【 時を止める少女 】
◆K0pP32gnP6




23 :No.07 時を止める少女 1/4 ◇K0pP32gnP6:07/05/27 17:46:34 ID:xMt+xUox
 日曜の昼下がり。
 店内にはアニメやゲームのキャラクターのフィギュアやら、ライトノベル、その他、さ
まざまなグッズが所狭しと並んでいた。
 そんな店の雰囲気とは全く似つかわしくないナイフを持った男。
 アニメソングのBGMがかかる中、男は震えた声でレジにいる店員に言う。
「か、か、金を出せっ!」
 店員と、客たちは一斉にその男の方を見た。
                   
 ナイフ男の二メートル程後ろに、ロボットアニメのDVDを持った女子高校生が立って
いる。この店には似つかわしくない、ギャル風の女子高生。
 彼女は、二つの事を懸念していた。
 一つは、ナイフ男に刺されたらどうしよう、という事。
 もう一つは、自分がアニオタだと、これを機に知られたらどうしよう、という事。
 どちらかと言うと、後者の方が彼女にとっては重大な事だった。

 店員は目を丸くして黙ってナイフの男を見ていた。
 まさか、こんなキャラクターグッズ専門店に強盗が入ってくるなんて、思ってもいなか
った。
 しかも、閉店までかなりの時間がある。普通、強盗は閉店間際、レジに金が一番ある時
間を狙うのではないだろうか?
 ふと、銀行強盗に見せかけた怨恨殺人のニュースを店員は思い出した。
「俺、何か恨みを買うようなことしたか?」
 小声で呟き、ナイフ男の顔をじっと見つめる。
 見覚えの無い顔だった。


24 :No.07 時を止める少女 2/4 ◇K0pP32gnP6:07/05/27 17:46:50 ID:xMt+xUox
 男は、ナイフを持った自分の手が微かに震えるのを感じていた。
 働けど、働けど、借金は無くならない。それなのに、オタクという奴等ときたら、どこ
から金が出てくるのか知らないが、何の役にも立たないフィギュアやらDVDやらを金に
糸目をつけずに買う。なぜ俺にはその金が回ってこない?
 だからここを狙った。何故か金持ちのオタクが集まってる店なんだから売り上げも多い
はず。
 そんな思いで、男はこの店にやってきた。
「早く金をだせよぉ!!」
 じっと男の顔を眺めつづける店員に苛立った男は、大声でそう叫んだ。

 店員は男の大声で我に返った。
 そして確信する。こいつは怨恨殺人犯ではない、ただの考えの浅い馬鹿な強盗。
 しかし、そっちのほうが怖いかもしれない。
 大人しく金を渡そう。
 店員がレジを開こうと手をかけた瞬間だった。
 さっきの男の叫び声に負けないくらいの大声が、店内に響いた。

 ナイフの男まで二メートル、店員まで三メートル。
 現場から微妙な距離で女子高生は事件を眺めていた。
 店員がレジからお金を出して金を渡そうとしている様子を見て、彼女は思った。
 このまま男が金を持ち逃げすれば、強盗成立。確実にわたしも事件に巻き込まれる。警
察に話を聞かれる。まず確実に親にわたしがアニオタだとバレる。
 人の口に戸は立てれない。友達にバレるのも時間の問題か。
 ごめんなさい、こんなの時どうすればいいのかわたし分らないの。
 笑えばいいと思うよ。
 よくない。笑ってすんだら警察はいらない。いや、笑わなくても今は警察いらない。
 だんだん、現実逃避気味になりながら、彼女は店の陳列棚を眺めた。
 奇妙な冒険、という文字が目に付いた。
 ここは一つ、冒険をしてみよう。彼女は大声で叫んだ。
「待って! 店員。そんな男に金を渡すなっ!! わたしの能力で何とかするから!!」

25 :No.07 時を止める少女 3/4 ◇K0pP32gnP6:07/05/27 17:47:06 ID:xMt+xUox
 ナイフ男を含めた、店内の人間全員の視線が女子高生に集まった。
 この店には似つかわしくない、コスプレではないセーラー服に茶髪、細身の体系。
 強盗と相まって、店内は異次元空間と化していた。
 現実感の無い、空気。
「今から、えっと……そうだ、そこのメガネ!」
 女子高生は少し離れたところにいる太身のメガネを指差した。全員の視線が移る。
「時間よ止まれっ!」
 メガネの男は、不自然な体勢でその場に静止した。
 ナイフ男は驚いたように眉をひそめた。
「次はあんた以外の時間と、あんたの時間を半分だけ止める!」
 堂々とした口調で女子高生は言う。
「時間を半分止める?」
 意味が分らない、という表情でナイフ男は言った。
「そ、そうよ。半分止めるの。止まった状態から、少しでも体を動かせば……そ、その瞬
間、あんたの体は時空の歪みに耐え切れなくなって消滅するわ!!」
 店内に、冷たい空気が流れた。数秒の沈黙。
 その沈黙に耐え切れなくなったように、女子高生が叫ぶ
「半径二十メートル以内の時間情報の凍結を申請する!」
 ちょうど、店内で流れていたアニメのプシュー、という間抜けな効果音が流れた。
 次の瞬間、動いているのは、女子高生だけだった。

 おかしい。何故全員が動きを止めた? まさか本当に魔法か何かか?いや、それはない。
 打ち合わせしていたのか? それも無いだろう。俺が来ることを予言してた事になる。
 ナイフの男は混乱していた。
 もし、魔法なら、俺は動けば消滅するらしい。そんな馬鹿な。しかし、事実、店員と客
は止まった。どうするのが最善だろうか。
 いろいろ考えてると、店に並んでいた漫画のタイトルが目に付いた。奇妙な冒険。
 女子高生は携帯を取り出そうとしている。このまま動かなければ、確実に逮捕される。
 冒険してみよう。
 ナイフ男は、意を決して女子高生の方に一歩足を出した。

26 :No.07 時を止める少女 4/4 ◇K0pP32gnP6:07/05/27 17:47:25 ID:xMt+xUox

 店員も、客も、ノリの良い人たちで助かった。
 ハッタリのお陰で、男も動きを止めたようだ。後は警察に電話するだけだ。
 女子高生は、カバンの中の携帯電話を探す。
 その時、男が一歩、彼女に近づいた。
「なんだ? 消滅? 笑わせるな。大人をからかうもんじゃない」
 さらに一歩近づき、男はナイフを振り上げた。
 彼女は思った。
 ああ、これなら下手な冒険はしないで、素直にアニオタバレしてればよかった。

 男は自ら振り上げたナイフを、振り下ろすのを一瞬ためらった。
 ここで振り下ろせば、もう完全に取り返しがつかない。時間は戻らないのだから。
 しかし……。
 男の首に何かが巻きついた。デカイ蛇のような太さのそれは、ギリギリと男の首を絞め
る。頭に血が溜まる感じがする。意識が遠のき、ナイフを落としてしまう。

 ナイフ男が動くのを見た店員は、出来るだけ気づかれない様に男の背後に回りこんだ。
 そして、スリーパーホールド。
 店員は自分の普段の三倍はあろうかという腕力に驚いた。
 男の体重が、急に重くなった。気絶したようだ。
 自分のひざの力が抜けるのを、店員は感じた。


 数ヵ月後、女子高生の部屋は、アニメグッズ一色になっていた。
 結局、事件を解決し、警察に大々的に表彰されたため、周りに彼女がアニオタだという
のは、バレた。そのため、もうコソコソする必要はなくなったのだ。
 もしかしたら、自分で解決したことで余計に噂が広まったかもしれない。
「逆に新しい友達も増えたし?」
 今にも泣きそうな声で、彼女は言うのだった。



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