9 :No.08 青空フラッグ ◇Cj7Rj1d.D6:07/06/16 00:46:46 ID:j9Nnjijy
……――とある町のとある駅のホームのベンチに、一人少女が座っていた。その顔は今彼女の頭上の空に張り付いている太陽とは対
照的に、どこか鬱々としたものだった。しばらく、彼女がベンチに座っていると遠方から電車がやって来るのが見えた。彼女は立ち上
がり、誰に聞かせるでもなく一言、
ばいばい
と、呟く。その瞳に徐々に涙がたまってくるのを、彼女自身も気がつかなかった。……――
……――青空の下、田んぼに囲まれた歩道を二人乗りをした自転車が駆け抜けていく。漕ぐのは男子、後ろに座っているのは少女だ。
真っ直ぐにのびた歩道は、電車の線路と平行し、田んぼを挟んで50メートル程の間隔を空けて並んでいた。 後方から、電車が近ず
く。少女は、携帯で電話をした。電話の相手がでると、彼女は大声で伝える。山側の窓を開けて外を見て、と。
電車が近づく。
あ、見つけた。少女は小さく、走る電車の窓から顔をだす人物を指差して、言った。途端、自転車が加速度を増す。拡散していた空
気が向風となった。こいでいた男子が、少女に眼で合図を送った。いまだ、やれ。頷いて見せた少女は、器用に自転車の後部座席に立
ち乗りをして、手に持っていた大きな大きな旗を、ひるがえした。
少女のキモチが、距離を越えて、魔法のように、飛んでいく。
窓から覗く人物にとって、少女が持つ旗に大きな大きな字で書かれた言葉は、どんなに上手い絵画よりも網膜に焼き付き、どんな素
晴らしい言葉よりも心の鐘を鳴り響かせた。
【ごめん。さんきゅ。またね。】
そう書かれた旗を持ったまま、ただただ少女は、感情に任せて泣いた。窓から顔を出している人物も、大きく手を振りながら、泣いていた。
一時の出来事は、電車がトンネルに入った所で幕を閉じた。……――
……――少し前までとある町のとある駅のホームのベンチに座っていた少女は、今、電車の中で座っていた。窓の外は暗く、電車がト
ンネル内を走っていることを知らせる。少女は、泣いていた。だが、その顔には先程まであった鬱々としたものは見受けられない。
またね、か。
そう呟いた少女の顔は、太陽にも似た笑顔だった。【完】