【 ふたり 】
◆0YQuWhnkDM




16 :No.15 ふたり ◇0YQuWhnkDM:07/06/16 06:54:52 ID:OAnyhwac
 あの時、俺には呪文が使えたはずだった。それなのに、ただ何も出来ずおろおろと泣いた。
 もうごめんだ。
「なあ、皆には内緒な? 俺さ、魔法使えんだ。スゲー呪文知ってんだ」
「またお前は何ぬかす」
 またいつもの白けたようなすかした顔すんだ。二年前、隣の席に座った時とおんなじに。
「まあまあいいからさあ、裏山行こ。特別にミヤだけに見せてやっから」
 別に見たくない、何で疲れるのにわざわざ、おい押すなバカ。いつも通り、悪態をつく時だけ良く動く口。どうしてか、ほっとする。
 裏門を出るときつい坂。家まで直線距離が近くとも、大概の生徒が迂回して通る山道だ。
「……いつまで押してる」
 手にかかる重みが消える。きつい目が睨むようにこっちを見ていた。
 隣を歩けってことだな?素直じゃないんだ。二年も同じようなことしてると、さすがにバカな俺も学習する。
 転校して来た日もそうだった。へらへらするな馬鹿に見える……どんなケンカ売られてるのかと思ったけど。
 何のことはない、なめられるから日和るな、そういうことだった。
 親の都合で転校ばかりしてきた俺のへらへら笑いは処世術で、日和ることで周りに受け入れられてきた。それを否定されたのに……不思議と腹は立たなかった。
「俺、小さな頃から転校ばっかしてて」
 窺うと、横目に続きを促される。
「友達と別れるの嫌でさ。辛い思いをするくらいなら仲良くならなければいいって思って」
「馬鹿だな」
「ツッコミが早いよ! そんで、当たり障りのない付き合いをしてきたわけ」
 そうか、と吐く息はすっかり上がっていて、つい吹き出す。話はどうでも良くなった。
「もうすぐだから、ほら頑張って! いい時間終わっちゃうよ!」
 何が、と言うか細い声を無視して思い切り手を引っ張って坂を駆け上がる。ほら、ほらもうちょっと……
「……おお」
 驚いた声が聞こえて俺は満足する。どう?この街の人間じゃないからこそ見つけた、いちばん綺麗に街が、夕焼けが見える場所。すげーだろ?
「俺また転校すんだ!」
 顔を見られないように、逆光を背負った。驚いた顔が赤く照らされてる。
「だから宮島に呪文をかける! ……俺たち、ずっと友達だって!」
 嫌でももうかけたからな! やけくそ気味に叫ぶと、ミヤが今まで見たことない顔で笑った。
「泣いてんな馬鹿」
 自分だって泣いてるくせに!



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