【 「魔法の言葉」 】
◆RfDa59yty2




6 :No.05 「魔法の言葉」 ◇RfDa59yty2:07/06/16 00:22:55 ID:j9Nnjijy
 魔法というものを俺は信じていた。
本の中やテレビ、映画の中の人物達が見事に繰り広げるそれを。
でも『いた』だ。つまり過去形。さすがに高校生になってまで、魔法を信じているほど俺もガキじゃない。

 でも。
今もまだ、たったひとつだけ信じている『魔法の言葉』がある。

 「翔太、緊張、してるみたいね」
彼女はふふ、と微笑んで首を傾げた。
あたりまえだろ、と答える俺に彼女は一層その笑みを濃くした。受験に向かう俺を見送りに来た一つ年上の恋人。
彼女が通う大学に俺も通うため、一年間、自分なりに頑張ったつもりだ。それでも、不安は消えない。
「受験票は持った、筆記用具、百香から貰ったお守り、弁当、飲みもん――うっし!忘れ物はねーな……」
心臓がバクバク言っているのが自分でよく分かる。深呼吸、そして百香の顔を見詰めた。
「行ってくるわ」
「うん」
俺と違って、百香はひどく落ち着いていた。人事だから、ということなのだろうか。だとしたら、少し、寂しい。
「……心配じゃねーの?」
俺の言葉にきょとん、と大きな目を見開き、少ししてからクスクスと笑い声を漏らした。
「なっなんだよっ」
「ごめんね。うん、心配」
「じゃあなんでそ…「でもね」
俺の言葉を遮って、百香は真っ直ぐに俺を見る。綺麗な澄んだ瞳。少しだけ、気分が落ち着いた。
「信じてるから。一年間、私と同じ学校に来るためにって、頑張ってくれた翔太を見てきたんだもん」
あぁ、これだから百香には敵わない。きっといつまで経っても。でも、それが心地良いと思う俺がいる。
すっと、憑き物が落ちたかのように俺の心臓は静かになった。

 「大丈夫だよ。絶対、大丈夫だから」
俺の信じる、唯一の『マホウノコトバ』達をを紡ぎ出して微笑む百香に頷き、俺は彼女に背を向けて歩きだした。
『大丈夫』
君の口から出る言葉だけが、俺を強くする魔法の呪文。



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