【 万呪 】
◆KF9ecj6Arc




11 :No.10 万呪 ◇KF9ecj6Arc:07/06/16 01:21:18 ID:j9Nnjijy
私が動く理由、私が求める理由、私が――

学校に忍び込み暗い図書館の中をはいつくばる様にして移動する。手探り、アテなし、深海魚の気分を味わう。
そして万人が紡いだ言葉の一つ一つを拾い上げる。宝物は見つかるのだろうか。

孤独、孤独と言えども沢山の人の記録の中に埋もれて死ねば孤独では無いのだろうか。ただの屁理屈。
並び立てられた珠玉の言葉の中に希望を見いだすのならば、絶望をも見いだすのだろう。愚問。
自分が紡いだ言葉が他人に作用する事で何かを得るだろう。それが人生。
求めて、縋って、追いついても手に入らないものは諦めろ。大人の言い訳。
死ね、死ね、生きろ、生きろこの問いを繰り返す。それが人間の怠惰。

ぱらぱらとぺらぺらとめくる薄いこの紙の一枚、一枚に人々は綴り続けた。
幾つもの言葉、言葉、言葉。

表現、伝達、記録――そして、なんのための?

めくる、めくる言葉の綴られた紙。
何も欲しいものは無かった。何も要らないと思っていた。
けれど――捲られた紙の一枚、一枚に綴られた言葉に私は動かされていた。

他意はない。
故意でもない。

ただ、それを読んだから――記録した人たちが私を動かしたのだ。

図書館の中、埃と闇を取り混ぜた様な私が動く。
綴られた言葉に、動かされた私が。

この世の全ての言葉は呪にして、まじない。
私は万人の綴った言葉で操られている。



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