【 追求する人々 】
◆KJhdB/chEI




5 :No.02 追求する人々 1/4 ◇KJhdB/chEI:07/06/09 19:46:02 ID:Ws78kRK+
「犯人はあなたね!」
 見慣れぬ少女が、突然人を指差し、嬉々として宣言する。犯人、それが私であると。
 犯人と言うからには、犯罪か、悪さと見なされるようなことが、すでに行われているの
だろう。それを実行したのが私であるらしいが、どの事柄を指しているのか、皆目見当も
付かない。故に、この場では、YES、NOで答えることは出来ない。そもそも、これは宣言
であると私は見ている、ならば肯定も否定もする必要はないのではないか。
「どっちなのよ! はっきりしなさいよ!」
 そこまで考えたところで、私が外見上の反応を示さなかったのに不満を抱いたのか、少
女は要求を発する。
 どうやら彼女の第一声は、質問であるらしかった。ならば、何かしら答えるのが、礼儀
というものだろう。しかし、先ほどの言葉を質問と解釈するなら、YES、NOでしか答えら
れぬ類である、その二択を選ぶことは困難だ。ならば、質問に質問で返す、という間抜け
なことをしてみようか。それも良いかもしれないが、今は気が乗らない。礼は失するが、
回避しておくとしよう。
「麻衣姉、どうにかしてくれ」
「なんだ、気づいてたのか」
 視界の端に映っていた、見知った顔に助けを求める。あなたも従兄弟が絡まれてると分
かっていたなら、止めに入ったらどうなんだ。
「なに〜? 麻衣の知り合いなの〜?」
 因縁を付けてきた少女が、いかにも疲れたといった風にため息をつく。
「麻衣さん、弟さんがいらっしゃったのですか」
 麻衣姉の後ろに隠れていた、可憐な少女が言う。
 おかしな喋り方をしているが、脅されでもしているのだろうか。
「違う、これは従兄弟だ。何、ただのオタク(変態)さ」
 これ呼ばわりについては、突っ込むほどでもないだろう。紹介の仕方も否定する訳には
いかない。だが、何かやるせない。
「しかし賢、もう少し相手をしてやれ、ヨーコが可哀想だろう」
 ふむ、物事の順序がよく分かっていない少女はヨーコというらしい。確かに、あらゆる
典型を知る者(オタク)として、何かしら返した方が良かったか。
 麻衣姉の、ニヤニヤした顔が目に入っていては、その気も失せるが。

6 :No.02 追求する人々 2/4 ◇KJhdB/chEI:07/06/09 19:47:11 ID:Ws78kRK+
「なるほど、あなた達が学園を騒がす三人娘だったのですか」
「どうして自己紹介しただけでそうなるんだ? それより何だ、その呼び名は」
 麻衣姉が言う。ここは、何故その結論に至ったかではなく、何故その名称を用いたのか
を説明しろってことか。
「私も、あなた方のご活躍はちらほら耳にしますが、騒動を起こすことと、構成員が三人
 の女である、と言うことしか知りませんから」
「くそっ、もっと格好いい名前で噂蒔いたはずなのにッ!」
 これは洋子。この人は自ら自分の武勇伝語り継がせてるのか、ひょっとして創作なんじ
ゃないだろうか。
「ごめんなさいね賢さん、お騒がせしてしまって」
 桂朝美、この人は底が見えない。麻衣姉もそんな感じだが、付き合いが長いからまだ良
い。というか、どの部分を謝っているんだろう。全部か?
「いえ、そんなことより、何故私が標的にされたのか聞いておきたいんですが」
 また容疑者にされるとも限らない。出来れば、この人達との接触確率は下げておきたい。
「メガネだから」
 なんと、気が付けばどころか望んで一日中PCの前にいる人(オタク)必須装備であるとい
うのに。これでは安心して夜道を歩けない。
「……ではもう一つ、何故メガネが狙われるのでしょう」
「よし賢、お前も下着ドロ探しを手伝え」
 ん? これは何だ、いつまでたっても情報が少ないのに話が進んでいる。この与えられ
るものは微々たるままに続くのだろうか。これが格差社会か。
「犯人の特徴を聞き出すということは、捕まえる気があるということだな」
 なるほど、そう来るのか。これは判断を誤った。別れを告げて立ち去るべきだったのか、
そう簡単に解放してくれるとも思えないが。それとも、最初から逃げておくべきだったの
か。いや、あそこで逃げては、何をされるか分からない。接触した時点で終わっている、
と考えるべきなのか。
「なんだ、それならそうと早く言えばいいのに」
「ご協力ありがとうございます、賢さん」
 バラバラに行動しているように見えて、連携してるな、この人達。まあ……いいか、私
も基本的には正義感溢れる人間(オタク)だ。協力するのも悪くはないだろう。

7 :No.02 追求する人々 3/4 ◇KJhdB/chEI:07/06/09 19:47:44 ID:Ws78kRK+
「更衣室に入れられる訳ないでしょうが!」
 何故だ、現場検証もさせないとは、早くも捜査が行き詰まってしまう。
「どうしても駄目ですか」
「あたりまえでしょう!」
 くっ、やむをえない。
「ならば被害者と話をさせ──」
「それも駄目」
「どうしてです?」
「セクハラだし、プライベートの問題もあるわ」
 私にどうしろと……?
「あはっ、はっはっはは。いやー面白い」
 麻衣姉、あなたはやはり、面白がる為に私を巻き込んだのですね。
「大丈夫だ、状況は私から説明しよう」
 やっと、やっとか! やっと説明が入るのか!
「さっきも言った通り、下着が無くなったのは女子更衣室だ」
「そもそも、そこからおかしいではないですか。何故、更衣室で下着が無くなるんです?
 脱ぐ必要など無いではないですか」
「良いところに気が付いたな」
 普通気づくだろう、常識的に考えて。
「しかしお前は甘い。その子は部活動を行う際履いていなかった、つまり脱いでいたのだ」
「ブフォオア」
「なんでも、下着の濡れた感触が嫌らしい、さすがにブラは付けていたらしいが。他にも、
 替えを持参している子もいるぐらいだ」
 不覚、この程度のことで平常を保てないとは……! だがあり得ない! こんなことは
男女問わずあり得ない!
「犯行時刻は部活動が始まってから、一人の女子が更衣室に戻るまでだ」
「一人の女子? その人が部活動の途中に、更衣室に帰ったと言うことですか?」
「そうだ。被害者の使用していたロッカーが荒らされているのを見て慌てて戻ったそうだ」
「……荒らされていたロッカーはそこだけでしたか? 被害者は確か一名でしたし、ここ
 のロッカー名札付いてませんよね? それなら話は早いと思うのですが──」

8 :No.02 追求する人々 4/4 ◇KJhdB/chEI:07/06/09 19:47:59 ID:Ws78kRK+
「……何だったんだ、あれは……」
 私の推理では、途中で帰った子が盗った。と思ったんだが、実際は違った。三人娘が追
求したところ、盗る気だったとは白状したらしいが──何かこの時点でやっぱり関わりた
くなかったという感じだ──、本当になかったらしい。当初は交換するだけのつもりだっ
たという。わざわざ数パターンの替えを用意していたとのことだ。
 そこで、次に被害者の子を追求したところ、どうやら最初から履いてなかったらしい。
盗る気だった子に、無いことを騒がれ、やむを得ず盗られたことにしたそうだ。さすがに、
履かない、という選択のできる剛の者である。
 結論としては、未遂に終わって良かったんじゃないですかねー。
「まあ、面白かっただろ」
 この人は、この結末の可能性を見越していたはずだ。なのにさっさと解決しなかったの
は、面白がっていただけだからか。洋子は騒ぎたかっただけ。桂朝美は、何がやりたいの
かよく分からない。はた迷惑な連中だ。
 しかし、経過を私に話しに来るとは、殊勝な心がけだ。こんな話、誰にも話せないし、
話す気もしない。それを分かってのことだろうが。
「正直、金輪際関わりたくない」
 私は趣味の時間を最も大切にする人(オタク)だからな。こんなことが何度もあっては死
活問題だ。
「そいつは残念だ」
 麻衣姉は、あまり残念そうでない笑顔で答える。
「そういえば、まだ、私が犯人呼ばわりされた理由を、はっきり聞いてないんだが」
「それは洋子に聞いてくれ、私も何故お前に突っかかったのか知らん」
 そんなことだろうとは、思ったけどね。

<終>



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