537 名前: ◆GPM/18Mi1A :2006/05/01(月) 00:12:26.81 ID:kLTpsgD40
題名「俺と彼女と……」
一つ、二つ、三つ、四つ……。
目の前に並べられたいくつものそれ。
いつのころから俺はこれがなければ生きていけない身体になってしまった。
親友は俺に言う、
「そうやってすがってると取り返しの付かないことになるぞ」
幼馴染の彼女は俺に言う、
「貴方がこうなってしまったのは私のせいだから……私が絶対に……っ!」
そして、両親が俺に言う、
「お前もいい年なんだからそんなことやめて、あの子のこと真剣に考えてみたらどうだ」
皆、俺のために真剣に心配してくれているのは嫌というほどわかる。
だけど、俺にはそれがかえってのめりこんでしまう原因となっていた。
今日も一つを、まるで愛撫するような手つきで触れる。
細く滑らかな肌触り、小さいながらも艶かしいくびれ。
触れ合ったそこから伝わる冷たさが、俺の熱に負けて温かみを帯びてゆく。
ああ、こんなにすばらしいものがこの世に存在していたなんて……。
あのとき、出会ってその姿を認めた瞬間、俺の世界が変わった。
よく運命の出会いとか、電気が走ったとかいうが、そんなもの俺にとってはくだらない妄想の産物だった。
そう、これは必然。
俺たちの出会いは絶対的なものだ。
そしてその通り、俺たちは出会った。
今日もまた、新しいそれを手に入れて俺は一人、甘美のときを過ごす。
開いた口からは止め処なく雫が流れ、こぼれるような宝石に俺の姿だけが映る。
そして俺たちは一つに解け合い、どこまでも深い繋がりを得てゆく。
538 名前: ◆GPM/18Mi1A :2006/05/01(月) 00:13:01.50 ID:kLTpsgD40
幼馴染の彼女は言う、
「どうしてっ、私を見てよ……そんな偽者じゃない、生きている私を見てよ!」
そんな彼女に俺は言う、
「お前のことは大切だと、思ってる。だけど……俺にはこれを手放すことなんて、できない」
いつのころからだったか一緒にいるのが当たり前になっていた彼女。
それは今でも変わらない。ただ俺の隣にいるのがもう一つ、増えただけだ。
彼女の琥珀のような瞳が徐々に潤んでゆく。
そんな様子に俺は、なぜか言いようのない怒りを覚えていた。
「大体、最初俺に教えたのは他ならないお前だろうが!」
ビクリと身を震わせ、俯く彼女。
「お前が……俺に勧めるから、俺はその通りにしたんだ。それの何が悪いって言うんだ!」
俯いたその肩がふるふると小刻みに震えていた。
だけど、今の俺には彼女を慰めてやることも、その身を抱きしめてやることもできなかった。
「……い…………しょ」
小さく、聞き取れないほどの声で彼女が言う。
「俺はお前の望むようにしたんだ」
そう、それが俺とこいつとの出会いであり、絆なんだ。
「だから、お前も俺と一緒に――」
俺の世界がぐるりと一回転した。
539 名前: ◆GPM/18Mi1A :2006/05/01(月) 00:13:19.03 ID:kLTpsgD40
「悪いに決まってるでしょうがっ!」
見事なハイキックが決まり、気づいたときには俺は床に突っ伏していた。
「いってぇなっ、何すんだよ!」
「うるさい! こんなしょうもないもんに何万も無駄金使うなっ!」
「俺の勝手だろうが!」
ドゲシッ。
再び脳天に一撃。ひよこのようなものが俺の頭上を飛び交う。
「だーまーれーっ! 大事な結婚資金まで使い込みやがって……来月なのにどーすんのよ!」
「それはおまっ……なんとかなりませんか?」
ガスッ。
あぁ、だんだん意識が……。
「ならん! たかが"ビン"に私の幸せ持ってかれてたまるかぁー!」
「いやそこを……ってちょまっ……」
俺が最後に見たものは、振り下ろされた見事なまでの"かかと落とし"だった。
ドガァン!
そういうのを依存症っていうんだと後で親友に言われた。
そのときの親友の顔と言葉が忘れられない。
「たかがビンに何やってんだよ、お前は……。彼女本気で怒ってただろ? まったくフォローする身にもなれっての」
そう言って呆れる親友に俺は乾いた笑いを上げるしかなかった。
でも、いいと思うんだよなぁ。
あの肌触り、くびれ。それにコロンコロンって綺麗な音でなるビー玉。
みんなもそう思うだろ?
この――ラムネのビン。
完。