ。夢の中ぢゃ、何を飲もうが渇きは癒えぬ。映日果は妾を隠しても、林檎は妾を潤してくれぬ。
「愛してゐる。」まるで、妾から水を奪い去る呪詛のやう。何方も妾に云ふのでせう。同情を慾した時は、疾うに手遅れか知らん。然し、妾は憐れぢゃない。嗤ふな。

 日毎、違ふ貴方に体を委ねる。処違へば嗜好も変はる。
 服を着た儘手錠をされ、足を縛られて跪いた。縄が食込み、妾の躯に綺麗な模様を描く。透明なる眼差しを貴方に向け、服従したやうに、爪先を甘噛みしつつ舌を這はせる。斯様な演戯で宜しいか?
 貴方はベツドに妾を抛り、首を絞めた。妾の服を剥いで胸元に噛み付く。真赤な果汁が滴り落ちて、シイツを汚す。
「愛してゐる。」と貴方は云つた。
 真黒な天鵞絨の上に縛られてゐる妾の体―――。同情してゐるの?
 ああ、喉が渇く。



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