【 追求するのは止めておこう 】
◆InwGZIAUcs




65 :No.17 追求するのは止めておこう 1/3 ◇InwGZIAUcs:07/06/10 23:16:28 ID:yXi0zTAD
 無い……。
 何故だ? 何故だ? 何故だ?
「ぬぁああぜええだあああああああーーーー!」
 俺は絶叫すると共に勢いよく冷蔵庫の戸を閉めた。
自転車がパンクするような音がリビングに響き渡る。
 俺は大きく深呼吸をして、ゆっくりと吐き出した。
「フゥーー」
 よし、大丈夫だ。落ち着いた。もう一度冷蔵庫を確かめよう。
 そーっとゆっくり探せば……きっとどこかにあああああああああああ――無い!
 どこにいった!
 俺が苦労して買ってきたモハヤ(お菓子の大手メーカー)の一日十個限定特製アイスクリームは!
 もう、もう、今日一日これを楽しみ生きてきたのに!
 お風呂上がりなのに!
 歯磨きもまだしてないのに!
 黒幕……黒幕がいる筈だ。
 親父か? 母さんか? それとも……悠か?


「ん〜〜なーに? おにいちゃん」
 悠は自室で勉強をしていた。同じ血筋とは思えないほど真面目なやつだ。
 肩まで掛かった栗色の髪の毛が少し濡れている。悠もお風呂に入ったのか。
 む、当然一緒には入ってないぞ。
 流石に悠ももう小学五年生だし、それにこいつ……妙に色っぽいからな……髪も長いし。
「なあ、俺の買ってきたモハヤの一日十個限定特製アイスクリーム知らねえか?」
 悠のつぶらな瞳と綺麗な形をした眉が少しピクッと動いた。
「ぼ、ボクは知らないよ」
「本当に?」
「本当だよ!」
 ほっぺを膨らませて否定する悠はとても愛らしい……のだが、ここで甘やかしてはいかんのだ。
「ほう、ならこのゴミ箱に捨てられたモハヤのアイスのパッケージはなんだ?」

66 :No.17 追求するのは止めておこう 2/3 ◇InwGZIAUcs:07/06/10 23:16:47 ID:yXi0zTAD
「へ? 嘘! 見つからないよう……に」
 俺は満面の笑みとティッシュしか入っていないゴミ箱を悠に向ける。悠も悟ったようだ。
「うーそーだーよー」
「う〜ずるいよ! ボクを引っかけたなあ!」
「ほら、何でお兄ちゃんのアイスを食べちゃったんだ?」
 下唇を噛んで悠は黙ってしまった。
 やはりちょっと愛らしいけどここで甘やかしてはいかんのだ。
「ほらほら、白状しないと……こうだ!」
「へ?」
――こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ……。
「きゃはは、や、やめて、あ、あ、や、わかった、から、許して〜〜!」


 ようやく俺から解放された悠は、一冊の雑誌を差し出した。
「これ」
「ん、なんだこれ?」
「……ここの記事」
「何々? お兄ちゃん大好き妹必見! お兄ちゃんと仲良くなる方ほ……う……?」
 なんじゃこりゃ? 俺と? 悠が? 仲良く?
 ……ツッコミ所は満載だけど、これとアイスがどう繋がるんだ?
「ここに、お兄ちゃんは困らせ事をする妹に弱いって……」
 なるほど。
「んでアイス食べたってわけか?」
 こくっと首を縦に振る悠。俺はデコピンをしてやった。
「い、いたい」
 涙目の悠を俺は半眼で睨んだ。
「あのな。やっていいことと悪いことがあるの」
「ご、ごめんなさい……」
「よろしい」
 俺は二カっと笑い悠の涙を拭ってやる。ついでに頭も撫でてやるか。

67 :No.17 追求するのは止めておこう 3/3 ◇InwGZIAUcs:07/06/10 23:17:04 ID:yXi0zTAD
「あのな、今のままでも十分俺の可愛い悠なんだ。こんな雑誌なんか気にするなよ。大体お前は――」
 言葉を続けようとした所で、いきなり飛びついてきた悠に遮られてしまった。
 後ろのベッドに倒れ込んでしまう俺と悠。
「ボク、お兄ちゃん大好き!」
「こら、いてえよ。頬ずりするな」
「ボク頑張るね!」
「何をだよ? 大体お前は――」
「立派な妹に、んーん、女の子になってみせる!」
 そこらへんの幼児趣味のオタクには危険すぎて見せられない位可愛いな笑顔で悠は言った。
 しかし……なあ。
 一つだけ突っ込んでおくか。
「性転換でもするつもりか? 弟よ」

 終わり



BACK−メイ道、追求◆D8MoDpzBRE  |  INDEXへ  |  NEXT−父のキモチ/兄のキモチ◆2LnoVeLzqY