【 メイ道、追求 】
◆D8MoDpzBRE




60 :No.16 メイ道、追求 1/5 ◇D8MoDpzBRE:07/06/10 22:55:00 ID:yXi0zTAD
 堂平源八社長は、至高のメイドロボの開発に勤しんだ己の半生を振り返り、ため息をついた。
 未だ、目的は果たされれず。
 夕暮れのオフィス街が、眼下に果てしなく広がる。超高層ビルの一角に、潟<Cド・イン・ジャパンの事務所が存在
していた。
 メイドロボ開発の片手間に商品化した製品、全自動食器洗いロボ、全自動洗濯ロボ、全自動料理ロボなどがヒッ
トし、彼の会社は日本を代表する超優良企業としての地位をほしいままにしていた。
 だが、まだその道は半ばだ、と堂平は考えていた。
 コンセプトは出来上がっている。今までメイド・イン・ジャパン社に蓄積されたノウハウの全てを注ぎ込めば、不可
能ではないと、堂平は信じていた。
「社長、試作品が出来上がりましてございます」
 いつの間にか、社長室に秘書の天野甚太郎が立っていた。
「うむ。当社が真に目指すメイドロボの姿、それは、恋し恋されるメイドロボだ。分かるな、天野よ」
「心得てございます」
「世の男性が抱く恋心をも満たしてやるのが、メイドロボの行き着く先として究極の姿であることは言うまでもない。
食器洗い、洗濯をはじめとする家事を完璧にこなした上での話だ」
 堂平が、熱く弁を振るう。その勢いに、思わず天野がたじろいだ。

61 :No.16 メイ道、追求 2/5 ◇D8MoDpzBRE:07/06/10 22:55:15 ID:yXi0zTAD
「天野よ。先日わしが企画したメイドロボを、しかと見せてもらおう。萌えに精通したアニメオタクの指向をふんだん
に取り入れた、『リトル冥王一号』を」
 天野が、白い布がかけられた高さ一メートル五十センチを少し越える、人の形をした物を運び込ませた。
 少しの間をおき、天野がその布を一気に取り去った。
「社長、これぞ長年当社の技術開発部が温めて参りました、究極のメイドロボの理想型に相違ありませぬ。プロ
フェッショナルの目を通じて、全ての家事の過程において、細やかな配慮ができるようプログラミングいたしました。
また、最新の恋愛シミュレーションゲーム開発部が用意した人工知能、名付けて『初恋ナビゲーション』を搭載して
おります。デザインは、アキバアニメ研究会の有志を集め、これ以上ないものに仕上げてございます」
 完成品を目にして、堂平の顔がみるみる紅潮した。
「そうか、アキバアニメ研究会か……」
 天野が、唾を飲む。次いで、堂平が怒声にも似た雄叫びを上げた。
「馬鹿者! どこからどう見ても、これはガンダムではないか!」
「否、ザクにございます。赤く塗った特別仕様品は、三倍の価格にて……」
「萌えぬ! お前がデザインを依頼したアニメ研究会は、方向性が違うのだ、死んでしまえ」
 堂平の罵声を背中に浴び差かけられ、天野が社長室をすごすごと退散した。
 萌えるメイドロボ完成の日は、まだ遠い。

62 :No.16 メイ道、追求 3/5 ◇D8MoDpzBRE:07/06/10 22:55:30 ID:yXi0zTAD
「社長、恋し恋されるメイドロボの試作品が完成いたしました。『South Pole二号』にございます」
「うむ。見せるがよい」
 天野が、赤い布がかけられた高さ一メートル五十センチを少し越える、人の形をした物を運び込ませた。
 布を取り去ると、中から青い髪の毛をした、何とも可愛らしいデザインの女形ロボが登場した。
「おお、わしのイメージした通りじゃ。早速、これを動かして見せろ」
 堂平が、興奮を抑えられない様子で身を乗り出した。
「ごらんに入れましょう。これ」
 天野がロボットの電源を入れると、その青髪の少女は、ゆっくりとした動作で動き始めた。
「目覚めたか、少女よ」
「何なの、おっさん」
 少女が、悪態をついた。
「ツンデレ機能にございます」
 すかさず、天野が相の手を入れる。
「……少女よ。わしのために、取り敢えずお茶を入れてはくれまいか?」
「はぁ? 何であんたのために私がそんなことしなきゃなんないのよ、バカァ!」
 少女はそう吐き捨てると、堂平の右頬を思い切りはたいた。いくら女の子の形をしているとは言え、元は超合金
ロボである。たちまち堂平の鼻から鮮血が吹き出した。
 堂平の引きつり笑いが一層強張り、こめかみの血管が露わになった。
「天野! これでは役にたたんではないか。どうすればいいのだ」
「フラグを立てなければなりません」
「して、そのフラグを立てるにはどうすればよいのだ?」
「朝、登校中、トーストを咥えた彼女と出会い頭に衝突しなければ、いかなるイベントも発生いたしません」
「馬鹿もん、死んでしまえ! お前ら全員、死ね死ね死ね」
 萌えるメイドロボ完成の日は、まだ遠い。

63 :No.16 メイ道、追求 4/5 ◇D8MoDpzBRE:07/06/10 22:55:46 ID:yXi0zTAD
「社長、恋し恋されるメイドロボの試作品が完成いたしました。」
「うむ、見せよ」
 天野が、黄色い布がかけられた高さ一メートル五十センチを少し越える、人の形をした物を運び込ませた。
 布を取り去ると、中から青い髪の毛をした、何とも可愛らしいデザインの女形ロボが登場した。
「この間と見た目は同じだな。肝心の中身は、どうだ」
 堂平が、半ば諦めかけたような気のない声で言った。
「ツンデレ機能は外しました。必ずや、社長のご期待に添えられる物と思っております」
 天野が胸を張り、ロボットの電源を入れた。
「では、まずわしにお茶を入れ給え」
「かしこまりました、ご主人様」
 堂平の言葉に反応して、その青髪の少女は、ゆっくりとした動作で動き始めた。
 慣れた手つきでお茶を淹れると、それを堂平の元へと運び、机の上に置いた。完璧な動作だ。
「お待たせいたしました、ご主人様」
 その後も、その少女は堂平の命令に寸分違うことなく従い、そのたびに可愛らしい微笑を浮かべた。最初は警戒
したかのような表情を浮かべていた堂平も、徐々にその顔をほころばせていった。
「これだ、天野よ。ようやく完成したな。褒めてつかわすぞ」
 堂平が、呵々と笑った。天野も、やはり笑った。
「して、天野よ。一つ頼みがあるのだ、聞いてはくれまいか」
 試作品のお披露目は成功に終わったと天野が確信を抱いた頃、堂平が天野に新たな注文を付けた。
「じ、実はわしは猫耳に憧れておってな。何とかオプションで猫耳を付けては貰えまいか?」
「お安いご用です、社長」

64 :No.16 メイ道、追求 5/5 ◇D8MoDpzBRE:07/06/10 22:56:01 ID:yXi0zTAD
「社長、恋し恋されるメイドロボの試作品、猫耳バージョンが完成いたしました」
「ほう、その出来映えはどうじゃ?」
 天野が、青い布がかけられた高さ一メートル五十センチを少し越える、人の形をした物を運び込ませた。
 少しの間をおき、天野がその布を一気に取り去った。
「……? どういうことだ、耳がないではないか。そればかりではない。どうにもこの少女、顔色が悪いように見える
ぞ。真っ青になっておる」
「そ、それが社長。昨晩、耳をネズミにかじられてしまいまして、このような姿になってしまったのです」

 後のドラえもんである。



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