【 時間対理性対彼女対俺 】
◆zpR5a0jQpA




82 :No.20 時間対理性対彼女対俺 1/4 ◇zpR5a0jQpA:07/05/28 00:03:48 ID:PNLIE/O+
 日曜の午後、両親から時限爆弾が我が家に届いた。
「さて、これは一体どうしたものだろうか」
 机に鎮座した玄関に鎮座した時限爆弾を見やる。とはいえ箱に入っているので、まだ中身は確認していない。しかし、
箱に貼ってある紙には、でかでかと時限爆弾の四文字。真実かどうかわざわざ海外に電話して確認済みだ。
 それにしても、時限爆弾が目の前にあるかもしれないというのにこの落ち着きようはどうだ。慣れというものの恐ろ
しさをつくづく実感する。
「一ヶ月前はなんだっけ……ああ、そうだ。ダッチワイフだ」
 寂しい生活を送っているであろう(性的な意味で)我が息子へ(笑)。とでかでかと書かれた貼り紙付で贈られてきた時は
流石に殺意を覚えた。当然、一回も使わずにつき返したが。正直少しだけ後悔してなくもない。
 それが今度は時限爆弾か。あの二人はきっと精神的には俺より十歳は若いだろう。
「まあいいや……中身だけ返してさっさとつき返すか。タイムリミットの来ない内に」
 しかし、なんというか今回は徹底しているな、と思う。いつもみたいに適当に詰めた感が丸出しのダンボールなどではなく
ちゃんとそれっぽい箱に入っている。見たことのない機械でゴテゴテと装飾された箱だ。
 箱を開けるにはどうやらパスワードが必要みたいで、貼り紙の裏にしっかりとそのパスワードも記載されていた。
「3、7、5、6、4……皆殺し?」
 なにやら物騒なパスワードに苦笑しつつも、ロックも無事解除されてようやく時限爆弾とご対面――のはずだったのだが。
「……なんだ、この子」
 箱の中に入っていたのは時限爆弾どころか、普通の人間。それも可愛い女の子だった。
 どうすればいいかもわからず、ただ呆然と彼女、もしくは爆弾をただ眺めていると、ぴくっと爆弾の彼女が体を動かした。
 わけがわからず俺もあとずさって身構える。おかしい、何もかもが。ただの悪戯にしては手が込みすぎている。
 がばっと箱から起き上がり、こちらと目が合う。どうやらもう完全に目が覚めたようだ。
「んー……んっ? あ、おはようございます」
 いや、もうなんというかそのまんま人間だった。挨拶のあとの一礼とか自然すぎる。
「あの、君は――」
「えーっと。佐川陽介さんのご子息、佐川晃さんで間違いないですか?」
「え、ああ。はい」
 声優のようなよく通る綺麗な声だ。喋り方だって人間のそれ。やっぱり彼女は爆弾などでは、
「ご本人ですか、よかった! どうも私は貴方のお父様に作られた人型超高性能爆弾、佐川はぜりです」
 爆弾だった。しかも超高性能の付く。


83 :No.20 時間対理性対彼女対俺 2/4 ◇zpR5a0jQpA:07/05/28 00:04:04 ID:PNLIE/O+
 玄関の前で立ち話もなんなので、とりあえず爆弾だろうとなんだろうと、リビングに移動することにした。
「それで、なんでその超高性能爆弾の佐川はぜりさんが俺の家にやってきたんでしょうか」
 恐らく機械であろう女の子には何を出すべきか。オイルか日本茶で非常に迷ったが、とりあえず日本茶を振舞うことにした。
「あ、どうもすいません……ふぅ、美味しいです。ここに来た理由ですか? とりあえず博士から貴方を殺すようにと命令
されております」
 親父が無茶苦茶な人間なのは今に始まったことではない。焦らずに、彼女が言う殺すという意味をじっくりと考える。
 深呼吸をひとつして、改めて彼女を見る。
 まず、服装が我が家に似つかわしくない。謎のフリフリドレス。そんな高価そうなドレスを着て、本当に爆発する気があるの
かどうかも疑わしい。というか違和感だらけなのでとりあえず着替えて欲しい。
 容姿は改めて見直しても、やはり可愛い。目がぱっちりで鼻筋スッ。爆発させるのにこんな綺麗に作っていいのか親父。
「はあ、そうですか……やっぱり爆弾ということは、どかーん。ですよね?」
「はい、どかーん。ですね」
 ニッコリと言うけど、彼女はその意味を理解してるのだろうか。
「それって、はぜりさん自身も死んじゃいません?」
 そこでピタっと、悦に入ってお茶を啜っていた動きが止まる。やっぱりわかってなかったのか。
「え、死ぬ……? 私がですか」
「そ、それはそうでしょう。だって貴方自身が爆発するわけですから……」
 途端、気まずい沈黙が部屋を支配する。多分こんな状況でも慌てない俺が異常なだけで、本当ならもっと早くにこんな空気
になっていたはずだ。
 彼女目に、じんわりと涙が浮かび始める。まずい、これは精神衛生上非常によくない、でも機械なのに涙って流れるのか。
 とにかく何か、何か状況を打開する方法はないだろうか。
「時間……そうだ、タイムリミットは?」
「え?」
「ほら、時間制限ですよ。時限爆弾ならタイムリミットがあるでしょ。親父に何か言われませんでした?」
 オイルか涙かわからないが目から溢れ出る何かを拭って、はぜりさんは唸りながら頭を左右に揺らしている。空気をなんとか
するための質問だったけど、大事な質問だ。時間がわかれば対策の練りようもある。
 しかし、さっきの様子から見ると解体は無理だろう。ていうか普通の機械だろうとそんな真似できやしない。
「思い出しました……確か博士がタイムリミットは五月二十日の十七時だって言ってました! そこで我慢できなくなるって」
 我慢できなくなるという言い回しに引っかかりつつも時計を見ると、十五時二十三分。つまり残り時間は、
「あと一時間半しかないじゃん……」 

84 :No.20 時間対理性対彼女対俺 3/4 ◇zpR5a0jQpA:07/05/28 00:04:19 ID:PNLIE/O+
「ど、どうしましょう。このまま無理心中ですか?」
 どうしようもこうしようもない、とりあえずこのわけのわからん状況を作り出した張本人に連絡を取るしかない。
「む、無理心中……こほん。親父に電話してみるよ。とりあえずどういうつもりなのか聞いてみる」
 我ながら手馴れたもんだと思いながら、ピッピッと素早く電話番号を押していく。
 五回目のコールでようやく親父は出た。
「おい、クソおや」
「まて、言いたいことはわかっている。はぜりのことだろう」
 随分と落ち着き払った声色であっさりと言ってくれる。こっちにとっては死活問題だというのに。
「わかってるなら単刀直入に聞く。マジで?」
「マジだよーん!」
 思いっきり怒鳴ってこいつの鼓膜をぶち破りたい衝動にかられつつも、そこはなんとかこちらが大人になって冷静に対処する。
「……だろうな。で、止める方法は」
 受話器がミシミシ言ってるけど、我ながらよくこの程度で我慢しているものだなと思う。
「えー、ないよそんなの。強いて言うならお前次第? ま、あれだ。時間制限まで我慢できたらお前の勝ち」
「は? どういう意味だよ我慢もなにも俺は爆発に耐えられるような超人なんかじゃ――」
「爆発? 何言ってんだお前。爆発するのは彼女じゃなくてお前の方だぞ」
 何をさも当たり前のように言ってるんだろうかこのマッドサイエンティストは。俺が爆発するって正気で言ってるのか。
「もしかしてお前、俺まで機械の体とか言うんじゃないだろうな」
「んなわきゃねーだろカス。お前はちゃんと俺と春香の子供だから安心しろ。それからはぜりは機械じゃなくてダッチワイフ」
 思い切り握りしめていた受話器がピシっという音をたてた。
「ほらさ、この前ダッチワイフ送ったじゃん? まさか一回も使わず返されると思ってなかったわけよー。確かに見直してみたら
確かにお世辞にも良い出来じゃないなって思ったわけ。だから今度のは改良に改良を加えた超ダッチワイフ。喋るよ!」
 それに関してはもう身を持って体験済みだ。ていうか返品されたからって改良してダッチワイフ送ってくるバカ親がどこの世界
にいるんだ。
「つまり俺が爆発するってのは……」
「そ、理性の話。殺すってのも悩殺。まあ嫌だったら五時まで頑張れよ。何もしなかったらそこで機能停止するように作ったから」
 じゃ、仕事あるからと言ってそこで電話はぷっつりと切れてしまった。ため息を一つついて受話器を置く。
 とりあえず、死ぬって心配はなさそうだ。それだけでも少し安心した。あの親父ならやりかねないと思っていた分。
 それにしても、ダッチワイフか。なるほどそれならさっきの綺麗なドレスも可愛く作られた顔も納得できる。したくもないが。
「あの……終わりました?」

85 :No.20 時間対理性対彼女対俺 4/4 ◇zpR5a0jQpA:07/05/28 00:04:36 ID:PNLIE/O+
 リビングの入り口からはぜりさんがひょっこりと顔を出す。
「ええ、なんとか。とりあえず爆発の危険はなく――って」
 全裸だった。それもとても無防備な。
「よかった……これで一安心ですね」
 いや、安心じゃない。個人的には全く安心じゃない。危険度が大幅に上昇した感じだ。
「あの、ふ、ふく……」
 口をパクパクさせつつも、なんとか服を着てくれということを伝えられたと思う。というか伝わっててくれ。
「あ、ごめんなさい。なんだか火照ってきちゃって、つい」
 ついで服を脱がれたら全国に大勢いるであろう俺含む思春期男子は持て余す性欲を彼女にぶつける他なくなってしまう。
 よし理解した。時間制限が短くになるにつれて積極的になっていく仕様か。
 時間は丁度三時半。残り一時間半。やってやろうじゃないか。
 ――三十分経過。
 死ぬ、死んでしまう。なんだこれは。服を着てくれ。おかげで椅子から絶対に立ち上がれない。
「あの……すいません。トイレ借りていいですか?」
 俺の血走った目に驚いているのか、なにやらもぞもぞとしながら聞いてくる。トイレくらい勝手に使ってくれて全然構わない
のに。ところで運動もしてないのになんでそんなに息切れしてるんだろうか。
「え、ああどうぞ……」
 その後、トイレから聞こえてくる嬌声と理性が三十分延々戦い続けた。現在の時刻、四時半。
 ――十五分経過。
「あの……んっ、お風呂を……」
 お互いもう息も絶え絶えだ。正直どちらがいつ襲い掛かってもおかしくない状況。いや、彼女に限ってそれは――お風呂?
「あ、はい……トイレのすぐ隣に」
 フラフラになりながら風呂場へ向かうのを確認すると、腹筋と腕立てを二百回はやってやった。現在の時刻四時四十五分。
 ――十分経過。
 風呂場の方で徐々に大きくなっていく喘ぎ声を延々と聴き続け、俺はもう、我慢するのをやめた。
 十六時五十七分、佐川晃、陥落。どうやら明日の朝日は黄色く見えそうだ。詳しい説明書は後日親父に請求するとしよう。



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