【 祈り 】
◆5GkjU9JaiQ




19 :No.18 祈り1/1 ◇5GkjU9JaiQ:07/06/16 21:29:54 ID:BGVyJbSL
その呪いはいつだって僕の側にあった。
独りで居る時、大勢で居る時。仕事をしている時、趣味に没頭している時。
セックスの時も、マスターベーションをしている時でさえ。
それは僕の邪魔をする訳ではない。しかし、それは僕の側を離れることもない。
勿論僕は、それを疎ましく思う。
しかし、それと同時に僕はこの呪いを受け入れなければならないのだと考えている。
生まれついてから今まで、それは僕と共にあったものなのだから。
それを否定することは、多分僕の人生を否定することと同じだから。

「“生きる”ことって、そんなに大事?」
一度だけ、そう他人に聞いたことはある。
言葉にしてみて、これ程馬鹿らしい質問もないな、と改めて思ったのだけれど。
それを聞いた相手は、何も言わずに僕の顔をじっと見返していた。
答えるべくもない。
沈黙の返答をそう受け取った僕は視線を逸らし、ただ黙っていた。
「お前は生きたくないのか?」
暫くしてその相手が呟くように聞く。
僕は首を横に振る。
「違う。けど……他人に押し付けられるように言われると、本当にうんざりすることがある」
正直に答える。僕は、昔からこの人に嘘はつけない。
相手は考え込むようにうつ向き、再び小さく呟いた。

「それでも、俺は――父さんは、お前に生きて欲しいと思うよ」

祈りと、呪い。それは恐らく、表裏一体のもので。
もしこれから先、僕が誰かの父親になった時。
父と同じ呪文を、その誰かに唱えることになるのだろうか。
―了―



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