【 崩壊の後の静寂 】
◆D8MoDpzBRE




3 :No.02 崩壊の後の静寂 ◇D8MoDpzBRE:07/06/16 00:19:15 ID:j9Nnjijy
 自分の命と引き替えに、敵の正体に関するヒントを得る呪文。「ヘヤニ・モ・ドルゼ」
 糞じじいを一定時間無敵にする呪文。「イン・ロウ」
 中々名前が思い出せなくて、たいていの場合ターンの最後に発せられる呪文。「フバーハ」
 言葉の意味とは裏腹に、主人公たちに時間的余裕および反撃のチャンスを与えてくれる呪文。「メイド・ノミアゲ」
 直接殴らずに鼻血を吹き出させる呪文。「パンチ・ラ」
 呪文を詠唱することなく発動させることができる、サイレントキラー的呪文。「ス・カシッペ」
 つきあい始めて三ヶ月目くらいの彼女が、突然家に泊まりに来ないか? と誘ってくれたのに対して、「御両親
に会わされるってことは、つまり、その、けっけっ」とか言ってたら、その彼女に「馬鹿ね、その日は二人とも留守
なのよ」と言われるも、その声が余りに小さかった場合こう聞こえるって呪文。又は、天空の城とかを壊す呪文。
「バ……留守」

 メモ帳に書かれたナンセンスな走り書きを見て、僕はため息をついた。何の足しにもならない妄想を書き連ねた
それは、元は僕にとって着想の源泉とも言うべきネタ帳だった。それが、今は読み返すだけで自分がスランプの
真っ只中にいることが分かるほど、中身の乏しい落書き帳へと成り下がっていた。
 僕は、正直行き詰まっていた。ゲーム開発部、シナリオ班というのが、今の僕のポジションだ。現在制作に打ち
込んでいる期待の新作は、新感覚RPGとして社運をかけた作品となる予定だ。
 だが、肝心の僕が仕事をしなければ、どんなに優れたシステムを持ち、どんなに華麗なグラフィックを持ったゲ
ームとて、それが完成することはないのだ。
 それが、今の僕に考えつくものと言えば、小ネタにもならない『呪文』くらいなのだ。
「おい、田中ぁ。なんだこのメモ帳、見せてみろ」
 しまった。班長に落書き同然のメモ帳を取り上げられた。突然の不意打ちに僕は狼狽し、班長は激昂した。
「バーロー! 仕事中に遊んでるんじゃねえ」
 見事に雷を落とされた。僕は、小さく縮こまりながら、その後延々と続く説教に耳を傾けていた。やれ、作品が
完成しないのはお前みたいなのがいるからだ、とか、真面目にやる気がないなら辞めてしまえ、とか。
 情けないことだが、気がついたら僕は泣いていた。さしもの班長も慌てて、やや態度を軟化させた。
「まあ、スランプなんて誰にでもあることだ。こんなことで腐らないでくれよ、期待してるから」
 そんな班長に、「頑張るッス」と言おうとして声にならず、辛うじてその語尾だけを伝えることが出来た。
「バル……ス」
 直後、緊張の糸が解けた僕は、サイレントキラー的呪文を発動させ、場を混乱に陥れた。



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