【 嫉妬 】
◆/7C0zzoEsE




88 :No.22 嫉妬 1/4 ◇/7C0zzoEsE:07/05/28 00:17:01 ID:PNLIE/O+
 僕たちは、仲の良い三人で。
今日も公園に集まって、とりとめの無いようなことを話していた。

「俺は、絶対に将来時空を越える発明をするんだ」
 良太は頭が良いのだが、悪いような。気の良い奴。
今日は悠君が、やたらと饒舌である。
聞けば、どうやら大発見をしたようである。
「タイムマシン……は無理かもしれないが、
きっと過去の人間に手紙を送るくらいはできると思うんだ」
 どこから、そんな自信が湧くのだか分からない。
人間と比べて、情報の移動は容易である。だとか、小難しいことも話していた。
が。話半分に聞いていた。

「じゃあ……どうやって未来の自分に連絡送るの?」
 ずっと大人しい、優がおそるおそる尋ねる。
「それは、これよ!」
 良太が良く聞いてくれた、と右手に筒状のものを高々と掲げあげた。
言えば、タイムカプセル。
将来、大きくなってから掘り返すというそれ。

「年をとってから、これに埋めた手紙を受け取りに行くだろ?
そうして、その場所に返事を返してくれたら、きっと未来の自分と文通ができるんだ」
 別にこっちからわざわざ手紙を送らなくても……なんて聞くと、
いつ、どこに返せばいいのか分からないだろう。なんて言いだす。
 ほとんど意味を把握できないのだが、発明者になる彼が言ってるのだから、
きっと駄目なんだろう。

 優は感心して聞いていた。

89 :No.22 嫉妬 2/4 ◇/7C0zzoEsE:07/05/28 00:17:20 ID:PNLIE/O+

「じゃあ、用意しておいた。手紙をここに埋めて……と」
 彼はタイムカプセルを地中深くに埋めた。

「これで、何の連絡も取れないと、お前は発明できてないことになるな」
俺がそう言って、挑発的な目で見ると、
良太も「俺は天才だ」なんて言って親指を立てる。
 これで良い。男の友情なんて、相手が失敗しても笑い飛ばす位の豪快さで丁度良い。
俺達も、ずっとそうやって一緒にいてきた。 
 優だけは怪訝そうな顔でずっといた。

 良太の手紙を覗き見すると、
将来の俺の嫁サンはどんなのですか。なんてあどけなく書いていたので、
思いっきり冷やかすと、顔を真っ赤にして怒っていた。

――翌日。

 学校で、良太を励ましてやろう。と、登校すると。
彼は満面の笑みで俺の肩を叩いた。
「よう! 俺の嫁さん。超美人だってよっ」

 初めは半信半疑で、彼の笑顔を見ていたのだが。
どうやら、何かの冗談じゃないらしい。
彼の事だから、もしなんの返事も無ければ一日は落ち込んでるはずだから。


 それでも彼は一日中にこやかで、
帰りには、俺に
「今日も、未来の俺と文通してくるぜ」
 なんて、手紙を握り締めて、走って行った。

90 :No.22 嫉妬 3/4 ◇/7C0zzoEsE:07/05/28 00:17:36 ID:PNLIE/O+
 それから、ずっと彼は未来の自分と文通しているようで、
毎日、未来の世界はどうだとか、自分は何してるだとか。
俺が何やってるだとかを誇らしげに話してくるので、たまらない。

 どうやら、放課後の帰宅時に埋めに行って、
朝早くに掘り返すにいくようで、忙しいそうだ。
 お陰で、三人で集まることもめっきり少なくなってしまった。
 だが、ある日。
急に良太は何も話さなくなってしまった。
青菜に塩、とでも言うか。
サンタクロースの父親を見た時のような。

 一体、どうしたというのだろうか問い詰めても、何も話さない。
特に、未来の話をすると機嫌が悪いようだった。

 それでも、放課後になったら、いつもと同じく走って埋めに行く。
彼の背中から覇気は見られなかった。


 一体、何が起こったのだろうか。余計なお世話だが、知りたくなった。
知って、慰めてやりたかった。
 翌日の、朝三時。若いという元気を武器に、妙な疲労と戦って見に行った。

 空はぼやけてはじめて、未来の手紙の到着先を隠れて見ていた。
さて、あと何時間後に何がおこるのだろうか。
 うつらうつら様子を眺めていた。

91 :No.22 嫉妬 4/4 ◇/7C0zzoEsE:07/05/28 00:17:53 ID:PNLIE/O+
 三十分も立っただろうか。人影が見えた。
良太か? そう思って、そっと近づく。
 だが、そこにいるのは、どうみても屈強な良太じゃなかった。
柔らかく、華奢な優の姿が、そこにはあった。
 
 必死に、土を掘り返している。

 そのずっと向こうで、気付かれないように優の背中を
みつめている良太の姿があった。
 三人は三人とも、隠れあっていた。

 そうして、俺は気付いたのだ。
良太の、文通相手の正体。それと優の優しい恋心に。


 これだから、男と女の友情というのは生ぬるくて困る。
俺は、どうやら、情けない話。
良太を慰めてやれそうにもない。悔しくって。
 
                         (了)



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