【 変化 】
◆ZRAI/3Qu2w




86 :No.21 変化 1/2 ◇ZRAI/3Qu2w:07/05/28 00:09:58 ID:PNLIE/O+
「兄貴、準備出来た? いくよ」
 玄関からフミが俺を呼んでいる。居間のソファで寝そべっていた俺は小走りで玄関へと向かった。
「もう準備できたか?」
「それはこっちのセリフだよ、もう」
 フミはそっぽを向きながら答えた。俺はフミを視界の外に追い出して靴を履き始めた。今日は運動靴でいいと思い、黒いやつを履いた。どうせ買い物に行くだけだ。
 ふとフミのほうを見やった。青いキャミソールの上に白いチュニックを着て、下に黒いジーンズを穿いている。その姿はポニーテールのフミには似合っていて、
不覚にも可愛いと思ってしまった。フミがこっちを向いたので、靴紐に目線を移した。まだ視線を感じる。
 しかしと思ってしまう。こんなに可愛いフミだが、実は弟だなんて口が裂けても言えやしない。身体は間違いなく女なのだが、弟だ。フミは身も心も一時的に女になってしまう体質なのだ。いつからこうなのかはわからない。一人称も「俺」から「私」へと変わってしまう。
ちなみに性別が変わっても記憶はそのまま残るそうだ。
 俺たちは家を出た。今日は女の状態のフミと買い物に行く。道すがら時々ご近所さんとすれ違うが、当然のことながら自分の妹と言ってある。むしろこいつを弟と言ったほうが信じられないだろう。
 歩いて十分、俺たちは近所のスーパーに着いた。早速買い物カゴとカートをとり、今日の夕食のハンバーグの材料をなどを買い回った。

「おい、またこのチョコレート買うのか」
 フミは買い物のたびに同じ銘柄のチョコレートを買っている。しかも女のときだけだ。本人曰く、性別が変わると好物も変わるらしい。そんなことはないと思うが。
「いーじゃん、兄貴のけち」
 フミが唇を尖らせた。いつものやりとりだ。結局俺はこいつがこのチョコレートを買うことを許してしまう。こいつの眩しい笑顔には逆らえない。

87 :No.21 変化 2/2 ◇ZRAI/3Qu2w:07/05/28 00:10:17 ID:PNLIE/O+
 レジで会計をすまし、買ったものを袋に詰め込んでいると、フミが服を指先でつまむように引っ張ってきた。やることが一々可愛いなちくしょう。
「兄貴、変わっちゃいそう……」
「なんだって?」
「だからっ……変わるの……!」
 まずい。非常にまずい。フミがこういうときは、決まって男に戻るときだけだ。こんな人の多いところで、男に戻られては風評にかかわる。
こんな女の子した格好で男に戻られてはまずい。
 急いで俺は買ったものを袋に詰め、泣きそうなフミの手を握りスーパーを出た。早く家に帰らなければならない。それしか頭になかった。とにかく俺たちは家へと駆け出した。メロスの気分がわかるぜ。
「兄貴、もう、駄目…………!!」
 フミのかすれる声が聞こえた。握っていた手がだんだんと大きくなっていくのが感じられた。
「おい! もう家はすぐそこだぞ! がんばれ!」
 活を入れても、どんどんフミが男に戻っていくのが感じられた。手は逞しくなっていき、服が窮屈になっていくのがわかる。家は目の前まで見えていた。
 なんとか家の敷地に入った。ギリギリセーフ。
九回裏、四対三、ツーストライク・スリーボール・ツーアウト満塁で相手打者を打ち取ったかのようなすがすがしい達成感がこみ上げてきた。
 横でくたばっているフミに話しかけた。既に男に戻っている。可愛い服がきつそうだ。
「よかった、間に合って」
「ああ、よかった」
「これからはちゃんと気をつけるんだぞ、フミ」
 フミはばつが悪そうな顔になった。
「わかってるよ、けど、それは姉ちゃんも一緒だろ」
 言われて気がついた。私も元の姿に戻っていた。



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