【 男を殺す、三つの呪文 】
◆BLOSSdBcO.
8 :No.07 男を殺す、三つの呪文 ◇BLOSSdBcO.:07/06/16 00:42:34 ID:j9Nnjijy
妹に、アイリに好きな男が出来た。
曰く、同じクラスの高橋君はサッカー部のキャプテンで、成績も学年上位、さらに顔も超カッコイイらしい。
何故か自慢げに語るアイリ。僕は兄として、出来る限りのことをしてあげようと思う。
「じゃあ特別に、男をイチコロに出来る呪文を教えてあげよう」
そう言って身振り手振りを交えつつ、三つの呪文を伝授する。
アイリは真剣な表情で何度も頷き、呪文を忘れないよう何度も繰り返した後、
「これで高橋君もイチコロだ!」
という僕の言葉に満足そうな笑顔を見せた。
翌日、夜。
アイリが暗い顔で僕の部屋に入って来た。
理由を尋ねると、僕の教えた呪文を唱えたら高橋君は酷く落ち込んでしまったそうだ。
「ちゃんと僕の言った通りにしたかい? ちょっとやってごらん」
頷いたアイリは、もじもじと指を絡ませながら上目遣いで
「次のお休みに、一緒に映画を見に行きませんか?」
と呟いた。必死に勇気を振り絞っている感じが初々しくて最高だ。アイリは僕の嬉しそうな顔を見て続ける。
「べっ、別にアンタと行きたい訳じゃなくて、友達がみんな忙しいって言うから……勘違いしないでよね!」
赤面して目を逸らしながら言う様は、まさしくツンデレ。ツンの過程は無いが、雰囲気さえ出せれば良し。
練習とはいえ、あまりの可愛らしさに僕はもうメロメロだ。
そしてトドメは最強の呪文。アイリは一度気合を入れなおし、こう言い放つ。
「――下手くそ」
呆れたような失笑、見下すような目線と共に紡がれる、恐怖の呪文。
我が妹ながら最高の演技力である。これならばどんな男もイチコロだ!
そう、これは男のハートを『射止める』呪文ではなく、男を『仕留める』呪文。
何もしていないのに男の尊厳を打ち砕かれるとは、哀れなり高橋君。
「ところで、何が下手なの?」
「……アイリは知らないままで良いんだよ。ずっと知らない方が良い」
こうして、最愛の妹に近づく害虫は、兄の機転によって打ち落とされたのである。 【おしまい】