【 求道者 】
◆mikOTL90fc




85 :時間外No.04 求道者 1/4 ◇mikOTL90fc:07/06/11 00:09:25 ID:gBATA5Kq
藤原は生徒集会の開始からずっとあぐらの上に頬杖をつき、低姿勢を保っていた。
通常時の集会と異なり、形式上は議論をするための集会になっているので、生徒たちは体育館にコの字を描くように並べられる。
そして藤原は第三学年であり、藤原の向かい側には第二学年のブロックがある。
生徒がコの字に並べられた体育館の真ん中は大きくスペースが開いており、そこにはマイクスタンドが一つ設置されてある。
意見のある生徒はここでさらし者になりながらマイクに声を通さなければならない。
このスペースのため、藤原と向かい側の生徒とはおよそ二十メートルの距離がある。
――お前のパンツじゃないんだよ。
可哀想な外見の女子生徒のパンツがチラリとする度に藤原は吐き捨てる。藤原の苛立ちは高まっていた。
ある生徒が全校のさらし者になりながら「学食のカレーの肉が少ないので多くするべきだ」というどうでもいい提案をしているが、
そんなものは一向に藤原の耳に入らない。藤原はひたすらターゲットの足の動きを観察している。
突然、後ろに座っている真山が藤原に声をかけた。
真山と藤原はクラスでも適当に会話をする程度で特別仲が良くはない。
だから真山から話しかけてくるのは藤原にとっては意外な事態だった。
そして真山の言葉に藤原は我が耳を疑った。
「藤原、それじゃだめだ。パンツは見えんよ」
藤原の天地はひっくり返る。なぜそれを?
おざなりな返事をするので精一杯だった。
「何言ってんだお前」
真山は鼻で嗤った。
「甘い甘い。まだまだアマちゃんだな。そんな不自然な姿勢をしていればすぐばれるに決まってるじゃないか。
後ろからもお前の顔が見えそうなくらい必死オーラ出しといて何を言っているのだ。
パンチラについて中学二年時から研究してきた俺の目をごまかす事など出来るはずがないだろう」
完全に見透かされていた。言われてみれば確かにこの場面で長時間あぐらに頬杖をつくというのは不自然だ。
真山が藤原に耳打ちする。
「向かい側のあいつを見ろ。必死そうな顔をしているだろう」
一目で分かった。確かにこの距離からでもパンチラを見ようとしている必死さが伝わってくる。
同業者だから分かるというのではなく、明らかに普通の生徒でも気づくほどのオーラを発していた。
藤原もまたターゲットに気づかれていたのだ。
真山は続ける。
「この距離だと、そうやって頬杖をついても結果はほとんど変わらないんだ。むしろ俺のように頭のポジションは上、

86 :時間外No.04 求道者 2/4 ◇mikOTL90fc:07/06/11 00:09:48 ID:gBATA5Kq
視点はスカートに向けたほうが相手にも気づかれにくい」
真山は両腕を後ろにつっかえ棒のように立ててリラックスした姿勢を取っている。
「この姿勢のほうが低姿勢を長時間維持できるし、相手にも気づかれにくい。
さらにこの余裕のある姿勢なら広範囲に渡りパンチラを捕捉出来るというメリットがある」
「あなたが神か」
真山の突然の発言に圧倒された藤原は漫画のパロディで茶化すので精一杯だった。
「いいや、ただの人間だよ」

生徒集会終了後、藤原は真山に懇願した。
その知識を俺にも教えてくれと。
真山は快諾した。
「了解だ。知識は共有されるべきである。個々に共有された知識はさらに厚みを増し、集積され、より高次なものへと昇華される」
「どこの評論の引用だ、そりゃ」
「これは俺の持論だよ。より良い高校生活を送るためにもこのノウハウを高める必要がある。だからお前のような仲間がいてくれると俺としても助かるよ」
この日までの藤原にとっての真山像は模試のたびに学年の上位に入る秀才であり、近づきがたい存在であった。
その真山がこのような話をしている。それはは藤原にとって驚くべき事実なのだ。
「俺はパンチラというものは平凡な日常に突如として現れる清涼剤と考えている。この一枚があるからまた明日も学校に行こう。
つまらない授業もうけよう。そこにパンチラがあるのなら。と思えるんだ。そういうメンタリティで俺は常にパンチラと向き合っている。
だから藤原も本気になってパンチラを追求してほしい」
傍から聞けば軽犯罪法違反の告白も、真山の口から発せられると崇高なものになる。
少なくとも藤原にとっては世界中のどの経典よりも熱く心を震わせる言葉だった。
――極めよう。藤原は心の中でそう決意した。
真山は予備校があるのでレクチャーは明日からになると言って、爽やかな笑みを残して帰った。


「昼飯を食いながら午前中の反省会をしよう」
その翌日。四時限目の鐘が鳴ると、突然真山はそう告げて藤原を学食に誘った。
肉の少ないカレーを食いながら二人のミーティングが始まる。
「朝から藤原を観察していたが、藤原は午前だけで二回のパンチラチャンスがあった。
だがそれを悉くミスした。基本的なことだが、アンテナは常に高く張っておく事だ」

87 :時間外No.04 求道者 3/4 ◇mikOTL90fc:07/06/11 00:10:08 ID:gBATA5Kq
「全然気づかなかった……四回もチャンスがあったのか」藤原は嘆息した。
「案ずる事は無い。パンチラ発生の場面はある程度パターン化されるから、それを押えておけば見逃すことは無い」
昼食を取りながらも二人の会話は真剣そのものである。
「今日のパンチラは模範的事例と言っていい。このパターンはかなりの確度で発現するから覚えておいて損は無いだろう。
晴香さんが消しゴムを落とした時、椅子に座ったまま消しゴムを拾おうとした」
そう言われて藤原は思い出した。古典の時間、右斜め前の席にいる晴香が消しゴムを落とした事を。
スカートの短い女子が椅子に腰を降ろしたまま身体を傾けるとどうなるか? パンチラするに決まっている。藤原はそこまに意識が回らなかった。
藤原は晴香のパンチラを妄想した。プレイボーイの紺のハイソックスに、引き締まりながらも瑞々しく色白な太もも。
このコントラストがたまらない。妄想は太ももよりも白い、純白の下着に辿りつく。そしてその奥には――
藤原の妄想は中断される。
「次は休憩時間だ。藤原は休憩時間は何をしていた?」
「何って、適当にすごしたり、ベランダに出たり……」
「そう、それがいかんのだ。休憩時間は次の時間の予習に充てなければならんのだ。いいか、休憩時間になると人の流れが流動的になる。
つまりそれだけパンチラの発現率が高まるのだ。そこをベランダで過ごしては見れるものも見れなくなってしまう。
俺は休憩時間、教科書を一読しながらお股の緩い彩子さんをロックオンしていたんだ」
彩子とはクラスで最もスカートの短い女子生徒だ。藤原も何度か彩子のパンチラは見た事がある。
「彼女は話に夢中になると足元がお留守になるんだ」
真山の知識は本物だった。パンチラの知識はおろか、クラスの女子の特性までも把握していた。
「飯も食い終わったし、次は階段におけるパンチラシーンの考察をしよう」
真山はお冷をぐいっ、と飲み干す。男らしい喉仏がぐりぐりと上下する。
二人は議論の場所を階段に移した。
「あらかじめ言っておくが、階段でパンチラをゲットするのはかなり難しい。女子のガードが最も堅くなる場所だからな。
ところで、なんで女子は階段でスカートを押さえるか分かるか?」
「下に男がいるからだろ」
「その通り。逆に言えば下に誰も居ないのなら隠す必要は無い」
――当たり前じゃないか。藤原はそう思った。
「兵は詭道なり。これは孫子の言葉だ。近づいていると見せかけて遠ざかる。出来ないのに出来るふりをする。
戦いにおいては相手の虚を突くことが肝要で、これはパンチラにも当てはまる」
藤原のぽかんとした顔を無視して真山は続けた。
「例えば放課後の廊下、ある女子が階段を上ろうとしていて、男子生徒はたまたまそれに並行して歩いている。

88 :時間外No.04 求道者 4/4 ◇mikOTL90fc:07/06/11 00:10:22 ID:gBATA5Kq
このままなら女子は男子の存在を認知し、ガードを固めるだろう。ではこの女子を欺くにはどうすればいい?」
「よく分からないが、そこから消えるふりをするとか?」
「正解。例えば階段の手前で、『うー、トイレトイレ』とでも言って女子の前から消えたとしたら、女子のガードは一段下がる」
「そう簡単に上手くいくものなのか?」
「事実、俺はこれで五、六回はパンチラをゲットした」
たかがパンチラ、されどパンチラ。これまでの藤原のパンチラ観は真山のそれと比して脆弱なものだった。
一方、真山のパンチラ論は自身の体験と知識に基づいて構築された実践的かつ体系的知識だ。
これはパンチラ学であり、真山は正しくパンチラの求道者であった。
優秀な奴は何をやらせても優秀だ。藤原は心底そう思う。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
「ああ、今日のところはこれまでだな。ところで、藤原よ。この学校で最強のパンチラスポットはどこだと思う?」
頭が良くて優秀な人間ほど頭の中で思考を回しその結果だけを吐き出す傾向にある。藤原は再び混乱した。
「いきなりそんなことを言われてもなあ……」
「ヒントは、『俺が努力する理由』だ」
ますます混乱する。むしろ真山は混乱させようとしている節がある。
「第二ヒント。『授業中』だ」
「授業中?」
「そう、授業中。特にこんな暑い日はたまらんなあ」

――閃いた。
――そうだ。授業中、女子は油断をしている。

   ガードが下がっているのだ。

「教壇だ!」
思わず大きな声を出してしまった。真山もそれに応じる。
「その通り! 正解だ!」
「だから俺は国立の教育大を目指している。そこで教職を取り、教壇に立つのだ! 俺にとってこれ以上素晴らしい職場は無いだろうな!」
パンチラのために己の進路さえ捧げる。真山こそ真のパンチラ求道者であった。



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