【 鳴かせてみせようホトトギス 】
◆vkc4xj2v7k




4 :No.03 鳴かせてみせようホトトギス ◇vkc4xj2v7k:07/06/16 00:22:00 ID:j9Nnjijy
二人の男が満面の笑みを浮かべながらテーブル越しに手を取り合った。
「いやいや、このプロジェクトをこんな破格で受け入れてくれるとは」
「こちらとしても、貴社と合同でプロジェクトを進めるとなると、名前が売れますので」
 細見の男はレンズをつなぐ部分に中指を当て、メガネの位置を直すと話を続けた。
「ところで、部長のお嬢様の名前は何と言いましたでしょうか。お美しい名前だということは記憶しているので
すが」
「ユキといいます。お恥ずかしい話ですが、離婚しましてね。母親と同じ姓で花村ユキっていいます。」
 部長が財布から写真を取り出そうとしたが、メガネは掌を部長に見せて結構ですと言い放つ。部長は眉間にし
わを寄せてメガネを怪訝そうにして睨みつけた。
 メガネはアタッシュケースをテーブルの上に置くと、部長の機嫌に構うことなくケースの中身を開いた。部長
は中身を見ると目を大きく見開いて驚きの表情を見せる。
「マイクで今までの会話を録音して、仲間のところに無線で送らせてもらいました。」
 部長は茫然とした。口を大きく開けやっとの一言が出る。
「なんのために」
「声紋パスワード。あなたが一番ご存知でしょう。娘さんの名前がパスワードになっているところまではすぐわ
かったのですが、あなたの声をサンプリングするのに本当に手間がかかる」
 部長は両手で体中を触り落ち着きのない様子を見せた後、視線を自分の足元に落とした。
「今頃、私の部下はあなたの金庫を開けてしまっています。人に見せられたようなお金じゃないでしょう。横領
したお金を盗まれただなんて警察にも言えませんしね」
 メガネは頬を吊り上げ、うすら笑いを浮かべながら冗長に語った。部長は彼が語り終わる頃を見計らうと顔を
上げる。そこにはメガネ以上の笑顔があった。
「確かにあれは汚い金だ。しかしね、おまえのようなこそ泥にやるような金でもないんだよ」
 メガネの視線が泳ぎだし、手を口にあてると言葉を失った。
「あの金庫は一度間違ったパスを使われると自動的に変わるようになっててね、業者から通知がこない限り私で
も開けることができないんだ。残念だったね」
 メガネの顔は蒼白する。頭を両手で抱え込み、テーブルにうなだれた。
「正しいパスワードはね、開けゴマ、だよ。娘の名前がパスワードだったのは一昨日までだ」
 部長は高らかに笑い、立ち上がり部屋を出ようとした。メガネは手を大きく震わせながら、ケースから携帯電
話を取り出して仲間に向けてダイヤルした。部長がメガネから遠ざかるにつれて手の震えは小さくなっていく。
「まだ実行してないよな。パスは、開けゴマ、だ。そこだけぶっこ抜いて再生してくれ」



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