【 「日記と魔法の詠唱法」 】
◆R0vSeEFJo2




12 :No.11 「日記と魔法の詠唱法」 ◇R0vSeEFJo2:07/06/16 01:21:55 ID:j9Nnjijy
○月×日 鮮やかな夕焼けの日
 今日も出来なかった。今日も失敗してしまった。なんでこんな簡単なことが言えないんだろうって
思う。周りのみんなは、勇気を出してって応援してくれてるのに。簡単な一言が私には言えない……。
 そんなみんなは、奥手の私に『媚薬つかっちゃいなよ〜♪ あんたならイチコロだって』なんて、
冷やかしてくる。失礼しちゃうわ! 私はそんなことをしないで、きっと彼に気持ちを伝えてみせる
から! きっと回りもじれったいんだと思う……優柔不断な私に。
 でも、そんなことを考えて、実は一ヶ月も経っちゃってる。毎日毎日、顔を見合わせるたびに言お
う、言おうってしているんだけど。タイミングを逃して言えずじまい。しかも、今日の授業でそっち
に気を取られて、詠唱のアクセント間違えて……爆発するはずの無い魔法で、爆発させちゃうし。
 先生なんか、「芸術は爆発だが、詠唱は違う。スキルなんだよ? 爆発させるのは美術だけにして欲
しいね」ってから怒られたりもした! 私は立派な魔女になるんです! 先生なんかより、立派な!!
 そんないつまでたってもダメな私だけど、このままじゃきっとなにも進展しない。いつまでたって
もあの人と友達のままで、何も変わらない。待ってるだけじゃ何も変わらない。時の変化なんて当て
にしちゃだめだ。だから私は変えるんだ―――
 でも今のまんまじゃ、絶対気持ちが揺らいじゃう。きっと告白なんて出来ないし。また先延ばしし
ちゃう。だから、私はここにあの人に伝える決心を、ここに書いておくんだ。
<光よ。花よ。草木よ。無限の息吹を呼ぶ台地よ。この手の元に、春のかぜを……>
 中等詠唱魔法。スタンダードBランクの魔法だ。成功したら、手をかざした術者の周りに桜の吹雪
が舞う、地と風の複合魔法。とっても綺麗で夢の中に居るみたいに幻想的で、淡くはかないうたかた
の魔法。もしこういうときがあったらこうしようって、昔からの夢だった。
 だから私はやるんだ! 難しいけど、私のランクより高いけど。得意な属性魔法だし、きっと大丈夫
……大丈夫、だよね? ああ、失敗して爆発したらどうしよう……緊張してきちゃったじゃない!
 やっぱり書くべきじゃなかったんだわ。もう今日はココまで、結果は明日一番に書こう―――

 ―――そんな私の二十年前の馬鹿な未熟だった頃の物語。今の私を見て、こんな青春があったなん
て、絶対誰も信じてくれないだろう。だって今は魔法学校の厳しい先生なのだから。
 乾いた古い羊皮紙を畳み、デスクの私物の引き出しへと仕舞う。静かな教員室でのことだった。
 そんな私は、アレからどうなったかと言うと……秘密だ。青春の頃の話なんだ。忘れよう。
 猫のように背伸びをすると、私は意気揚揚と授業の戦地へと赴くことにした。



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