【 兄の呼び方色々 】
◆VXDElOORQI




81 :時間外No.03 兄の呼び方色々 1/4 ◇VXDElOORQI:07/06/11 00:04:08 ID:gBATA5Kq
「おにぃちゃーん!」
「アッニキ!」
 俺を呼ぶ二つの声によって眠りから覚めた俺が、朝一番、目覚めて最初に見たものは、俺に振ってくる二人の
妹。ノゾミとリンの姿だった。
「ぐはぁ!」などと無様な声を上げ、二人に圧し掛かれるのがいつもの俺だが、今日は違う。
 見よッ! 我が華麗なる体捌きを!
 俺はすばやく布団から飛び退り、二人の降下軌道上から脱出する。
「ふみゅ」
「ふぎゃ」
 まっしぐらに布団へとフライングプレスをしたノゾミとリンはそれぞれに愛らしい悲鳴を上げる。
 俺は受身を取り、折り重なるようにして布団に不時着した妹たちを一瞥し、鼻を鳴らす。
「ふん。愚妹たちよ。いつまでも同じ手にかかるとおも……ん?」
 扉から新たな二つの影が俺に向かって飛び掛ってくる。
「あにぃー!」
「にいさまー!」
 なにッ! 側面からだとッ! よ、避け切れんッ。
「ぐはぁ!」
 飛び出してきた新たな二人の妹、マモルとウララのアメフトばりのハードタックルを食らい、前言撤回、俺は
無様な声を上げる。
「やった! あにぃつっかまえた! さ、早く動物園いこっ!」
 布団に不時着したノゾミが動物園という言葉に反応して、身を起こす。
「え? 動物園? 遊園地でしょ? この前、お兄ちゃんと約束したもん」
「動物園ですよぉ。ウララ、約束したんです」
 動物園? 遊園地? こいつらはなにを言ってるんだ?
「お兄様ー? お目覚めになられましたか? そろそろ水族館に……ってあなたたち! お兄様の上でなにやっ
てるの! お退きなさい!」
「あらあら、大変」
 そこに現れたカレンとコマチ。
 カレンも水族館などとわけのわからないことを言っている。多分、みんなそれぞれ俺が連れて行ってくれると
思っているのだろう。

82 :時間外No.03 兄の呼び方色々 2/4 ◇VXDElOORQI:07/06/11 00:04:23 ID:gBATA5Kq
 とりあえず聞かなかったことにして、黙っていよう。
「ほら、早くどきなさい。お兄様が怪我でもしたらどうするの。これからお兄様が水族館に連れて行ってくれる
んだから、暴れちゃダメでしょ」
「水族館じゃなくて、遊園地だよ?」
「動物園だよぉ」
「そんなわけないじゃない。だってお母様が言ってたのよ」
「私だってお母さんから聞いたよ?」
「あたしもですぅ」
 ほほう。やっぱり黒幕はお袋か。やってくれるじゃないの。どうせまた妹たちの世話を俺に押し付けて、遊び
に行ったに決まってる。こうなりゃお袋が帰ってくるまで意地でも家にいてやる。そして、妹たちの非難を浴び
るがいい。
 まずはどうやって時間を稼ぐかだが。そうだな。とりあえず死んだふりでもしてみるか。幸い、マモルとウラ
ラのタックル以降身動き一つしてないし。
「あら、そうなの。お兄様はなにか聞いてませんか?」
 無視。
「お兄様?」
 無視無視。
「ねぇお兄様ったら」
 無視無視無視……流石にちょっと可哀想になってきたな。
「また寝ちゃったのかな。アッニキ! おっきろ!」
 再びのリンのフライングプレス。俺はうめき声が出るの必死で抑える。
「あれ?」
 リンが俺の上に乗って首を傾げていると、ドタドタと残りの妹たちが俺の部屋にやってきた。
 皆口々に「どうしたの?」とか「なにかあったの?」などと心配そうな声を出している。
「に……にいさまが動かないの」
 ウララが泣きそうな声を漏らす。
「あ、あたしが体当たりなんてしたから……」
「僕だって一緒にしちゃったよぉ……」
 ウララに続きマモルも泣きそうな声を漏らす。そのせいか部屋に集まった集まった妹たちが次々に俺に声をか
けてくる。

83 :時間外No.03 兄の呼び方色々 3/4 ◇VXDElOORQI:07/06/11 00:04:38 ID:gBATA5Kq
「お兄ちゃん?」
「アニキ?」
「あにぃ?」
「にいさまぁ?」
「お兄様?」
「兄君様?」
「兄上?」
「兄者?」
「あにくん?」
「にいさん?」
「あにさま?」
「にいちゃま?」
「にいたま?」
「にいさま?」
「おにいちゃま?」
「にいくん?」
「にいや?」
「にぃにぃ?」
「おにぃ?」
「あにチャマ?」
「あにさん?」
「あにや?」
「アニアニ?」
「兄っち?」
「兄すけ?」
「兄?」
「兄きち?」
「兄りん?」
「兄ポン?」
「あにっぺ?」

84 :時間外No.03 兄の呼び方色々 4/4 ◇VXDElOORQI:07/06/11 00:04:53 ID:gBATA5Kq
 妹たち、三十人全員が俺に心配そうな声をかけてくる。流石に心が痛む。やっぱり起きよう。
「たっだいまー」
 と思った瞬間、聞こえてきたのは憎き母の声。俺はものすごい勢いで起き上がり、声が聞こえた玄関へと走る。
「おーただいまー。やっと起きたか」
「ただいまじゃねえ! 妹たち俺に押し付けてどこにいってやがった!」
「んーちょっと病院にね」
 びょ、病院だと。
「ま、まさか……」
 お袋は腹を擦りながらニカっと笑う。
「双子の女の子だって。これで女の子だけで人間チェスが出来るわねぇ」
 お袋はそう言うとハッハッハと豪快に笑った。
「か、勘弁してくれよ」

おしまい



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