【 任侠と社会人 】
◆K0pP32gnP6




21 :No.20 任侠と社会人 ◇K0pP32gnP6:07/06/17 00:25:25 ID:s3iEwa6p
 俺は今年の四月から東京へ出て社会人となった。
 会社は、大学一ヶ月分が一週間に詰まってるくらいの感じで忙しい。
 もう、やめたい。やめたい。
 ひょんな事から付き合い始めた彼女は、『姐さん』と呼ばれるようなお方で、いろいろ
危ない事に巻き込まれたりもする。ドラマか? 小説か?

 そんなわけで、六月の半ば。
 二ヶ月ほどで俺は会社を辞め、大阪の実家へ戻った。
 電話の一本もなく帰った俺に、家族は少し驚いた顔をしていたが、意外にも優しく向か
えてくれた。その優しさが痛いのだけど。
 久しぶりのお袋が作った晩飯を食べ終えて、俺は東京に自分の部屋に戻った。
 三月までと何も変わらない部屋のベッドに寝転ぶ。
 将来の事を考えるのが嫌で、歳の離れた小学生の妹の事を考えていた。
 なんであいつは晩飯の時、忍者のコスプレをしていたんだろう。

 そうやってぼーっとしていると、携帯が鳴った。例の彼女から。
 確かに、彼女自身は気立ての良い美人だった。しかし家庭環境に難がありすぎた。
 もっと普通の形で出会いたかった。俺は携帯を手に取り、そっと電源を切る。
 そしてこの先どうしようかと、本気で考え始めようとしていると、突然部屋のドアが開いた。
 そこには、妹が忍者のコスプレをして立っており、胸の前で指を振りながら言った。
「任侠と、社会人って辛いねん」
 それだけ言ってどっかに走って行った。
 励ましに来てくれたようだった。素直にありがたい。
 始めて枕に顔を埋めて泣いた。
 しかし、だ。会社のことはまだしも、彼女の事は家族には言っていない。
 そんなことを考えながら泣いているうちに、俺はいつのまにか眠っていた。

 翌朝、トーストを食べている妹に、聞いてみた。
「励ますって、何の話? 九字切ってただけやで?」
 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前。                  【完】



BACK−「呪文」という呪文◆jhPQKqb8fo  |  INDEXへ  |  NEXT−映日果の林檎◆QIrxf/4SJM