【 明日から今日 】
◆cWOLZ9M7TI




18 :No.05 明日から今日 1/1 ◇cWOLZ9M7TI:07/06/02 23:41:47 ID:g9Ku8zyN
彼は、今日やるべきことをとにかく明日に回す性格だった。
それは小学生の頃から続いており、成人したいまでもなお、治ってはいない。
彼には今、絶対にやらねばならぬことがあった。
なぜ、それを「絶対にやらねばならない」ことになったかは、いまとなっては定かではない。
―とにかくやらねばならぬのだ。―
その言葉だけが、彼の精神の器を一杯にしていた。
もうそれを遂行するという事以外には、他のことなど考えられぬのだ。
だが、彼の生来の性格により、その「やらねばならぬ事」は先延ばしになっている。
―俺ってやつは―
彼はそう自分で自分を苦笑する。
本当に嫌気がさしていた。
治そうと何度おもっても到底自分では治せぬ。
もう誰かに頼るしかなかった。
―アイツなら―
ふと彼は友人の存在を思い出した。
友人は心理だとかそういうものを専攻していたはずだ。
後日、彼はその友人に相談した。
友人はたくみに彼の複雑に絡み合った精神を紐解いていった。
彼は、今日こそは「やらねばならない事」を実行に移せそうな気がした。
彼は丁重に礼を言って、友人のもとを後にした。

マンションを彩る赤色の蛍光。
警察官達がマンションの一角に集まっていた。
飛び降り自殺だった。
この時代ではよくある話だ。ありふれている。
しかし、このありふれた事件でどの警官も首をかしげた。
死体は笑顔だった。こんなケースはどの警官もはじめた。

そう――彼は、ついに明日から解き放たれたのだ。



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